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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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アレックスの仕事

 夏休み中、他のパーティーに出席する予定もなく、家で暇にしていると父さんが声をかけてきた。


 「アレックスくんがいる大国③へ行ってみないか?」

 暇だからいいよ、と軽く返事をしたら、かなり前から準備してあったようでたくさんの荷物を持たされた。


 「大国③は魔物が増えていてね、ケントも冒険者と一緒に魔物を狩ってほしいんだ」

 父さんが浄化すればいいのでは?


 「ギルドには登録しておいたよ、Fランクのカードと剣とナイフね、その魔剣は役に立つと思うんだ」

 カードにはFランク、ケント、魔法使いと書かれていて、荷物にはなぜかとても立派な魔剣まで入っている。


 「夏休みだからアレックスくんのチームで楽しんできてね」

 いつの間に冒険者になってたのかな、このカードってちょっと行ってもらってこれるものなの?アレックスのチームって何だろう、魔剣で戦うなんて命がけだよね、とうさーん!


 N国の転移魔法陣に入る前、父さんはいい笑顔で手を振っていたが、わけがわからない。


 大国③の転移施設ではアレックスが待っていて、そのまま冒険者の皆さんと一緒に砂漠へ向かった。


 砂嵐の中で待機しながら考える、ほんの少し前まで自宅で昼寝しながら冷たい飲み物を持ってこようと思っていたのが、どうしてこうなったのだろう?焼けつくように暑い。


 しばらくすると、どわーっ、と何か巨大な生物が砂の中から飛びだしてきて、アレックスが斬りかかった。

 

 いつものアレックスではない、これが本来の姿なのだろう、巨大なミミズのような魔物の前に立ち、異常なくらいに切れ味のいい剣でその頭を切り落として、素早く飛び退いた。


 のたうち回るように砂から出てくる魔物をアレックスと冒険者の皆さんが斬りつけているが、わたしの魔剣は重いから持ち上げるだけで精一杯だ。


 役に立たないから後方に避難して、治癒や強化の魔法を使っている。

 頭の上からは砂が降ってくるけど、砂まみれになりたくないからそこだけ結界で防ごうか、でもやっぱりここはチームだから砂くらいかぶっておいたほうがいいのか、そんなことばかり考えていた。


 申し訳ないが、一度も魔剣を使わないうちに魔物がばらばらに刻まれて、依頼された仕事が完了してしまった。


 「坊っちゃんいい魔剣持ってるな、それはかなり高価な魔剣だぞ、大事にしなよ」

 魔物に飛び乗ったりしていた冒険者のおじさんが教えてくれた。

 大事にはしているが、いらないんじゃないかな。


 アレックスが圧倒的に強かったおかげで、午後から出発して夕食前にはギルドに戻って来た。

 冒険者の皆さんと一緒にカフェでお茶を飲みながら、アレックスが報酬を持ってくるのを待っているがなかなか帰ってこない。


 「おい坊っちゃん、夕飯でも先に食おうぜ、いつもこうだ、仕事より後の方が時間がかかる」

 冒険者のリーダーが、ニヤッと笑ってメニューを指さすので、

 「じゃあ鳥定食で」

と一番上のメニューをお願いした。


 アレックスがどうしているのか気になったが、かなりお腹が空いている。

 鳥をこんがり焼いた定食は、あつあつで肉汁がじゅわっと出てきてかなりおいしい、大国③の名物料理だと教えてもらった。


 しばらく待っているうちにわかったことだけど、アレックスはこの国で炎の騎士とよばれていた、窓の外には町中の女の子がいるかと思うほどの声が響いていて、そうよんでいる。

 すごく人気があるがクールな対応だ、家族にいわれているのかアレックスはおとなしくしている。

 本性がしれたら解決するのに、女の子たちの真ん中で困った顔をしているのが腹立たしい。


 「ずいぶん人気があるんだな」


 「見てたなら来いよ、本当にその部外者ずらは腹が立つな」


 食事を終える頃にやっと報酬とアレックスが帰ってきたが、いつも悪評ばかりで人気がないわたしから助けてもらえるわけがないだろう。


 不満そうなアレックスからお金をもらって帰ろうとすると、奥から声がかかった。


 「ケント様、いらっしゃいますか、こちらへ来てください」

 まわりの人たちがぎょっとする中、はい、と返事をしたら奥へ連れていかれた。

 これから食事をするアレックスとは手を振って別れた。


 階段を上がり重そうな奥の扉を開けてもらうと、いつもの笑顔の父さんが待っていた、なんでここにいるんだろう。


 「ケント、その魔剣は使いやすかった?」

 

 「重くて使わなかった」


 「じゃあまた別なのを用意するね」

 父さんはがっかりした顔をしていたが、あっさり別なのを用意するようだ。

 でもその魔剣は高価らしいですよ、薬学科には必要ないし。

 もしかして買ったのではなくて、N国の品物を試しに使わせたかっただけなのかな。


 その後何をするのかと思ったら、手を引かれて転移した先はさっき魔物を倒したばかりの砂漠だった。

 やっぱり魔剣の試し斬りをしなくちゃいけないのかと思っていると、


 「ケント、ここを全力で浄化してみないか?」

と父さんが言う。


 父さんはわたしに全力でって、正気で言ってるのかな?

 わたしが普通に力を使ったら、困ったことになるでしょう。


 それでもいいならと、頭の上に魔力を集めると、もの凄い勢いで大きな魔力が上空にうねうねと集まってくる、わたしは化け物だ。

 

 巨大な光の渦が、ぐるぐると勢いよく回り始めた。





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