精霊の契約
「ケント、大丈夫か!」
父さんが顔をのぞき込んできいてきた。ぺたぺたと顔や体をさわって確認してから、ぎゅっと抱きしめてくる。
元々父さんは異世界人の母さんを気づかっていたが、この事件のあとは母さんにそっくりで体が不安定なわたしのことも心配している。
わたしはこの世界で生まれたはずなのに、父さんと一緒でなければどこへも行かせてもらえなくなり、学院も休学していて異常なくらいいつも側にいることになった。
「父さん、宰相補佐なんでしょう、子供と一緒にいてもいいの?」
「誰にきいたの?心配しなくていいよ、忙しくないから」
「そんな事いうから今まで雑用係だと思ってた」
雑用係だよケントより大事な仕事じゃない、なんていうけど、毎日一緒にいるからいろんな事がわかってきた、今までわたしは父さんの仕事の内容が全くみえていなかったようだ。
例えば大国③の大砂漠を浄化する仕事を間近でみると、その迫力に圧倒される。遠見で父さんだけみていたときは、なんとなく手を動かした姿で魔法を使ったことしかわからなかったから、大したことじゃないと勝手に思っていたのに、その魔法の規模の大きさは見たこともきいたこともないほどだった。
父さんは特別な魔術師なのだ、と今になってやっとわかった。
「父さんすごい、こんなに大きな魔法は初めてみたよ」
顔をみるといつもの強そうにはみえない父さんだけど。
「そうか、連れてきてよかった、たまたまできることがこれだっただけで、大したことじゃない。ケントはもっと大きな魔法が使えるけど、望まれたらできることだけやればいい」
自分で使える魔法を、確実に必要とされる所で使うだけの簡単な仕事だ、と父さんはいう。
「それよりケントは精霊に気に入られているから大変だ、ケントの体が消えたり現れたりするうちは不安でどこへも行かせられないよ」
そう言われてびっくりした、気づかなかったけどまだ消えたり現れたりしてるんですかね?不思議だ。
精霊にケントを連れて行かなくてもいいと思わせることと、ケントがこちらにどうしても居たいと思うことが大切だ、とイーリがいう。
「ケントを繋ぎ留める重しが必要なんだと思う、精霊が連れて行けないくらいの」
重し…石?どうやって頼むのが一番いいのかわからないけど、早くなんとかしようとして自分で動き回ってみた。
家で一番大きな桜の木には、古くからこの島に住む精霊がいるから、そこへ夜中にこっそり行って大きな石を置いて力一杯魔力を注いだ。
「お願い、この石をあげるからわたしを連れて行かないと約束して」
約束してくれたかどうかわからないまま重しの石を置いてきた。
その他にも、王都で買った青い石のついたネックレスに魔力を注ぎ、いつも畑の側にいる風の精霊に渡した。
「お願い、この石をあげるから、わたしが連れて行かれないように見守って」
風の精霊はうれしそうにネックレスを受け取ってくれた。約束してくれたかどうかはわからないけど、とりあえず重しの石を渡せたと思っている。
こんなことくらいしか思いつかない、一年でいなくなる植物の妖精には負担をかけたくないから、後は自分の部屋に体を縛りつけてみようかと思ってみたが、動けなくて不便だからやめた。
翌朝父さんと母さんが、五つのきれいな色の石が付いた指輪をくれた。二つの石には父さんと母さんの魔力が込められていた。
「ケントの家族の指輪だよ、あと三つの石にエリーとショーンとミリーの魔力を入れてもらいなさい」
そうか、家の子はみんな無駄に魔力があるからお願いしてみるのもいいかもしれない。
すぐに子供部屋へ行ってお願いしてみた。
「わたしのために魔力を入れてほしい、家族の力が必要で、これで体が安定するかもしれないんだ」
精一杯愛想よく言ったつもりだったが、エリーとショーンは顔を引きつらせて動かない、ちびっ子のミリーだけがすぐにいいよ、と言って魔力を入れてくれた、ありがとう。
「お兄様…」
そんな呼ばれ方は嫌だが、エリーが泣きながら抱きついてきた、なんで泣く?
「やっと私たちの手が届くところにいてくださるのですね、もう近くに行ってもいいんですか?大好きです、ケントお兄様」
妹はどうなっているんだろう?ショーンも涙目だけど抱きつくのはやめてね。
「魔力量が多くてっ、特別なお兄様だからっ、私たちとは違ってっ、特別で勝手に干渉したらいけないって、ううっ」
泣いてるけど、そんな変な話を誰にきいてきたの?
「お母様と同じで魂が安定しないからって、わ、私もずっとずっと我慢していたんですっ、もういいんですよね?」
わーんと泣きだしたエリーは、ずっと冷たくにらんでいたのではなかった、今までの険悪さは何だったのかな、変な勘違いがあほらしい。
「今度からは直接本人にききなさい」
優しく言ってみたが返事がない、まだ石に魔力を入れてくれてないんだけど。




