表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の塔の魔術師   作者: ちゃい
83/106

アレックス

 それは降って湧いた災難だった。

 白の塔で仲良し三人組が話題になって、その中に家の子たちも入れてあげたいと思った親がいた。


 それがユーシス様だったから、誰も反対する人はいなかった。

 ユーシス様は貴族が極まるとこんなに美しい人になるのか、と思わせる優雅さと美しさがある人で、五人の子供たちもそっくりだ。

 長男のクリストファーと次男のアレックスが大国③から騎士科へ留学してきたが、五人も兄弟がいれば顔はそっくりでも阿呆な者が一人くらいできることがある、アレックスがそれだった。


 騎士科に魔法騎士として留学してきたクリストファーは、まじめで立派な騎士としてすでに完成されているような、どこへ出してもはずかしくない人だ。

 ローザを含む騎士科の女の子たちは初日からメロメロで、騎士科がおかしなことになっているらしい。


 そのせいなのかわからないが、アレックスは薬学科にきた。


 初日に教室に入ってくるとアレックスをみた女の子たちが絶叫して、倒れた人がいるのかと思うほどだった。

 

 だから紹介されたアレックスが、阿呆な挨拶をしたことを誰も知らない。生徒会の役員だからと、アレックスの世話をするように教師がわたしに命令したが、悪い予感しかなくてものすごく嫌だ。


 休み時間、美しい銀色の髪と素敵な深い青色の瞳がついているアレックスのまわりには、人だかりができて近づけないから挨拶もできなかった。


 その日の昼休みに、優しくて抵抗しないフィルさんと同じだと勘違いした女の子の群れに、アレックスという肉食獣が一匹放たれた。追いかけるつもりが逆に追われてみて気づいたと思う、こいつはやばい奴だ、と。


 別の意味で追われた女の子が絶叫した、追われて驚く被害者は十数名にも上り、呆然としてみていたわたしとエリオットは、担当教師に呼び出されて説教された。

 

 それ以来昼休みと放課後はアレックスの捕獲が仕事になった、これはなんという種類の生物だろうか?

 本当に顔以外には取り柄のない阿呆で、今まで祖国でクリストファーはこれをどう扱ってきたか、家族の中でどんな立ち位置なのか、誰が一緒にいたのか知りたい。


 そのアレックスがきいてきた。

 「ケント、この国では女の子と遊べる、ときいてきたけどどうなってるの?」

 それは国ではなくて人に問題があってね。


 クリストファーは何が起こっても、一切見向きもせずに熱心に訓練していたが、一週間でアレックスを見放して帰国した。何のために留学してきたのか全くわからないが、せめてこれを連れて帰ってほしかった。


 それでもアレックスは薬学科に居座って帰る気配がない、最近では顔を見るだけでも腹立たしい。

 次のダンスパーティーについて相談しているエリオットとフィルさんを、おとなしくみているアレックスをわたしがにらみつけている。


 「なんでこんなに大変なのに、ダンスパーティーなんてやらなきゃいけないんだろう?」

 みんなで大変の原因をみながら考える。


 「ダンスパーティーが大変?俺はダンスが得意だよ」

 アレックスがそう言うと、悩んでいたフィルさんが目を見開いて笑った。


 「ケント、アレックスを利用しよう」


 そこからさまざまな案がでて、前回よりもダンスパーティーらしく大勢の人が参加できるようにしようと考えた。

 わたしの幻術が踊っていたところを本当の人に変えて、フィルさんとエリオットだけではなく、生徒会の役員やクラス委員を配置して、番号札で順番待ちしなくていいくらい大勢でくるくるまわしてみることになった。


 アレックスは練習会からうまく踊れない人たちの相手をして、当日も踊れずに困っている人をすべて引き受けてくれるそうだ、おかげでわたしの仕事がなくなった。

 

 いろいろ相談して、数カ月後の練習会では当日と同じくらいの人を配置して、実際に踊りながら人をまわしてみた。多少混乱したが、最後には何重もの円がくるくるまわって楽しいダンスができたようだ。


 自分では何もしてないのに疲れたから、練習会を終えたホールから拍手と歓声が響くのをききながら、一人で宿舎に戻って少し眠った。


 冷えて目が覚めると夜になっていた、何時だろう、家に帰らなきゃ。

 制服のままうつぶせになってソファに倒れ込んだようだ、暗闇の中で立ち上がって、転移魔法陣へ歩いて行こうとするがうまくいかない。


 まるで鏡の中の世界のように、向こう側とこちら側に膜があって行き来できない。

 家の畑にくる風の精霊によく似た誰かが、すぐ後ろにいる。


 「ケント、人の世界は生きにくいだろう?」

 透き通るように美しい精霊が話しかけてきた。

 心の中が満たされるようでいて、体が全力で拒否している。帰らなきゃ、帰りたい、と念じる、その境界を破って向こう側へ行くんだ。


 じたばたしてしばらくすると、あきらめたような声がした。

 「そんなに力を使わないで、帰してあげるよ」

 いきなりぐにゃり、と足元がゆがんで、元いたソファに戻って来た。


 「ケント!」

 顔を上げると父さんがいて、わたしは少しの間ここにいただけなのに一週間も行方不明だったと知らされた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ