ダンス
「エリオットはダンスできるの?」
「無理」
ダンスの練習会に行くけど、主催者の二人はダンスが踊れないからどうしようかと思っていた。
放課後の練習会では、きれいにしたダンスホールの真ん中でフィルさんとローザがダンスを踊った。
「きゃあ、すてき!」
歓声がうるさいほどの女の子たちが群がっていて前に進めないし、エリオットも女の子の群れの後ろで呆然としていた。
しばらく様子をみたがどうすることもできないので、働いてくれているフィルさんとローザに任せて、感謝しながら図書館へ行くことにした。エリオットも人気があるから帰れないようだ。
久しぶりに一人になったから、妖精の本ばかり集めて読んでみた。イーリの資料の方がくわしいけど、知らないことがあるかもしれないと期待したが、うーん、どれも似たような説明しかない。
なんて考えていたら、フィルさんとローザが目の前にいるのに、気づくのが遅れた。
「何のつもりだ!ケント、あれは何の会だったのかときいているんだ」
フィルさんが怒っている。
「ローザ、まずかった?」
「ええ、兄にとって一番苦手な状況でしたから」
「ケント、どうしていつも要領よく逃げられるんだ?どうやってそれだけの魔力量を隠して楽々と暮らしていられる?今日なぜこの時間ここにいて本を読んでいられるんだ、なんでお前ばかり」
「兄さん、ケントさんのせいじゃないから」
「あの、お二人がお綺麗で目立つのが原因だと思われー」
「そんなこと二度というなよ、どれだけ無駄な我慢をさせられているか、なんでケントが目立たないんだ!」
「いや、見た目が地味で悪評しかないので人気もなくて」
なんだか、自分でこんなこといってる方がかわいそうな気がする。
「なんでそんなに立ち回りがうまいんだ、普通は立場が逆だろう?いつだって特別なのはケントだ」
全然ほめられてない、うらやましがられる要素がないんだけど。
「ローザ、わからなくなってきた」
フィルさんに落ち着いてもらうため、生徒会の温室に戻ってローザにお茶をいれてもらった。
なぜ二人が来たかというと練習会の途中でエリオットが、ケントがいない、と叫んだそうだ。
「エリオット、余計な事を」
後で文句をいってやろう。
それをきいたフィルさんが逃げ出したので、ローザがとっさに、エリオットが順番に踊りますよー、並んでくださーい、と叫んで放置してきたという。
えー、エリオット!踊れないのに、でもまだ終わってないからどうなった?
「ローザ、わたしとエリオットは踊れないよ?」
そうきくとローザがびっくりして会場へ走って行った。
「それでフィルさんは、ダンスパーティーで女の子に囲まれるのがお嫌いだと、でも開催される限りこの状況は変わりませんよ」
「ケントが目立てよ」
うらみがましい目で見られてもね、本当に騒がれるのが嫌なんだな。
「じゃあ、いっそこの状況を利用して何かします?」
といってみたがフィルさんの反応はない、しばらくするとエリオットが帰って来た。
「もうこんなにぐちゃぐちゃにされるの嫌、フィルさんの気持ちがわかったよ」
エリオットまでそんなこというなんて、どうされちゃったのかな?悪評がない人はうらやましいけど大変だね。
「ケント、笑うな!」
その時思いついた事をハリエットさんたちに相談すると、おもしろいわね、とほめてくれたからエリオットと少し準備をした。
全くダンスが踊れないままダンスパーティー当日になったが、もちろん対策はしてある。ここまで準備したのなら後はケントに任せる、とハリエットさんにいわれたので、好きなようにさせてもらった。
「はい、ここが一番後ろですよー、二列に並んでくださーい」
並んだ人に番号札を渡している、今日の仕事はこれだ。
会場内はまず中央に普通のペアが踊る場所があり、その周りをぐるりと入り口から出口までフィルさんとローザの幻術が踊っている。
幻術を踊らせるために、一応踊り方は習った。
番号順に入り口から幻術と踊っていくと、一番奥に本物のフィルさんとローザがいるから、一度だけ本当に踊れる。
もう一度踊りたければまた並ぶことになる、あまりの列にひるんであきらめる人もいるが、友だちと待ってる時間もおしゃべりしながら楽しく並ぶ人もいる。
これならば、公平に騒ぐことなくフィルさんと踊ることになるので、本人も納得した。
ついでに一番最後にエリオットも入れておいた、なぜかこちらの方が文句をいわれたが気にしない、だってほとんどはわたしがつくった幻術が相手になっている。
夕方になってみんな疲れてきたようだから、札配りをやめた。急にやる事がなくなって、行くところもないから図書館に来ている。
まだずいぶん長い列ができていたから、しばらく誰も来ないな、そう思ったところからの意識がない。
あれ、宿舎に帰って寝てたっけ?と思ったが寝ているソファも家具も違う、同じのは部屋のつくりだけだ。
「起きたかい?」
そう声をかけてきたのがフィルさんでびっくりした。
「ここどこ?」
「ケントが簡単に逃げられない場所だ」
フィルさんがにやりと笑うから、寒けがした。




