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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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フィル

 「兄は昔からケントさんを意識してました」

 ローザの話をきいている。フィルさんが魔力量のせいで小学校でいじめられたこと、魔術学校に転校したとたん周りの人たちから急にちやほやされ始めるから、どんなにほめられても周りの人たちを信用できないこと。


 「唯一自分をわかってくれそうな、自分より魔力量がある年下の男の子が、その子のためにできた魔術学校には来ないで小学校でうまくやっているから、今まで自分が受けた痛みがうまくやれば避けられたもののようで、能力がないといわれた気がしているんです」

 その魔術学校ができるまでには、父親と考え方の違いでかなり険悪になり小学校に通わなくなったりして、家族としてみると、これ以上がんばりようのないくらい耐えてきたそうだ。


 「それでもケントさんのせいではないのに勝手に意識して、他の人がうまくやったからって恨むなんてまちがっています」

 ひどい目にあったことはわかるがそれでもまちがっている、恨んでいるわたしにいわれたくないだろうけど、まちがったことですらかわいそうだ。


 もっと冷静に考えると、周りの人たちと対立したせいで魔力量を制御することや、普通に暮らすことの大切さを子供のうちに知る機会を失ったのは惜しかった、小学校に来なかったせいでわたしとわかり合う機会もなくなった。


 いくつかの選択があって運命が変わったのが今なら、おかしなことにわたしの評判は悪くなり、フィルさんの評判はよくなった、なんでこうなるんだろう?


 「決してあってはならないことですが、兄は一度ケントさんに攻撃魔法を使いました。幻術と結界を張る攻撃でしたから、ケントさんは軽く避けて重い罪にはならないものでしたが、ユーリ宰相補佐がかばってくれなければ犯罪者になるところでした、本当は感謝しているんです」

 そんな事があった、魔術学校が嫌いな理由の一つだった。


 「でもまだケントさんに対する気持ちは複雑みたい、私にはよくわからないけど」

 ローザが兄で男の子ならもっと簡単そうだね、なんて笑って話は終わり、しばらくフィルさんに会うことはなかった。


 数カ月たって薬学科と生徒会にも慣れてきたある昼休みに、エリオットがびっくりした顔をして走りながら近寄ってきた。


 「ケント、大変だ!」

 ものすごく大変らしくて、小声なのに叫んでいるのがわかる。


 「ダンスを踊ったことある?」

 なんだか面倒なことになった。


 「私たちが生徒会主催のダンスパーティーを開催するらしい、ケントも意味がわからないな、私もそうだ、どうしたらいいんだろう?」

 なんだそれ、誰がそんなこといいだしたのか調べて潰してやろう。


 「伝統行事だから、やらないという選択肢はない」

 残念だ。


 王立学院には大きなダンスホールがあり、昔から生徒の親睦のためにダンスパーティーが生徒会主催で開催されてきた。これでも時代に合わせて回数が減ったというが年に二回もある。


 学院が休日の王城の図書館でエリオットと本を読んでいると、会いたくない人たちが来たので二人で顔を見合わせて下を向いた。


 「ケント、私たちに挨拶がないわ、きこえているのに返事がないわね」

 ハリエットさんから声をかけてきて、リリーさんが後ろに立った、もう逃げられない。


 「エリオットは最近ずいぶん人気があるのね、ケントはどうなの?」

 

 「エリオットみたいな人気は全くないです」


 「そう、じゃあ私たちの仕事を手伝ってもいいでしょう?」

 この二人に頼まれて断ることなんてできない。


 「ダンスパーティーの準備を手伝ってね」

 ハリエットさんとリリーさんはわたしの頭をわしわしとなでて、エリオットの肩や背中をぽんぽんとたたいて帰って行った。


 「姉さんは私たちをよく働くペットみたいだと思っているんだよ」

とエリオットから恐ろしい報告があった。


 数日前に手伝う約束をしたので、しばらく使ってなかったダンスホールに来ている。とりあえず下見に三人で来てみたが、ものすごくほこりっぽくて汚いから、掃除しないではいられない。


 急いで清掃の魔法を放って、汚くて高級感のあるカーテンをすべてきれいにする魔法も使った。するとそこには、磨かれた大きな飾り窓の光を受けて、花の模様が織り込まれた光沢のあるカーテンが輝く不思議な場所が現れた。


 まるでこの時を待っていた光の精が、誘っているかのようだった。

 

 (さあ、はじめましょう)


 光の幻術を使って、たくさんのろうそくが灯ったきらきら光るシャンデリアを五つも吊るすと、磨かれた床が輝いた。


 「ケントさん、すごくきれいだわー」

 ローザの顔も光を受けて輝いている、そうだ、ダンスをさせてみよう。


 ドレスを着たローザと正装のフィルさんを幻術でつくって、ダンスを踊らせた、よくわからないからずっとくるくる回っている。


 「ケントすごい!よくできてるよ」

 エリオットはドレスを着て踊るローザが気に入ったようだから、エリオットの前にローザを、ローザの前にはフィルさんを出して踊らせた。


 「これでダンスの練習ができそうね」


 「そうだ、フィルさんの幻術と踊るなら、大勢の女の子が練習に参加してくれるかもね」


 エリオットとローザも踊りだした、ダンスパーティーをしてみたくなって、たくさんのローザとフィルさんを出して踊らせたら、百年くらい前の優雅な舞踏会にいる気がした。

 眩しくてくらくらする、自分の力だけではない変な幻術がかかっている。でも心地よくて、正装してローザと踊るフィルさんは幸せそうに笑っているからうれしくなる。


 突然パンッ、となにかが弾けて、わたしの幻術もなにかの力も消えてしまった。


 「あれ?」

 変な格好で止まったエリオットとローザが、ぽかんとした顔でこっちを向くから、声を出して笑ってしまった。




 

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