生徒会の仕事
よく考えてみると、あの生徒会室がある森には魔法使いしか入れなかった。そして、お茶を飲んだテーブルには魔力量の測定器がついていた。
「ケントの魔力量が一番多かったから生徒会の役員に決まったんだよ、生徒会の役員は危険だから昔から魔力量で決めることになっているんだって、知らなかったという理由では断れないからね」
エリオットの話は理解できるけど、だまされた気がしている。
「これは昔から伝わる生徒会の秘密なんだけど、あの森の中には本物の魔物がでるんだよ、誰にもいわないでね」
教えないでほしい、そんなこと。
「十数年前に大量の魔物から学院と王都を守った生徒会が、王様から褒美としていただいた王家の温室だから、そこに招かれるだけでも名誉なことなんだってさ」
「あの森の中にはずっと前から魔物がいるのに、冒険者や白の塔は生徒会に任せて何もしないの?」
「今はそんなに魔物が出てこないから白の塔が学院に干渉するほどではないし、昔は冒険者から多くの負傷者がでたから、魔法使いに任せたほうが安全らしいよ」
そんなことってあるの?魔法使いだけど子供だよ。
「それだけ学院の生徒会は優秀だということになる、ケントは生徒会に入ることで悪いうわさなんて気にならなくなる、って姉さんがいってた」
「エリオットが心配してくれたからこうなったの?」
「それもある、一緒に生徒会に入ろう」
そこまでいってくれるのを断りにくいせいで、生徒会に入ることになった。
生徒会は学院のカリスマ的な存在で、生徒から尊敬されていて優秀な生徒だけが集まっている、という話をきいたときは居たたまれない気がしていたが、実は違った。
生徒会の温室にはエリオットに連れられて週に二回集まるが、ハリエットさんとリリーさんはお茶だけ飲んで帰って行く。
「それじゃ、あとは頼んだわよ、ちゃんと仕事してちょうだい」
エリオットの姉だし会長だから逆らえないが、わたしとエリオットとローザは雑用を押し付けられている。
他にも十人くらいいたが、貴族や元貴族は名誉だけが必要で雑用はしない。生徒会で集まる日に、お迎えの馬車で帰って行く姿をみかけることがある。
しかし一番問題があるのは、ローザの兄のフィルさんだった。
二年生で次期会長のフィルさんは、ジーク様の息子で魔力量が多くて、将来白の塔に入ることが決まったように思われている。ローザと同じで見た目がとても良くて、異常な人気がある。
「兄がなにかするたびに女の子が大勢ついてきて騒ぐから、表立ってなにもできないの」
あっけらかんとローザがいうけど、本人には負担になっているようでいつも暗い顔をしている。見た目は似ているが、明るいローザとは性格が逆で少し陰がある感じの人だ、それも人気になるのだからいいのか悪いのかはわからない。
「じゃあ今週の依頼書を読むよ」
エリオットが読んでいるのは生徒会に寄せられた苦情や仕事の依頼書だ、魔物が出るはずだから週に二回も集まるが、実は全く出てこない。それで普段の仕事として残ったのは、依頼書の処理だけになっている。
「フィルさんとデートさせてください!が七枚」
「妹が読むのによく書いてくるな」
「妹が読むならチャンスがある、くらいの前向きな考えらしいぞ、理解できないが小学生の時から変わらないようだ」
「もう一枚はフィルさんかエリオットでも可」
「行けよエリオット、代理で」
にやにやしてたらものすごく怒られた。最近エリオットは上司のようにわたしを怒る、少し前まであった尊敬に似た気持ちが一切感じられない、なんでかな?
エリオットが依頼書を読んで、ローザがお茶をいれて、わたしが魔法で雑用をするというチームになっている。
「校舎の彫刻が汚れていている、花壇の花が枯れていた、三階の窓に砂がたまっている…」
彫刻なんて外して片付けたらいいのに、と思いながら三階の窓とともに清掃する魔法を放った。
「ケントさん、ご苦労さまです」
ローザがお茶を運んでくれるが、この子もそれ以外はしないことを知っている、清掃は他の人の仕事らしい。
「ケント、手でやらなくていいからな」
花壇へ行こうとしたらエリオットが声をかけてきた、花壇の花は自分でやりたいから見に行くのだ。
「わかった」
花壇の日陰では日なたより花の成長が遅くて、日なたが好きな花の元気がなかった。植え替えて、手をかざすと揺れて喜んでいるのがわかったから、ちょっとだけ根を伸ばしてやる。
日陰に合う花の苗を母さんからもらってこよう、と思って立ち上がると珍しく一人でフィルさんがいた。
「本当はこの目立つ立ち位置にいるのは、ケントになるはずだった、ずっと前からわかっていることなのに、なんでそんなふうに誰にも気付かれずに逃げられるんだ?これが魔力量の差なのか」
目が合うと、恨んでいるかのようににらまれた、言っていることはわかるようでよくわからない。
(ケントー、終った?図書館で待ってるよー)
フィルさんにはにらまれていたが、頭の中にエリオットののんきな声がきこえた、そのせいで視線を外すと黙ってフィルさんが立ち去った。
図書館に入るとローザもいた。
「雑用させてすみません、でも十秒でできるなんてすばらしくて、誰だって頼んじゃいますよー、本当にありがたく思ってます」
「でもフィルさんはわたしを嫌っているみたいだ、にらまれたよ」
「あー、そうなんです、わかりましたか」
あっさり認めるところは、ローザらしくて嫌いじゃない。




