双子の兄
お昼に食堂で定食を受け取っていると、隣にいる学生が声をかけてきた。
「先生」
顔を見るとエリオットだった。
「ケント、何やってるんだ?」
隅のテーブルに二人で座り、今までのことを説明した。エリオットの新しい制服が光って見える、わたしは研究室から借りた薄汚れた白衣を着ている。
「入学式にいないから探したよ、魔術科の人たちも知らないっていうし。それでどうなったのかと思ったら、先生?」
「やめてくれ、同級生に先生なんていわれたくないよ、同じ学校からきた人が魔術科にいないから知らないんだろう」
「それがさ、騎士科で一番の女の子がケントのことを知っていたんだよ。ローザって子知ってる?ケントを探してる人がいる、ときいて教えにきてくれたんだ、魔術科で先生の助手をしていると」
「知らないな、誰?」
「ケントんちの双子と一緒に魔術学校で生徒会やってたらしいよ、その双子は魔術学校の有名人だってさ」
「知らんな、あいつらの知り合いならわたしとは無関係だ」
「なんだ仲が悪いのか?困った兄ちゃんだな」
エリオットとは食堂でまた会う約束をして別れた。結局普通の小学校からきた学生は少ない、エリオット以外には誰にも会っていない。
まず授業料が高くて、さらに各科に特化した才能が必要だ、だから普通の人が入りたくても入れない学校として知られているが、それにしても魔術学校出身者が多すぎる。
早めに研究室に戻り、午後の授業の準備をしておく。まだ初心者向けの火の玉を一個作る練習だから、バケツに水を入れたり、延焼を防ぐ結界を張ったりする。
準備が終わり生徒を待っていると、おぼっちゃま方のお帰りを待つ貴族の使用人になった気がして嫌になる。
魔術学校を卒業した貴族が多いクラスだけど、実は思っていたより魔法が使えなくてびっくりしている。生活に必要で便利な魔法以外はほとんど使っていないらしくて、火の玉、水の玉、光の玉ができれば合格になる。
島の家に帰ると、家の中だけがおかしな事になっているな、と思う。
一カ月くらい過ぎてからカーク先生に、授業の準備は魔法を使うようにいわれてはじめて、水道の水を汲んで手で運ぶ手間がかかっていた事に気付いた。ふだん魔法を使わないから、便利なことを忘れていた。
無詠唱で水を入れたり、片付けたりしていると声がかかる。
「今の、どうしたんですか?」
「何をしたんですか?」
「魔法を使えるんですね!」
とわけのわからない事もいわれる、ただの使用人だと思ってたの?
「魔術学校にいた双子のお兄さんだって本当なんですか?」
「エリーのお兄様はすごいっていつも自慢してましたよ」
エリーが?まさか、信じられないな。それならどうしていつも冷たい目で兄をみていたの?女の子ってわからない。
エリオットに女の子ってよくわからないね、といったら笑われた。
授業の片付けが早く終わって余裕ができたから、学院内を毎日少しずつ見学することにした。入学した後に案内されないまま魔術科にばかりいたから、よくわからない場所が多い。
案内図を見ながらエリオットがいる薬学科の研究棟に行ったり、医学科の大きな病院施設の中をぐるぐるまわったりしてみたから、今日は一番奥にある騎士科にきている。
森の入り口にある練習場は休み時間なのか誰もいなくて、そのまま中に入るのも悪いから帰ろうと思ったら誰かが声をかけてきた。
「こんにちは、ケントさん」
振り返るとかなり親しげな笑顔の女の子がいたが、知らない人だ。
「覚えていませんか?ローザです、三才くらいのときに城内で一度会ったことがありますけど。両親が一緒にいて、父は白の塔で塔主をしている…」
「あ、ジーク様?」
「そうです、父にはよく会っているのですか?」
「いいえ、一度お会いしましたけど」
あまりいい印象じゃなかったから、なんといったらいいのか。
「私とエリーはとても仲がいいから、エリーとショーンはよく家に遊びに来るんですよ」
はあ、そうですか。
「ケントさんとも前から友だちになりたいと思ってました、それで私はここでも生徒会に入ろうと思ってますけど、一緒にやりませんか?」
金色の長い髪の美少女にきらきら輝く瞳で見つめられると、思わずやりますといいそうになるが、ちょっと待って。
「やりません、研究生だし」
「そうですかー、残念です」
しつこく誘ったりせずに、あきらめてくれるようだ。
わたしと双子は全く違うんですよ、と長い説明をすることもなく別れたから、よくいっておけばよかったと後で思ったが仕方ない。
ところで生徒会って何?うちの小学校でそんなことしてる人がいたのかな?とエリオットにきいたところ、地味で目立たなくてごめんね、といわれた。どうやらエリオットが関わっていたらしい、あんまりきいちゃいけないみたいだから、くわしいことはわからないままだ。




