表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の塔の魔術師   作者: ちゃい
74/106

遠足

 学校に着くとほっとして、いつものように窓側の席でのんびりする。急にエリーが念話で(お兄様)と呼んできたが、無視した。


 最近学校ではあまりにも無気力なため、軽く扱われている。今までが重すぎたけど。


 「ケント、魔法使って宿題やってくれない?」


 「そんなことできないよ」

 まわりの人たちが、楽をしようとして声をかけてくる。今まであんなに怖がっていたのに、害がないとわかるとずうずうしい。


 「なんだよ、だめなのかよ」

 ほとんどはそれであきらめてくれる。そこにいるからあいさつがわりに声をかけているようだ、魔法は使わないって言っているのに。


 あー、暖かい、眠い、お昼休みが終わり、午後から寝そうな日だ。


 「それでは遠足の班を決めましょう」

 

 「おーい、ケント起きろよ」

 誰かの声がする、まだ寝てないよ。


 「それじゃ、ケントはこの班ね、これで四人そろった」

 宿題をさせようとした人だ、ロルフ君という活発な男の子たちと一緒の班になった。


 遠足は魔術学校の脇を通って、森をう回して林の中を進み、小高い山を登った上にある湖まで行く。

 山の林の中には薬草や独特の植物が生えているから、植物採集をしながら進んで行く。たくさん集めたらその班には、テストに加算される点数がもらえるけど、この班の人たちは草のことなど考えていないようだ。


 「なぁケント、せっかくだから魔法でなんとかしてくれよ」

 みんな植物採集の準備をしないから、一人で植物を押し花にするための台紙を作っている。


 「無理だって」


 「こんな学校にいるくらいだから、あんまり魔法を使えないのか?何ができるんだ?」

 

 「いろいろあるけど、いやだよ」

 まじめだな、とあきれられた、力が強すぎるから使わないだけなのに。


 「俺は力では誰にも負けないつもりだから、来年王立学院の騎士科を受験したいんだ」

 そうか、ロルフも一緒なんだ。


 「魔術科にいくようだから、よろしくね」


 「ああ、王立学院に入学できるといいな」


 遠足の日は、魔術学校で注目されながら小学校へ登校した。魔術学校は転移すればいいと思っているから遠足なんてないんだろう、少しは歩き慣れたほうがいいよ。


 わくわくしている同級生と一緒に、校門前で先生の注意事項の説明をきいたあと、班別に並んで出発した。

 ロルフとその仲間たちは先頭になって歩いたから、すぐに森のそばまで来た。


 林の入り口からは暗い木の間の道に入って行って、さらに少し森の中にも入る細い小みちを縦に並んでざくざく歩いていく。いつも広い畑の中でお母さんを手伝って歩き慣れているから、ロルフたちと一緒に速く進んで行くのが楽しい。後ろにいる班とはかなり離れてしまった


 採集しながら歩いていくから、遠足は普通に歩く倍以上の時間をかけて湖に到着する予定になっている。だからお花畑があると、座り込んでおしゃべりしている人たちもいるし、採集のために危険のない脇道に入る人たちもいる。


 わたしたちもロルフが先頭になって急いで歩いていたが、かなり先にある脇道に入ってから止まった。ロルフは他の班の人たちが誰もいないのを確認してから、振り返ってわたしをみた。


 「なんか魔法を使ってくれよ、実際に見たことがないから王立学院でびっくりしたくないんだ。なんでもいいから、頼むよ」


 ここは森の中で人目につかないし、四人だけの秘密だと言う。

 本当に困っている顔でお願いしてくるから、王立学院の試験のためになるという理由もあるし、害のない魔法をみせてやりたくなった。

 

 「わかった、じゃあ少しだけだよ」


 「本当か?ありがとう、ケントはいいやつだな」


 そうですよ、魔法で小さな火の玉と水の玉をつくる、小さく小さく。ぼっと音がして、一瞬で何もないところに、三十センチくらいの二つの玉が現れた。


 「水と火だよ、さわらないで」


 ロルフはびっくりして座り込み、他の二人は逃げて後ろにいる。思っていたより大きかったのかな、静かに二つの玉を消して終わらせた。


 「これ以上はやらないからね」


 「あ、ああ…」

 怯えながらわたしをみるロルフは、今までの元気をすっかりなくしていた。四人で黙ってしまった、わたしはなにか大きな失敗をしたようだ。


 その後もロルフは考えこむような顔をしたままどんどん進んで行って、二人はそれについて行ってしまった。まって、植物採集があるのに。

 一人で取り残されたから、森の脇道に入ってみた。


 (あ、ケントだ、ケントがいるー)

 知り合いがわらわらと集まって来る。

 (ケントー、何してるのー)

 (遊んでるのー)

 (こんなとこで何してるのさー)


 きれいな花の薬草が群生する中に、いつもの妖精がいた。家にいつもいる妖精たちとは仲がいいけど、ここで出てこられたら困る。


 「今日は遠足で来たんだよ、薬草を一本取るけどいいかな?なんでこの森にいるの?」


 (ここも家だし、島も家だよー)


 「これから大勢の人が来るから、もう島へ帰ったほうがいいよ」


 (ケントも人だよー、遊んでー)

 

 「他の人だよ、出てこないで、もう行くから」

 こんな所でこんなのと仲良くしているのを見られたら大変だ。いつもはかわいがっているけど、今日は別だ、急いで歩いて行かないと。


 (ケントー)


 「わあ!どこにいるんだ?」


 (えへへ、頭の上にのってる)


 「降りて?」


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ