悪いおじさんたち
怖いおじさんに連れてこられたのは、宰相様の部屋だった。小学生の王城見学では会えないような、偉い人に会うのかな。
「ケントくん初めまして、私は君のお父さんの上司で宰相をしている、よろしくね。こっちは白の塔の塔主ジークだよ。ジークの子供たちはケントくんの双子の弟妹と同じ魔術学校に通っているんだ、知ってた?」
「いいえ」
にこやかな宰相様なのに、背中から寒けがくるのはなぜだろう。
「君ってユーリの子供だよね、私が君のためにわざわざ作った魔術学校に入らないし、一度も会いに来ない。おじさんはもっと早く会いたかったなー」
なんだろう、怖いよ。
「君のお父さんも私のいうことを全くきいてくれなくて困っているんだ、君もそんな感じなの?でもユキにそっくりだね、見た目は君の方がずいぶんかわいいけど」
お母さんのことも知っているのか。
「ケントはすごいな、魔力量はユーリよりあるだろう。兄弟でケントより魔力量が多い子はいるのかい?」
とジーク様にきかれる、これは知らないのかな。
「いいえ」
「ユーリよりね、ユーリが隠していたのか、君が自分から隠れていたのか、今までよく見つからなかったね」
宰相様、普通にしてましたよ。
「魔力制御はユーリよりうまいな、魔法なんて学校で習わなくてもいいのか、誰に教えてもらっているの?」
「イーリに」
「イーリって誰だ?」
うわ!どこまで家のことを知っているんだろう。
「お父さんの友達で、わたしの…家庭教師です」
「家庭教師ね、その人は王立学院の教師以上の人だね?」
イーリは人じゃないです、にっこり笑う宰相様が怖い、これはなんの体験学習だろう?危険だ。
「そうだ、昼食を一緒に食べようね、ケインたちも今頃食堂で定食を食べているはずだから。ここの特別な料理はおいしいんだよ、待っててね」
逃げていいですか?定食がいい、逃げたい、転移したい、消えたい。
「ジーク!見張ってて」
王城見学でしたよね。
「図書館や食堂なんて、いつも見てるから行かなくてもいいだろう?ここはめったに入れない所だ、よかったな」
来たいって言ってないよー。
「今度家に遊びにおいで、双子は時々家に来ているみたいだ。それにしても、ケントは双子よりずいぶん魔力量があるんだな、ユーリはかなり困っていたが、何か困ったことはないか?」
「大丈夫です、お父さんとわたしは違いますから」
「ほう、ユーリより魔法が得意か?」
「お父さんのように魔法を使わないってことです、普通の人と同じように、魔法は使わないで生活しています」
「なんでだ?」
「魔法を使ったらなんでもできるから、使わない生活に興味があるんです、普通の人がどうしているのか知りたくて」
「それで普通の学校に行っているのか、楽しくはないだろう?家の上の子はずいぶんいじめられていたが、ユーリはそれを知っているのか?」
「お母さんにはわかってもらえるけど、お父さんには話しづらいです。当たり前のように魔法を使って生活していることに、わたしがなじめないだけだから。下の子たちは魔法以外のやり方を知らなくてもいいみたいだし」
「ユーリは、話しづらい、なんて思われたら悲しむだろうな、いつか近いうちに話してごらん、ユーリには解決する力があるからもっと甘えたほうがいい。ケントのことはいつも気にかけているだろうし、誰がみてもわかるくらい、ユキや子供たちが一番大切なんだから」
お父さんに甘えるって、どうすればいいんだろう?
「大丈夫です、家は子供が多すぎるくらいいて大変だから」
「家族全員のことをユーリはそれぞれ大切にしているよ、ユーリでなくてもおじさんでよければ、話をきくからいつでも白の塔においで」
ちょうどそこへ入って来たのは、見たこともないほどきれいな男の人だった。
「ジーク、自分だけ特別ケントと仲良くなろうとしているね?今日ケントに会えるから、抜けがけせずにみんなで集まろう、ってジークが言うからわざわざ来たのに。
ケント、初めまして、大国③の大使をしているユーシスだよ。N国が嫌になったら、いつでもいいから大国③の大使館に転移しておいで」
貴族が極まると、こんな人が生まれたりするんだろうか?顔立ちや優雅な感じが別世界だ。そんな人がわたしを抱きしめて離さないでいるし、目の前にはものすごく高級そうな料理が運ばれてくる。
「ケントはユーリの子供だから弟の子供だよ、困ったことがあったら、ジークよりも先にきてね」
返事に困る、お父さんにこんな貴族の兄はいないだろう。
「ケント、ユーリに甘えられないなら私の養子にならないか?家には子供がいないから、君だけをかわいがるよ」
さらに宰相様が言うが、うすら寒い感じがする。
「そうしたら私の跡を継げるね」
何の話だろう?
「失礼します、ケント、帰るよ」
あ、お父さんだ、不機嫌な顔で入ってくるといきなり三人をにらみつけた。
「ユーリ、ケントはまだ勉強中だよ。ところでどうだろう、ユーリは子供が多くて大変だろうから、ケントはみんなの子供として育てない?」
「家の子ですから無理です、お世話になりました。さ、帰るよ」
お父さんの方から部屋の中に冷たい風が吹いた。
宿舎に帰るとお父さんが怖い顔で説明してくれた。
「ケント、悪いおじさんたちだってわかっただろう?ついて行っちゃだめだよ、怖い目にあうから。あのおじさんたちはね、本当にあぶないからよく覚えておくんだよ、すぐに逃げてお父さんを呼びなさい」
お父さん、でも宰相様と塔主様と大使様で上司だって。
「お父さんにウソの用事を言いつけて、最初からケントをどうにかしようとする人たちのことなんか、信用できないから」
そうだったの?悪いおじさんたちなの?




