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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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ケントの小学校

ここからは、ケントの話になります。

 一瞬何を言われたのかわからなかった。廊下から六年一組の教室に入ったとたん、わたしはその怒った男の子の口から

 (リピートアフターミー)

と音が出たのかと思った。耳に直接きこえてくる外国語の教材の声がかぶっている。


 目の前に座っているストレートの黒髪の美少女を、かばって立っている男の子の姿は騎士のようだ、きっとそんな気持ちなのだろう。

 もしかして彼は、わたしが彼女に危害を加えると思ったのだろうか?そんなつもりは全くないので、手でちがうと示して立ち去ろうとすると、怒った男の子が飛び出して来そうになっている。


 「シュン、やめて!」

と彼女が叫んで、まわりの人たちが騒ぎだした。


 「あいつに何かされたらどうするんだ!」

とシュンくんも叫んだ、何もしませんよ。


 シュンくんは悪い魔法使いのわたしを成敗したいらしい。ずいぶん元気と行動力がある人だ、そこだけは見習いたい。


 シュンくんたちの前を歩いて、教室の窓側の一番後ろにあるわたしの席に戻って座る。ちょっとトイレに行く時に近くを通っただけなのに、騒がしいことになってしまった。

 席に座っていてもまわりからの視線が痛いが、今では注目を浴びるのにも慣れた。

 わたしに対してほとんどのクラスメイトは変わった人がいる、くらいの認識だが、あとの少数派はどうしても倒してみたいと狙っている。普通の子供の手や足での攻撃では無理なんだけどな。


 わたしはケント、このクラスで唯一の魔法使いで、誰よりも魔力量が多い。

 それは本当に世界中の誰よりも多いらしい。


 その事をクラスの中の人は誰も知らないが、魔力のせいで途中入学したために、この小学校では誰もがわたしを異常な魔法使いだと知っている。特別な魔法使いを迎えたから、という小学校の好意的な扱いは、なぜかわたしを特別に悪い魔法使いだ、と生徒に認識させてしまったようだ。


 小学校で魔法を使ったことはあるし、必要だから普段いつでも使っているが、他人に向けたことはない。そしてわたしはいつも静かで、おとなしくしている。だからわたしが誰かを害することなどない、といい加減わかってもらいたいものだが、もしかしたらクラスの全員に怖がられているのかな?


 それでもわたしは今まで体験したことのない、王都にある一般的な小学校での普通の学校生活を、とても気に入っている。しかし受験してもなかなか入学できないはずなのに、あと一年で強制的に王立学院の魔術科に入学することが、王城で決定してしまった。


 ここの人たちとは奇妙な関係だったが、お別れしたらもう一生会うことはないかもしれない。他の人たちはたぶん二度とわたしに会いたくないだろうが、それでもわたしはここでの普通の生活を懐かしく想う日がくるとわかっているから、なんだか寂しくなる。


 魔法を使わずに生活している人たちの方が、わたしからみると不思議でとてもおもしろい。やんちゃで困った人もいるが、ほとんどの人はおだやかで、器用にさまざまな道具を使って魔法のない生活を送っている。

 授業も一切魔法を使わないから、見たこともないやり方ばかりで新鮮な気持ちになる。

 魔法を使わないことにわくわくする、手や足や頭を使うのだ、勉強するとはこういうことなのだろう。


 授業は興味深いが、休み時間は残念ながら誰にも話しかけられずに一人でいて暇になるので、イーリが用意してくれた外国語の教材をきく以外は、いつも魔法で遠くをみるようにしている。

 目が死んだようになって気持ち悪いが、浮いたり消えたりするわけじゃないから、魔術の練習をしている姿にしては見た目が普通の範囲に入っていると思う。


 まずはじめに遠くの島にいるお母さんをみると、妖精が舞う中で話しながら野菜を育てている。自分の家だけど世界で一番美しい場所だと思っているから、いつまでも眺めてしまう。


 その次に気になるので、魔術学校に通う双子の弟妹をみてみると、いつも得意げに魔法を使っているから、苦々しい気持ちになる。

 魔術学校は普通の授業が少ないようだ、魔法なしの知識が驚くほど少なくて、二人のことが心配になる。魔法なんて習わなくても普通に使っているから、魔術学校で習う意味がないと思うんだけど。


 たまにお父さんもみているが、ほとんど家にいて、時々白の塔で書類をつくったりしている。一応白の塔の魔術師で補佐らしいが、なんだか一番つまらなそうだし、すぐどこかへ転移してしまって落ち着かない。みていてもなんの仕事をしている人なんだかよくわからないし、臨時職員みたいで定職がある人なのか心配になる。家では、仕事のことをあまりはっきりきいてはいけない雰囲気になっている。


 そしてわたしの師匠のイーリには直接話しかけてみる。イーリはわたしの家がある島にいるエルフで、学者だからわたしの勉強をいつも気にかけてくれる。


 (イーリ、今話してもいいかな?)


 (ケントか?いいよ、いつものように妖精の資料をまとめているから、週末に見においで)


 (うん行くよ、待っててね)

 イーリはいつもわたしに特別優しくて、わかりやすくなんでも教えてくれる。


 昼休みが終わり現実に戻ると、午後からの授業で王都の地図を作る課題が出された。ノートに商店街やさまざまな施設を書き入れるが、もっと詳しく調べるために、興味のある職場を訪問して実際に実習することになった。

 

 王城の案内はお父さんがしてくれるらしい。


 「ケント、待っているよ」

とうれしそうに話してくれたが、なんの仕事をしているのかわからない父親の職場に行きたくないし、いつもお母さんと一緒に野菜を持っていく、野菜販売所のお姉さんの手伝いをしたかったのに。


 「ケントくんのお父さんが案内してくれるなんてありがたいな、一緒に行こうね」

と先生にまでいわれてしまったら断りにくい。王城は女子に人気だから、一緒に行くのはほとんど女子ばっかりだ。

 

 嫌だなぁ、来週のこの授業って、休んじゃだめかな。







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