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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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一号室

 結局何なんだかわからない。単なる強化された結界のようだ。

 なんで?じゃあ彼女にかかっていたのは何の術式?犯人は誰なんだろう。本を取って白の塔へ戻って来た。


 ジーク様はいなくてサシャだけだったので、一緒にテーブル席へ座る。ふーむ。サシャは心配そうにこちらを見ている。


 納得がいかない。なぜなんだーっ!と心で叫ぶと頭にぱこーん、という衝撃が。

かなり痛くて涙目だよ。ジーク様が目の前でにらんでいる。

 なぜ?泣きそう。


 わなわなとお怒りのようだ。ジーク様は怒ったままおそろしい程の威圧をかけてくる。にらまれて逃げられない。

 「どうかしましたかぁ?」

 涙目できいてみる。

 「何がどうかしましたか、だ!」

 サシャが驚いた顔でジーク様を振り返り、大声で何か叫んだ。

 

 いきなり攻撃魔法が!簡易結界を張る。火花が散る!吸収の術式を。炎のうずが吸い込まれていく。何なの?


 「ユンタ、お前に言いたいことがある。ちょっと一号室に来い」

 一号室って。ジーク様専用で強力な結界のかかっているあそこへ?何するんですか!

 「は、はい」

 ……こわい。


 ジーク様がこんなに怒っているところを見たことがない。わたしは何をしてしまったのだろう。天井の強化結界を壊したことに関係しているとしか思えない。でもそれにしてはこわすぎる。


 のろのろと一号室へ向かう。サシャがお茶をいれてくれている。

 「失礼します」

と入ると、ソファにどっかりと座るジーク様は困ったような悲しいような顔をしていた。 


 「座りなさい。攻撃したのは、避けられるとわかってのことだ。私の攻撃など簡単に避けられる力がある。これがちょっとした罰だよ。私自身への怒りの方が大きいかな」

 向かい側のソファに腰をおろした。ジーク様はわたしの顔を見つめる。威圧がかかっている。


 「魔力が高い者はその魔力量から威圧がかけられるんだ。知っているだろう」

 「はい」

 「お前は自分の魔力量を知っているか?」

 「え?」

 「多分この城内で一番魔力量があるのはお前なんだ。だから威圧で人を倒すことがある。司書の女性が倒れてしまったのは、威圧のせいだ」


 わたしのせいで?


 サシャがお茶を持って来てくれたので、ありがとうとジーク様が受け取った。

 サシャはわたしの前にお茶を置くと心配そうに見つめて、ゆっくり部屋を出て行った。

 え、何だって?白の塔の下っ端のわたしがいつから。


 「罪にはならないだろう。私がそうだとわからないように、普通の魔力量の者のように扱っていたからな。 

 でもこれからは、N国で一番魔力量がある者として扱われることになる。どうなるかわかっていたから、今まで守っていたつもりだったがここまでになってしまったな。わたしでは守りきれなかった。そういうことだ。よく考えてくれ」


 そういうことだ、よく考えて?

 ジーク様は悲しそうな顔で、わたしを振り返りながら部屋を出て行った。サシャが行って、ジーク様が行って随分時間が過ぎた。


 よく考えてみる。魔力はすべての権力の上にある。だから宰相様はすべての権力の上にある。じゃあわたしは何になるの?

 わたしは宰相になりたいのだろうか?いやいや、考えたこともない。


 それではどこで何をすればいいのだろう。わけがわからない。魔力があるからジーク様のところへ来たというのに、ここからどこへ行けばいいのだろう。


 ここでもわたしは手に負えない化け物なのか?父親や店長のおそれるような顔を思い出すと、どうしていいかわからなくなる。


 のろのろと立ち上がると、白の塔にはもう誰もいなかった。扉を閉じて寮へ向かう。15分くらい歩けばいつもの自分の部屋へ着くはずだ。

 

 城を出て海岸沿いを歩く。波はよせてかえす。わたしは何が変わってしまったのだろうか。魔法なんて少ししか使えなかったはずじゃないのか?


 魔道具店で困り果てた店長に、給料が上がるから城へ行けって言われて、ジーク様が来てくれた。


 給料が上がって、それから?わたしはどこへ向かうんだろう。急に沖へ流されてしまってびっくりしている。

 ははっ、N国で一番の魔力量だってさ。


 ざーっ ざーっ ざーっ

 沖ではない。わたしはまだここにいるじゃないか。帰ろう。

 寮では夕食が終わっているだろうか。

 

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