神の子供
ユキが前の世界でどうしていたのか知るために、少し質問してみた。
「前の世界でのことを知りたいんだけど、なぜ亡くなったの?」
「山の麓に住んでいて、火山が噴火したから。逃げ遅れて、大きな岩が落ちてきて、ぶつかったと思う。ここに来たからよくわからないけど」
「噴火の力で転移したのかな、魔力はないんでしょう?」
「変な力があるのかな、私にもあるけど弟にあるのかも」
おかしな話だから、と言ってユキが話し始めた。
ユキの弟は子供の頃から、神様にお願いしたらなんでも叶う、不思議な力があってこの世界に生まれてきたと知っていた。勘違いかもしれないから、姉以外の人には言えなかったが、そう信じていた。
「あー、子供の頃は思い込みが激しい人もいるよ?」
「普通はそう思うでしょう?それでお金とか、いろんな物を欲しがったりするものなのに、弟は世界の発展を望んだの」
子供の自分が大人になる頃には、今よりももっと世界中が発展して、未来都市がたくさんできて、きれいな豪華な家に普通の人が住んで、おいしいものをたくさん食べて、見たこともないような服を着て、乗り物に乗って、楽しく暮らしたい。そんな世界がいいと、直接神様にお願いしたそうだ。
自然のバランスが崩れる、と神様が心配したが、長い歴史の中で自分が生きている時だけ良くて、そこが頂点で後はどうなってもいいでしょう?と簡単に考えて頼んだ。
「世界中がそうなったら、環境が破壊されると子供でもわかったけど、自分と子供くらいの世代が楽しく暮らせたら、それが一番幸せで、そのためにここに生まれてきたと思っていたらしいの。もしかしたらこの世界は、自分が楽しく暮らすためにつくられた特別な場所で、他の人は、自分のために配置された人たちなのかも、って言うの」
誰にも違うとは言いきれないが、子供特有の空想だろう。それが転移の力にはならないと思う。
「私がその変な話を信じたのは、私もその世界にはない力があって、別の場所からそこに飛ばされて来たと思っていたからなの。単純に空の上から来たと思っていたわ、変でしょう?弟のために集められた人たちの、一人かもしれないと思っていて」
家族も友人も違和感があって、その瞬間ユキとすれ違うためにどこかから派遣されて、集められた気がしていたと言う。
「弟のために、その瞬間がつくられて、集まっていたと考える方が自然だったの。私にはそう感じられたわ」
その世界の歴史も、そこだけ特別発展させるように、ありえない進化を急いでしてきたそうだ。もっとゆるやかな進化が予定されていたようだった、という。
「魔術もないのに、神の力で、たった一人の人のために?信じられないな」
「時間が歪んで、無理やりその瞬間に合わせようとしている感覚ってわかる?意図されているかのように、危険を回避できたり、雨が止んだり、そこでその人に会ったりして、小さな偶然が私には不思議だったわ」
「そのくらいのことはいくらでもあるよ、不思議じゃないでしょう」
「そうね、でも自然が、つまりその星自体が、弟の世界という消化しきれない大きな異物を抱えて、困っていたように思えたわ。
そのせいで、環境が破壊されていたし、気候変動があって、その星が自力で回復できなくなっているのかもしれない、と思ったの。私にはなぜそれがわかったのかしら?」
「わからないよ」
「じゃあそれがなにかわかる力を与えられていて、ユーリのためにここに来たのかも、なんてね」
「ユキ、それだ!それをくわしく説明できるか?」
イーリが、突然何かに気付いたかのように叫んだ。
「私はいつも感覚的でわかりにくいって、弟にも言われていたから、うまく説明できないわ」
別の世界の女の子が、日常生活をどう暮らしていたのか知りたいと思ってきいたのに、思っていた以上の話でびっくりした。
イーリは書斎に戻ったので、わたしたちは星の気持ちではなくて、ユキの日常生活をどうしようかという、現実的な話し合いをしようと思う。
「あの…女の子が生活するために、必要な、えー、下着とかいるのですよね?」
は?…と一瞬固まったが、すぐにユキは真っ赤な顔になってうつむいた。わたしだって恥ずかしい、しばらく二人でうつむいていたが、そうもしていられない。
「あの…下着とか…お願いします…」
小さな声でうつむいたまま、ユキが答えた。
それではN国へ買いに行きましょう、と誘ってみたものの、どうしていいかわからない。島のことは秘密だから言ってはいけないと説明して、転移したN国のわたしの部屋から出て、しばらく一緒に歩いていると、昼休みが終わって家に帰る途中のサシャがいた。
「あれ、その方どなた?」
「ああ、こちらはユキさん」
「こんにちは、ユキです、はじめまして」
「あ!ああ、サシャです。ユーリさんが女性と一緒にね」
「ユキは今、着替えがないから、洋服とか一緒に選んでくれない?下着とか…」
「はい、なんで下着まで?…えーと、いいですよー任せてー、それではユキさん、行きましょう」
サシャとユキが行って一人になったので、白の塔で仕事をした。夕方、サシャとユキとなぜか荷物を持ったケインが帰って来た。
「ユーリ先生!彼女のためにがんばって選びましたよー」
というケインから、大量の荷物を受け取った。王子を荷物持ちに使っちゃだめでしょう。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、ユーリ先生の彼女のためならいつでも手伝いますよ」
何か勘違いしてませんか?妙ににやにやしている二人と別れて、島へ帰った。
「私はそんなにいらないって言ったのよ、でもユーリ先生に買わせてやってくださいって、王子様が無理やり…」
下着や洋服をありがとう、でもオーダーメイドのドレスって何?
「グリーンのドレスが私に似合うらしくて頼んでしまったの、私にはあの二人に逆らうなんて難しかったのよ、ごめんなさい」
ドレスに合わせた装飾品があったら、そりゃあ素敵ですけれども、いくらなんだかわからないネックレスとイヤリング、ハンドバッグ、靴。
「もちろん普段着も買ったけど、この場所には合わないわね」
素敵なワンピースを畑や湖へ着て行けないかも。白の塔に出勤するつもりで選んだのかな。
「それで不自由しないなら、いいよ、金額は気にしないで」
すごく気になるけどね。
「ありがとう、でも、もう少し汚れても気にならない服がいると思わない?」
そうですね、また行かなくちゃと思っていたら、白の塔から呼び出しがあってユキを連れて行くことになった。
サシャに異世界人だと言ってしまったため、王立学院で魔力検査だそうです。ユキの変な魔力が何だかわかるといいけど。




