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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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セルキア山の噴火

 N国への報告が必要だろうと判断して、まず宰相様の執務室に来たが、なんと言えばいいのかな?

 執務室に入ると宰相様がいて、アンリが通常の業務中で、忙しいんだけど何?という顔をされたので、いいえ、と言って扉を閉めた。


 白の塔に帰るとジーク様がいて、笑顔でわたしを迎えてくれた。


 「ユーリ、お前よく光っていたな。あれは神殿が迎えた神かなんかになったのか?嘘くさくて笑いっぱなしだったぞ」

 ジーク様にみられていて、ものすごく恥ずかしい事をした気分になった。まだにやにやしている。


 「セレーシアに頼まれて、仕方なく光らされたんですよ、好きで光っていたわけじゃありません」

 ぶあははははー、思いっきり笑われた。


 「じゃあもう知っているのですね、報告書にはしにくいのですが、あれはわたしとセレーシアでやりました」


 「あれは神託だろう?報告書にしたらおかしい。お前じゃない、神だろう?」

 ぷっ、とふきながらジーク様が言う。


 「そうでした」

 ジーク様はいつもみている、ということは、遠見を常に続けている、ということだ。ジーク様の仕事がやっとわかった気がした。どこをみるか、みないかの選択で無駄になることもあるのに、常にものすごい負担がかかっている。

 そしてすべての情報は、宰相様に集まっていたのだ。これがN国の力なのだろう。

 

 セルキア山に戻って来た。神殿の中には行きたくないので、戦場の跡に転移魔法陣を設置して、しばらく様子をみに来ることにした。

 戦場の荒れた地形は元に戻したが、セルキアの龍脈は安定しない。毎日魔素がたまった所を少しずつ浄化しているので、魔物の数は増えないが、減りもしない。


 多分その転移魔法陣のせいと、神殿の巫女の魔力が厄介なため、セレーシアが中央の島にわたしを訪ねて来たので、イーリが困っていた。帰れ、と言ってもなかなか帰ってくれないし、イーリがエルフだとわかっているようだが、居座るつもりらしい。

 

 「ユーリじゃなくて、イーリでもいいの、私をしばらくここに置いてくれない?神殿を明け渡してしまったの」

という。


 「予知のできる巫女を、見捨てはしないだろう?」

 もちろんイーリは反論したが


 「反乱軍と仲良く暮らせるほど、図太くできていないの」

と言いながら、ここには来られる図太さにあきれてしまった。


 「N国の者に頼ればいいだろう!」 


 「王宮におじゃまするのは嫌よ、人質じゃない」


 「じゃあ、私ならいいのか?」


 「そうね、N国人のユーリよりも、あなたの方がいいわ」

ということで、仲良くここで過ごしてもらうことになった。セレーシアは泣きそうになって来たはずなのに、にっこり笑った。

 イーリは島の主であるわたしの決定に反論できないため、凶悪な表情になった、ごめんなさい。


 「セレーシアの子守りは一切しない!」

とイーリが怒っているのに、セレーシアは研究の手伝いをする、と言いだした。神殿側の情報が、少しでもイーリの役に立ってくれたらいいと思う、本当にすみません。


 まだ全員が避難していないけれど、噴火まであと何日だろう。セルキアに留まる以外行く所のない人が多いから、多くの人を守るためには、わたしがここでできるだけ被害を少なくするのが一番いいと思う。


 そのために毎日少しずつ、マグマの流れを誘導する形の結界を設置している。反乱軍が占領している神殿と、多くの人々が避難している避難所と、主要施設を避けるように流そうとすると、マグマが流れていい場所は限られてくる。


 その他に山の斜面から海に向かって、石や岩や火山灰を受け流す大規模な結界を上空に張っている。全ての場所に結界を張らなければ満足できないのか、と言われそうだが、N国人の魔術師でしかないわたしにセルキア人を規制できないから、防御だけで対応する。


 全力でやっていい、とジーク様の許可が出た。神じゃないのか?と言われたが、神がいるならお願いしたい、どうかわたしの予想の範囲内でと。


 ごく軽い地震が起こり、大地が揺れた。この土地は神殿から民の手に移っていっても、自然の流れで必要なのだろうから、確実に周期的に荒れる。


 宿をとって、十日間待機しながら、他にできることがないかと町中を歩き回った。

 十一日目の朝、不気味な気配が町を覆って、煙が高く上がっていた、来る。

 

 爆発音が響くと石や岩が砕け飛び、山の頂から予知でみたとおりにマグマが流れ出した。結界を張った山の斜面をマグマがうまく流れて行って、海に流れ出るまでを見守る。

 振動で足元が震えている、予言どおりなのに、恐ろしい自然の力の前で体がすくんでいる。人など大地の付属品でしかない。わたしの結界があるためか神の力か、うまく流れているが、気ままに噴火して流れ続けている。

 

 上空にある結界にぶつかりながら石や岩が海に向かうが、あまりの大きさに驚いて見上げる。ここはなんて危険な土地なのだろう、それでも人はこの土地で生きていくのだ。風を送り、さらさらと灰を海に流す。

 

 二、三回爆発して、マグマが海に達して、最悪な状況が回避できた事がわかった。土地のひずみがとれて、新しい位置に落ち着いた。


 見回すと町は荒れていて、傷ついているが、犠牲者はいないようだ。

 これで神殿は人々を守ったことになり、すでに権威は地に落ちているが、神殿を生かす道になるのだろう。この土地に信仰と予知が必要だ、と理解させるためには、噴火を利用するのが一番簡単なのだ。


 だからこの一番重要なときに、セレーシアは戻って、亡くなった人の分まで町に出て働くべきだ。そうでなければ、もう二度と予知と信仰の力で災害を防ぐことができなくなってしまう。そうなったら、誰がこの国を救うのだろうか。


 「セレーシアは神殿に戻った方がいい」


 「私に何ができると思っているの?」


 「神殿で祈るだけでもいいよ」


 「怖いわ」


 「それでも行かなくちゃ、亡くなった人へのつぐないのつもりで、町の手伝いをすればいい。終わってセルキアが不要だというなら、ここに戻って来てもいい」

 そうイーリがいうと、セレーシアは行くことにしたようだ。


 「必ず戻って来るから」

 セレーシアが手を振って転移するとすぐに、イーリは転移魔法陣を消した。


 「あの娘はこれ以上、ここと私に関わってはいけない」

 イーリ、約束は?セレーシアは多分探すと思うよ。


 結局セレーシアは島に戻れなかった。N国はアーサーさんでない人を交渉役にして、セルキア国の復興に協力した。国の主権は譲ったものの、神殿としての役割は認められ、巫女姫は神殿の奥に戻った。


 N国と神殿は、セルキア国のための資金など、神ではない部分の話し合いがあり、外交にユーリを指名されたが、宰相様が存在を否定した。


 イーリが予言めいた事を言う。


 「ユーリはセルキアに使われすぎたよ、セルキアの神殿のためになっただけだった。今回ユーリがしたことは、次回一切ないから、災害は甘くみられて被害が拡大するだろうね」


 わたしが大規模魔法を使うたびに起こる、反作用をわかりやすく教えてくれる。わたしがセルキアで勝手にがんばった分、わたしのせいで何かしらがあるのだろう。戦闘が終わったことは、よかったと思っている。

 

 




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