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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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セルキアの内乱

 セルキアで内乱が起こったのは、そんな時だった。


 魔王様に対して、わたしは何ができるのだろう、どうしてこうなった?どこをまちがえたのだろうと悩んでいたが、魔王様の両親が帰国することになった。


 魔王様とジルベスタに仕事の継続を約束して、しばらく会えくなるから、わたしの存在を隠すようにお願いした。

 なんとなく、わたしはもう、この国には来ないのではないかと思った。魔王様とわたしがお別れするには、ちょうどいい機会のようだ。


 夕方魔の国へ行かなくなったので、イーリと話をするため、中央の島に来ている。セルキアの内乱のせいで、魔の国から手を引くことになったのは惜しいことをした、と言われた。人間とエルフの違いかな、そうは思えないけど。


 セルキアに対して、N国はただ見守っているが、それは正しいやり方らしい。落ち着いたときに正しい判断をするためには、内乱に関わっていない方がいいからだ。アーサーさんのような、元N国人を公平に裁くためには、冷静な対応をしなければならない。


 でも今回アーサーさんたちの神殿側は、被害者だった。民衆派とよばれる革命軍は、革命をうまくやり遂げられず、国を崩壊寸前に追い込んだのに、何もできずただ暴れているだけの烏合の衆だ。

 責任を取れるきちんとした代表もいないような、粗末な組織がただ暴れているのに、それをおさえられないセルキア国はもう末期なのだろう。


 「破壊が終われば、主権争いは他国の仕事になる。このままでは、今争っているセルキア人たちは他国に支配されるだろう、国が滅ぶとはそういうものだ」

とイーリは言う。そこへ行くのがN国の仕事になる。


 イーリは知恵と知識が豊富で、話していると未来が見える気がするが、予知能力とはこういう力なのかな。N国や大国にとっての最善や、セルキアにとってまだましな方法とか、いくつかの選択肢がはっきりとみえてくる。


 イーリと一緒に、島の中央の龍脈が通る湖に来た。流れが速く、龍脈がつながっている特別な場所だ。

 自然の力はとても大きくて、逆らってはいけないのだそうだ。自然に流れるままに、流さなければいけない。

 魔力も自然に反するものではなくて、必要なときに、必要な量を放出するものなのだという。やたらと力に頼ったことをすると、必ず反発される。

 その流れが見えたら、すべてが必要なことだから、流されていくとそれぞれがうまく流れるようになっているそうだ。わたしにとっての流れでいうと、魔王様やイーリに出会った事になるのかな。


 城に戻って、十階のトマスさんの部屋に来た。

 古い本がきれいに並べられた本棚があり、部屋を取り囲んでいる。奥に机と椅子があり、まだ使われているかのようにペンや定規が置いてある。


 トマスさんの遺した資料は魔法に関する物が多くて、ほとんどイーリが管理しているが、それとは別の、机の中にあった日記が書かれたノートを読んでいる。


 ここで誰に見せるわけでもないのに、龍脈に関する考えや、具体的に何があったかが書かれている。

 植物や動物を島に持って来たときのことや、王族や神殿が彼をどう扱ったか。その後のドラゴンとの出会いと、自分の魔力に対しての困惑。

 魔王と魔族が地上に攻めてきた、大規模戦闘。そして彼を取り込もうとする、王族や神殿や魔王から逃れてここに籠った。


 トマスさんにも島にも深入りしたくなかったのに、かなり長い時間読んでしまった。

 トマスさんは恐ろしい魔術師ではなくて、悩みを持つ人間で、自分の魔力を扱い慣れない困った魔術師だった。まるでわたしじゃないか。

 そして神話のように、ドラゴンになる。ちょっとドラゴンにだまされたかもしれないけど。

 でも、この城では幸せに暮らしたらしい。初めはここが墓地のように思えたが、もっと明るく美しい場所だったのではないかな。


 イーリにトマスさんの魔法について、きいてみた。

 「百年前の古い魔法で、今は使われていないものもあるよ」


 龍脈が見える地図は、部屋の真ん中のテーブルの上に設置されている。古い世界地図に、龍脈が流れながら光っていて、何かあればひと目でわかるようになっている。たしかにこれならドラゴンが言っていたように、部分的にみているよりわかりやすくて便利だ。

 わたしの中で、人がみるものではないと思っていたものが、きれいに循環している。この島の中心にある湖に流れつき、ここからまた流れが始まるから、この湖の出入りがおかしくなると、すぐに異変の対応ができる。


 その龍脈を安定させる魔法や、戦闘によって崩れた地形を、その土地に合った形に直す魔法、土地に合った植物を繁殖させる魔法がある。今のわたしには、どう使ったらいいのかわからないものが多い。


 「自然に手を加えるものが多いけど、多用できないし、手を加えすぎない方がいいから今はあまり使われていない」

とイーリは言う。


 セルキアの内乱が始まってから、外の世界では少しずつ異変が起きていた。

 情報としてわかっていたが、N国では黒の塔が対応しているし、多くの人が亡くなっていても遠い国のことだから、自分の中で身近に感じるものではなかった。


 ああ、そういう国もあるのだな、と傍観していたから、魔術師や巫女が亡くなるとどうなるか?という簡単なことを深く考えていなかった。


 まず、日常的に浄化して祈祷していたのが、一切行われなくなり、すでにそれをする人が失われているため、魔素がセルキアを覆い始めた。


 戦闘は攻撃魔法を大規模に展開しているため、土地が崩れて龍脈を乱した。かなり荒れていて、魔界に普通にいるレベルの小さな魔物が発生している。もうすぐに、人を襲うレベルの魔物が発生してくるだろう。


 そのくらいになってから、やっと気付いた、これは自然の流れを変えている。自然の流れを保っていた魔術師や巫女が、その職務を放棄して戦闘中なのだ。神殿の中には、誰もいないのか?早く浄化の祈祷をしてくれ、誰か!


 「誰かいないのか!龍脈の流れを見ろ!」

 急いで神殿に転移して、祈祷所で叫んでみたが、誰もいない神殿に自分の声が響いただけだった。

 

 しばらくすると神殿のかなり奥の方から、女性の声がした。


 (やっと出て来たわね)


 

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