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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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魔王とイーリ

 ドロシアがわたしのことをよく見ている。何かあることはわかっているのだろうが、アンリに魔術の説明をしているのに、わたしの顔をじっと見ている。

 わたしには後ろめたいことがいくつもあるから、顔をそんなに見られると困る。


 「ユーリ、最近楽しそうね」


 「そうですか」

 イーリのこと?イーリのことがわかっているとは思えない。


 「彼女?」

 はあ、彼女?


 「毎日にこにこしながらお菓子を買っていくわね、ユーリが」

 それか、びっくりした。


 「ちょっとした仕事ですよ」


 「まあ!それはよい仕事ねぇ」

 じっと顔を見ないで、仕事ですから。ドロシアとわたしはふだん関わりがないでしょう。  


 「ユーリには多くの人の大きな期待がかかっているのよ、何かあってからでは遅いから注意しているだけ」

 あなたはN国側の監視ですか?


 「それにただ興味があったから、ユーリが好きになる女の子のことが気になったのよ」

 それって、ここでのちょっとしたおもしろい話題がほしいだけだよね、後ろめたいんだから本当にやめてほしい。


 「それにしてもユーリ、うろたえすぎてるわよ」

 ドロシア!避けたくなってきた。


 「そのことなら、本当に何もありませんから」


 「別なことならあるの?」

 ふふふとドロシアが笑う、嫌だ、この人。もうドロシアの日は来ないようにしたい!おもしろがっているよね、どうせわたしの相手なんて化け物でしょうから。


 変に疲れて魔の国に来た。いつもなら魔王様たち女の子四人は、お菓子を前にすると仲良しの姉妹のようになるのに、今日は魔王様が泣いている。

 ジルベスタが何かしたのかな、わたしのところへ来て、しがみついて離れない。


 「ユーリはジルベスタと仲良くしてねって言うけど、そしたらユーリはもうここには来ないの?ユーリはここの人じゃないから、私なんていらないの?」

 どうしてそうなるのかなぁ。


 「みんなで仲良くしようね、ってことだよ」


 「ユーリはいなくならないの?」


 「いなくならないよ」

 わたしの存在のせいで、彼女の不安定が終わらないのか。どうするのが一番いいのだろう、泣きやまない。


 あまり泣くので、魔王様をくっつけたままハーメンランドの洞穴に来たら、ドラゴンを見て泣きやんだ。


 「ユーリはその子をどうしたいの?魔の国の援助はうまくやっているけれど、魔王個人と魔の国のことは別だよね。魔王だとわかっていて懐かせているのでしょう」


 このままでは、魔王様がわたしという代理に依存する未来がやってきて、魔王様とジルベスタの問題どころではなくなっている。わたしはこの子を利用して、魔の国を思い通りにできる状況をつくりだしている。


 N国人としては成功しているのに、離れたほうがいいのではないかと思っているし、後悔している。わたしの一部分だけでそれぞれの人に対応しているから、誰に対しても後ろめたい。この子にとってのユーリは、本当にわたしだろうか?


 「ねぇ、わたしはこの子にどこまで話していいと思う?」


 「それは国家機密に関わらなければ説明できないかな?」

 そうではないか、わたしの気持ちを。


 「魔王様はわたしのことを知っているかな?わたしは魔力が強いから、魔の国を助けるためにドラゴンに頼まれて来て、今も助けているよ、知ってた?」


 「最初に会ったときユーリにいわれたけど、よくわからない、魔王なのにごめんね」


 「いいんだよ、学校でよく勉強して大人になろうね。だからそれまではわたしがお手伝いすることにしたんだよ、わかった?」


 「ユーリは魔王が子供だから仕事のお手伝いに来て、大人になったら帰るの?」


 「そうだけど、魔王様とわたしは友達だから、仕事じゃなくても会うよ。だからいなくなる心配はいらないし、もう泣かなくていいよ、ずっと友達でしょう」


 「友達?ユーリは初めて会った時から特別だよ、金色に光ってとってもきれいだし、いつも優しくて学校へ行かせてくれて、お菓子を買ってくれて、みんなと仲良くさせてくれて。だから大好きなの」


 「ユーリ、特別好かれているよ、どう?」


 「仕事としてはうまくいっていると…でもこれ魔力量があったらジルベスタでもアンリでも誰でもよかった、ってことだよね」


 「ユーリだから特別なんだよ!だからどこへも行ってほしくないの」

 すごくうれしいけど、小さい女の子の扱いがわからない。


 「うれしいですけど、わたしは別の国の人なので自分の仕事があります。城にいないときは、魔の国ではない所で仕事をしているのです、気まぐれにどこかへ行くわけではないのですが、わかりますか」


 「わかった、でもユーリに会いたいときがあるの。ユーリの家に行ってもいい?」

 どこへ連れて行けるかな?


 (ユーリの部屋から絶対に出さないなら、島の方がまだましかな)

 大丈夫か?イーリにうまく頼めるかな。


 (仕方ないから、イーリとよく相談してみて)


 「魔王様、約束してください、わたしの部屋から出てはいけませんよ」


 「うん!」

 もう、うれしそうだな。


 (イーリ、大変!魔王様を連れて今帰るから)


 (大変では済まないよ、それ)

 

 一階の転移魔法陣に到着すると、イーリが待っていた。


 「最近びっくりすることが多いよ」


 「ごめんね、イーリ、こちらが魔王様」


 「こんにちは、魔王様、私はエルフのイーリ、ユーリの友人です」


 「こんにちは、イーリ」


 三人で一階の転移魔法陣のそばにある、ソファに座った。


 「今、彼女の手伝いに行っているんだ、わたしの家に来たいといわれてね」


 「ふーん、それで連れて来たのか。ユーリにべったりくっついてるね、どうするつもり?ユーリは魔王の上に立とうとしているの?」


 「そんな気持ちは全くないよ、どうしよう?」


 「どうにでもできるでしょう、魔力で圧倒するよりも、彼女を言いくるめる方が簡単そうだ」

 それをしたくない場合の事だよ、わかっていて言ってる。


 「エルフとして言わせてもらうとね、ここの住人もそうだけど、魔族がこんなに扱いやすいなんて歓迎するよ。今まで魔族の攻撃を警戒してきた側からすれば、ユーリの今の状況は願ってもない。圧倒しろ、言いくるめてユーリのいうことをきかせるんだ、と心から願うよ」


 「私も!ユーリのいうことをきくよ、心から願うよ」


 「この子おもしろいね、そんなにユーリが好きなの?」


 「うん、大好き」


 「ユーリ、利用するべきだ!」


 「そうだ、ユーリ!」

 連れて来るんじゃなかった。わたしはそれぞれに対応して付き合うのが正解で、後ろめたく思って面倒になっても、混ぜてはだめだ。

 

 「イーリ、いい加減にして」


 「本気だよ」


 「ユーリ、私も本気」

 この二人は、なんでこんなに気が合うの?もうだめだ。


 「魔王様、帰りましょう、今すぐです」

 魔王様の手を引っぱって、ハーメンランドのドラゴンの洞穴に来た。


 (イーリはだめだよ)


 (あそこは基本的に他人が入っていい場所じゃないからね、うまくいくことはほとんどないよ)


 「ユーリ、楽しかった、また行こうね」

 

 「だめです」

 えー、行きたいー、と言われても言いくるめてやる。


 「イーリは悪いエルフだから、もう会ってはいけません」

 悪いエルフの話は呪われるので、誰にも言ってはいけません、と約束させた。


 やっと魔王城に帰って来た。


 「ユーリは私を言いくるめるのね」

 そうですよ、わたしもそんなに信用してはいけません。


 






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