司書
司書のお姉さん視点です。
ジーク様のところからユンタさんが来る日は結界が得意な者を配置しなければならないので、あらかじめ食堂と連絡をとるようにしている。
12時10分今日はこちらに向かっているとのこと。ユンタさんは時間に正確で行動パターンが読みやすいところがあり、そこだけは助かっている。
しかもこんなところで作業服を着ているのは彼だけなので見つけやすい。本人は気づいていないらしいが、逆に目立っているのだ。かなり特別な布を使っていて高級感がある。まるで輝く作業服だ。普通のローブより魔法に耐性があるらしい。形も動きやすいものなので誰もが欲しがっているけれど、ユンタさんのための特別なものと言われてしまってはあきらめるしかない。
彼は本当に特別な人なのだ。一部の人にしかわからないらしいが、魔力量だけでなく使用方法も天才的といわれている。
ジーク様からは何度となく特別扱いするなといわれているが、そういわれればいわれるほど見守る人は増えている。期待の大型新人を近くで見ようとする人は日々さりげなく増えている。
次期宰相ではないかと特別扱いする者がいるらしいが、ジーク様にやられる前に自粛しなければ密かに見守る私たちにとっても迷惑だ。
彼の負担になるなるような者はあっという間にファンによって排除されてしまう。ジーク様にはいっそうらやましいなといわれている。
逆にジーク様に対する発言は自由すぎるし誰もとがめる者がいない。誰かに守られるような人でもないし、遠慮がいらないという意味ではこんなに言いやすい人もいない。
本人がそれでいいといっているのだから、誰もが思ったままにさまざまなことをいっている。情報収集力という面では一番あるのではないだろうか。変わったことやちょっとした苦情やうわさはすぐに誰でもジーク様にいっている。するとあっという間に困ったことはなくなるし、おもしろいうわさは広まる。
そのジーク様がユンタさんには余計なことをするなといって大切にしているのだから、手を出せるものなどいない。ずいぶん過保護に見えるがユンタさんとジーク様が仲良くしているということはないらしい。不思議だ。
さて今日は術式の本を貸し出している。これはかなり危険。結界を最大に強化しなければならない。右側の一番奥の部屋へ入ったとのこと。いつもこの部屋で、外からも角部屋なので結界を張りやすい。
最大強化の結界のために集まった見物人が取り囲む中、地下一階に向けて結界の術式が発動する。
「「おおっ」」
淡く光る結界が間に合った。
直後ズドンと大きな音がして壁にひびが入っている。あぶない。
さらに術式を重ねてかける。これでいいだろう。見物人と術士が帰っていく。私も図書館へと戻ろう。今日はさらに人が増えていたな。
結界の術式がかかり、やれやれと図書館へ向かおうとすると、なぜかユンタさんがこちらへ走ってやってくる。
ばれた?あれ程ジーク様にこっそりやるようにいわれていたのに、私の当番のときに!冷や汗が出そうになったがそれどころではない。
見物人に向かってユンタさんの殺気が!
すごい威圧感に皆びっくりしている。視線をそらす。こっそり見守ってさわいでいた罪悪感もあり、心臓がばくばくしてくる。
それだけではない。私に向かってものすごい量の魔力がおしよせてくる。私一人に?なんで?
もう泣きたい。頭の中がまっ白になる。勝てるわけはない。逃げることもできない。体中の力が抜けた。
そして顔をのぞき込まれてしまった。
「ユ、ユンタさん」
すごい威圧!
「きゃあーっ」
軽く意識が飛びそうになると、心配そうな顔になった。
(大丈夫ですか?医務室へ運びますよ。しっかりして)
声がする。
「は、はい」
すると威圧のかたまりが私を抱えて歩いている!びっくり。少し落ちつこうとするがこの状態で落ちつけるわけがない。
中央塔のありとあらゆるところから視線が矢のようにつきささって来ていたい。
明日出勤するのがこわい。やーめーてー。何か言うこともできない。
医務室のベッドへ降ろされ、今日はもう帰ろうと思う。明日の私はどうなってしまうのだろう。
医師が私を見つめている。
「大変だったね。ゆっくり休んでいって」
なぜだかいろいろわかってくれたらしい。でもユンタさんが作った回復薬はちょっといやです。
句読点修正しました。9/1




