魔の国
セルキアが動き始めた、とユーシス様から白の塔に報告すると、セルキアの財政状況がよくないという話が伝わってきた。
年々神殿への献金が減っているらしい。
N国は国家予算に多額の神殿費を組み込んでいるが、それを大国③やネーデリアなどの新政府に強制できないだろう。
魔王とまでよばれているアーサーさんにかかる期待は大きいが、魔王にはお金を集める力がない。攻撃魔法で脅しても、離れていくだけだ。
それで資金のあるN国で、つながりのあるユーシス様のところへ来たのか。大国③の王様にもついでにお願いしたかったが、どちらも失敗した。
援助の頼み方に問題ありすぎたけどね。
だいたい財政難ならもっと質素にすればいいのに、セルキアの内部で出費を抑えたとか、組織改革したなんて話をきいたことがない。
「ユーリ、アーサーには全く同情しなくていいよ、セルキアにアーサーでは無理だと気づかせるいい機会だ。
魔力が多少あるくらいで、何でもできるわけがない。N国の出費が無駄にならないためにも、別の人にお願いしたいよ」
「神殿は何でそんなにお金が必要なんですか?」
「いろいろセルキアに関わると面倒なんだ。大国が絡んでいるし、手を出さない方がいい。
N国が資金提供だけにとどめているのには理由があるから」
いつも見ないようにしている大国に、神殿は関わりがある。知りたくないし近づきたくないが、その資金はどこへいくのだろう。
(ユーリ、知りたいかい?実はね大国①と②の間には、魔王のいる魔の国という地下帝国があるんだよ。神殿は魔の国の援助にお金を使っている)
いや、知りたくないです。
(魔の国がやっている魔素の管理は大事な仕事なんだけど、今の魔王はあまり考える事が好きじゃないんだ。魔物が暴れても放置されているし)
(ユーリは魔王に会った方がいい。魔力があるだけの子供で、あの子は今とても不安定なんだ、助けてあげて)
あー、聞きたくない。
(そうだ、ユーリが魔王に会いに行けばいいんだ)
それってまた決定したってこと?嫌がる事が可能なのか?この世界の守護神に対して。
「ユーシス様、ちょっと大国に行ってきてもいいですか?」
「何言ってるの?私に止める力はないけど」
頭の中にドラゴンの司令が…という狂ったような発言が認められるのかわからないので、少し調べたい事があると嘘をついた。
本当は行きたくないです。
特にする事もないし、ドラゴンからの圧力がかかるので、大国③からすぐにN国へ戻り、自分の部屋から転移魔法陣で、ハーメンランドのドラゴンの洞穴に来た。
久しぶりに来たハーメンランドの洞穴には、大きなドラゴンがいた。見るのは二度目だが、大きくて食べられそう。
(食べないよ、まだそんな感じなの?慣れてね。
魔の国に入るには、ここからの転移魔法陣がないから直接飛んで行くしかないと思う)
またですか?アンリが大変なことになる。
(姿は消して行くよ、大国に見られるわけにはいかないからね)
そうしてください。
(ユーリがやるんだよ、ユーリの方が見られるわけにはいかないから自分の姿も隠して)
そうなんですか、ドラゴンが乗ってというから乗った。
これも二度目だけど、冷静な状態で乗るのは落ちそうで少し怖い。
(落とさないよ、つかまってね)
寒い、速い、怖い、しっかりつかまっているけれど、前回より遠い。
海を渡り?N国の方から大国に入っている、どうして。
(久しぶりだから楽しくなって、ごめんね、もう着くよ)
大国の国境には結界がなかったので、そのまま大国①と②の間にある大きな穴に向かった。それは地上にぽっかり開いたへそのようだ。
穴は深くて、どこまでも奥へ下って行くと魔素が濃くなってきた。この辺りが魔の国との国境だろうか、地下の広い土地に着いた。
大国一国分はありそうな平地が広がっていて、遠くに城があるらしい。
(あの魔王城に魔王がいるから、城まで行くよ)
魔物が草原の所々にいる。種別で生息地が違うから地上の動物のようだ。
城下町は魔物が入らないように町全体が城壁に囲まれていて、人のような魔族が住んでいる。ちょっと見ただけだとN国の城下町と変わらない。
売っているものや食べ物も同じようだ、人々の魔力量もN国と変わらない。
魔族は色素が薄く、目が赤い。服装も民族衣装なのか、ローブのような厚みの素材で、黒っぽい独特の服装をしている。
それ以外は人と同じで、穏やかな暮らしに見える。
王城には結界があったが、普通に通してもらえた。意外と王城の中にも魔力量の多い人が少ない。
謁見の間に一人で入ると、王城の外で待機しているドラゴンの声が響いた。
(魔王よ、会ってもらいたい者がいる)
とりあえず簡易結界を張った。しばらくすると、豪華な黒いローブを着た少女が姿を現した。
「誰?人のようだけれど、人にしては気配が薄い。精霊にしては人に近いけれど、これは何?姿は薄いのに何か大きな力がある」
(特別な人、ユーリだよ。会って話をしてほしい)
「なんだかよくわからない、薄い茶色の髪と目で姿がぼんやりしている。感情が見えない目だね、君は誰なの?」
「魔王様?N国人のユーリと申します」
(ユーリ、魔力の制限をはずして、よく見えないらしい)
魔力量の制御をはずした。




