ドラゴンと神殿
大使館内の豪華なおもてなし用の宿泊施設に泊めてもらい、食事も用意してもらった。これではただの休暇だ。
そうだった、ユーシス様は過保護なのだ。
ユーシス様は仕事に戻り、三日目にはやることがない状態に飽きた。
ニ日間大砂漠のサーチをしてみたが、浄化を自分でしたのだからなにもないことはわかっている。
ハーメンランドにも異常はないので、多くの人たちがキャンプをしている。
ドラゴンに出て来ないで、とお願いしてあるので、出て来ないこともわかっている。
(ユーリ、暇そうだねー)
(この子便利だよね、三地点の様子がすぐにわかるなんて)
(そうでしょう、異変があってもこの子で対応できるし)
(ユーリは本当に役に立つし便利だよねー)
暇にしているとドラゴンが通信手段にしてしまうので、機械の一部になった気がしてくる。実は、忙しいときはあまり気にならない。
帰りたくなってきた。
一週間の滞在予定なので、残り四日間は大使館近くの国立図書館で過ごすことにした。大国の国立図書館だけあって、N国よりも大きい。
ドラゴンのいる国だからか神や宗教に関する本が多くて、種類、冊数ともに世界中のどこのものと比べても劣らないそうだ。N国のように魔法に関する本だけは多いというのではなくて、さまざまな本がある。
そこで宗教について調べてみることにした。
原始宗教の中にはさまざまな生物を神としたものがあるが、ハーメンランドやネーデリアなどドラゴンを魔術神とした国が多い。
実際今でも三カ国に守護神として存在しているのだから、わかりやすい。
大国①と②は、それぞれの国の英雄王を神とした独自だが似たような宗教で、対立している。ここはもう別物なのでどこの国もあえてふれない。
世界中の神殿の中心にあるのが、セルキア国の大神殿だ。
その宗教は神の啓示を受けた魔力のあるナーダリア人が宗教家となり、さまざまな国で布教し、セルキアで神殿国家をつくった。
つまり直接神がそこにいたのではなく、啓示を受けた人が魔力を使って神殿をまとめていったのだ。
はじめに神の啓示があったにしても、とりあえず魔力が一番重要になっている。
N国の黒の塔がかなり篤く信仰しているし、世界中で一番信者が多い。
(魔王だよ、ナーダリアにいた魔王がセルキアで国をつくった)
(あれは魔王なの?ユーリより害のない男だった)
わたしに対してものすごく嫌な印象らしいですね、皆さん。
(魔法で王国つくって、自分で魔王国と言っていたじゃない)
(ユーリが魔王って言ったら、もっと怖いよ)
(ユーリの魔王国っておもしろそうだね、魔王なのに龍脈の乱れも直すことになる)
(便利な魔王でいいじゃない、あはははは)
それは魔王じゃなくて、ドラゴンの雑用係といいます。それにしても便利な道具扱いするくせに、わたしをなんだと思っているのだろう。
セルキア国は魔王がつくったようだ、図書館の本よりもドラゴンにきけばいいね。
一週間が過ぎたので、N国へ帰ろうと思ってユーシス様に会いに行った。
「待って、このまま帰って元の生活をするつもり?」
ええ、アンリがかなり困っているんです。
「アンリは大丈夫、大変だと言っても忙しくして少し魔力量が上がっただけだよ。アンリの成長のためにはそれくらいした方がいいんだ」
「ハーメンランドは無事に終わる目途がついたんですね?王立学院のドロシアとも約束してますけど」
「魔法陣研究はね、ユーリの技術向上のためだったのだよ。無詠唱でできるようになったし、扱い方にも問題はないそうだよ」
そうなのか。
「なぜ急にこんなことになったかわかるかい?
宰相もジークもユーリを制御できない事がはっきりわかってしまって、さらにユーリは宰相をやりたくないだろう?
どう扱っていいのか宰相が迷っている、というのが一番わかりやすいかな。
君はその性格でなければ、恐怖の対象だよ」
またそれか。
「少なくとも方針がはっきりするまでは私が預かる、と言っておいたから。
ジークのやり方は負担が大きすぎるよ。
変な言い方だけど、N国はユーリにとって小さい器になってしまったんだよ。
私はユーリを弟のように思っているから、わからないことがあったらきいてくれ。
私だけではなく皆、君のことを考えて一番いい方法をとろうとしているよ、よく考えて決めていこう」
ユーシス様は本当に優しいな、過保護がこんなにうれしいなんてね。
自分は一体何なのだろうか、魔王か?
「私の秘密兵器として、ここでずっと活躍してくれるとありがたいよ」
「それはいいですね、わたしも表立って何かするよりはいいと思います」
ユーシス様といるとなんだか安心するから、ここが一番いいのかもしれない。
とりあえず大使が連れてきた臨時職員にしてもらった。
N国での扱いはそのままだが、外交員より格下で給料が下がる。
大使館から出てアパート住まいになり、徒歩通勤で雑用係となった。
あれ、魔王よりはいいよね?
(ユーリ、ここはどこなの)
(ここが魔王城になるの?)
(ユーリ、何してるの)
洗濯して料理作ってますけどなにか?普通でしょう。
(ユーリっていろいろダメな感じするよね)
(便利な子なんだけど残念だよね)
(ユーリは何がしたいんだろうね)
元々ダメな感じで残念ですけれど!




