大国③の龍脈
大国③へは一人で来た。ユーシス様とは連絡をとらずに、政府側にある首都の転移魔法陣から転移して一番近い町に入り、大砂漠へ向かった。
観光客のように馬車で終点まで来ると、あとは砂しかない。
魔物のせいで誰もいないし、浄化されたばかりだから魔物もいない。
前回ハーメンランドで迎えを頼んで大騒ぎになったので、今回はやめた。
ニ時間歩くと、竜伝説が残っている岩山があるのだ。
龍脈を感じるにはどうしたらいいのだろう。考えながら歩いてみたがわからない。魔力の流れなのだろうか?でも地下にあっては見えないし、さらに正しくない流れとは何になるのだろう。
(ユーリって横取りしてもいいの?もらっていっていいものなの?)
誰かがいきなり、頭の中に直接話しかけてきた。ドラゴンさんですよね?
「だめです。N国で使ってもらってますから、他に行く気はありませんよ。それより龍脈の安定でしょう」
(いや、ユーリの方が大事なんだけど…)
「誰になんと言われようと、N国に帰りますから」
これでも好きでN国にいるんですよ、ドラゴンさんになんと言われても、わたしはN国人です。
歩き続けてニ時間、その岩山の端を見てなるほど、と思った。
地震か大規模戦闘の跡だろう。地面が陥没して、岩が深い所まで刺さっている。見てすぐわかるくらいの大きな災害の跡は、龍脈を乱すらしい。
まず、崩れて刺さっている岩を全部浮かせて、岩山の脇に積む。小さな山のようになった。
穴は、風に砂をのせてさらさら流して塞いでしまう。
これでびっくりするような風景はなくなった。
「これだけでいいのかな」
(しばらく様子をみていて。ついでにその穴にたまった魔素を持って行ってくれないかな)
魔素を取り込むってこと?ちょっとこわいから、毒素を抜いて魔力だけを吸収するイメージで発動してみる。目に見える変化はないけど、いいのかな。
(ありがとう、これできれいになったよ)
声は聞こえるけれど、そのドラゴンはもうドラゴンではなく、形のわからない守り神だった。
そこからわたしへ何かが伸びてきて、捕まった。
(君は中継所になれるのね、なんだか便利)
それで終わったらしい。いいのか悪いのかわからないまま、また浄化してみた。
帰りもニ時間歩いて、その後馬車に乗り、元の町に戻って来た。今日はずいぶん歩いたな。
町中の屋台で、食べ物を買おうと並んでいると
「魔物が急に消えたらしいぞ、王国側は撤退し始めているようだ」
という声がきこえた。そうか、よかった。
「何かおそろしい力が働いているらしい、大丈夫なんだか」
おそろしくないから!大丈夫ですよ。浄化でも受け入れられないのか。ドロシアの言っていたことは、こういうことなのだな。
「でもよかったじゃないか、王国側と戦うなんて嫌だろう」
「そうだな、あの王様がこんなこと考えていたなんて、びっくりしたよ」
東側の人たちは、権力とは関係なくなっても西側と同じく国王だと思っていたのにね。
鳥の串焼きをおいしくいただいたあと、転移して首都に戻った。
転移施設の前の通りをのんびり歩いていると、ユーシス様がいた。
「ずいぶん待ったよ、大使館に直接来てくれてもよかったよね」
ああ、すみません。関わりたくなかったと言ったら怒るかな。
「ユーシス様は忙しそうでしたから。もういいんですか?」
「すべて終わったよ、逃がさないからね」
引っぱられて、大きな塔のような建物の前まで無理やり連れていかれた。
そこはユーシス様が大使をしているN国の大使館で、引っぱられたまま最上階についた。ユーシス様の執務室に入り、応接用のソファに座ってお茶をいただいている。のどがかわいていたのでお代わりもだしてもらった。
「ユーリ、君ならいつ会いに来てくれてもすぐに会うからね」
正面からにらまれた。よばなくても、わたしの方から来るものだと思っていたらしい。
お元気そうでなによりです、と返事をした。
「それで、何をどうしてこうなったのか説明してくれるよね」
どこから話していいのかな、N国から浄化した事は知っているのだろうか。
「あれってユーリ一人でやったんだ!それからどうしたの?」
馬車に乗り、歩いて、龍脈の流れを直して、魔素を吸ったと。
「今、歩いて帰って来たところです。すぐにN国へ戻って、報告したらハーメンランドへ行きます」
「ハーメンランドもユーリがやっているの?働きすぎでしょう」
普通、大規模な浄化をしたら最低一日は休むことになっているらしい。最近の白の塔はそんなに甘くないんですよ。特にジーク様の、わたしに何でも全部やらせちゃえって感じにはびっくりしてます。
「ユーリ、また魔力量が上がったね。いじめられただけ大きくなるなら、わざといろいろさせようとしているかもしれないな。私が近くにいたらそんなに仕事をさせなかっただろうけれど」
いませんでしたね。
「あ、そういえばハルがユーシス様に改名をすすめていました。名前で攻撃されるからって」
「誰に?もうこの名前でこの国に来たから無理。他国にも顔と名前は必要以上に広まっているから。誰に攻撃されるって言ってたの?」
わたしとハルに?かな。
「ハルに名前で攻撃しないようによく言っておいて。ユーリはしないでしょう?何かされたらハルだと思うからね」
そうでした、他にできる人がいなきゃ、やられないよね。
「ハーメンランドになんて行かなくていいよ。あと一週間はここにいて、魔素をよく確認してから帰ってね。急に魔物が出ました、じゃすまないんだから」
そう言うと、ユーシス様はジーク様に連絡をとってくれた。無理やり残されるようだ、アンリ、ごめんね。




