大国③へ行く
アンリを説得して、魔石作りをサシャに頼んでから、ドロシアにしばらく研究室に行けなくなると説明しなければならない。
ユーシス様には言わなきゃいいかな、用がすんだらすぐに帰ろう。大国③への内政干渉は、わたしの仕事ではない。
(行くんだねユーリ、よかった)
すぐには行けないよ、一週間くらい準備が必要だ。まず、大国③の資料を集めなければ。
大国③は、ほとんどが砂漠でできている。
大砂漠をはさんで、東側が首都で西側に旧王都がある。新政府と王家はうまく住み分けられていた。
ところが現在、なぜだか突然魔物が発生して、西側から東側へ移動している。
政治的な話ではなかったのに、旧王国軍が攻めてきているのではないか、といううわさから混乱が始まった。ここはユーシス様が担当しているから、手を出さない。
サシャに会って魔石作りをお願いすると、よろこんで受けてくれた。在庫があるので、白の塔へ納めてもらい、後でアンリが取りに来ることになった。
宰相様の奥様のハンナさんも一緒に作ってくれるそうだ。どちらの旦那様もおそろしいので、くれぐれも奥様方だけのことにしておいてね、と言ったのだけれど
「頼まれて作っていることを、秘密にはできないから」
だそうです。まぁ、宰相様とジーク様に秘密でわたしが動くなんて不可能なんだけど。
それよりも、アンリは本当に困っていた。
「何で?ユーリさんまで行く必要ないでしょう。だいたいこっちの騒動ってユーリさんのせいですよね、一人でどうすればいいんですか?何かあったら来てくれますよね」
「向こうにちょっと行ってくるだけだから、すぐに帰って来るよ。ユーシス様の仕事まではしないからね。
もちろんドラゴンのことは申し訳ないと思っているよ。でももう出てこないから、魔石もドラゴンもすべて大丈夫」
本当ですかね?とアンリが泣きそうになって言う。わたしは、アンリもここで一回くらい倒れてみたら去年のわたしの気持ちがわかるのではないか、と思っているが、かわいそうなので言わない。
最後にドロシアと今後の事についても話し合った。
簡単に今までの事と、大国③へ行くために研究室に来れなくなることを説明した。
「研究室の実験を先延ばしにする件は、了解したわ。元々ハーメンランドが落ち着いてからでもよかったから。
それよりも、もし龍脈が乱れているのだとしたら、戦争が始まるのと同じくらいおそろしい事なのよ。ジーク様に確認してみて。
大砂漠に大量の魔物が発生しているだけなら、大規模魔法ですぐに潰してしまえるけど、ユーシス様がそうしない理由があるはずよ。
宰相様とよく打ち合わせしてから行ってちょうだい。こっそり行ってなんとかしてくるなんて、不可能だから」
ドロシアは、こんなにおそろしい事は近ごろなかったわ、と言うと宰相様に連絡をとりに行った。
その後すぐには、話し合いの結論がでなかった。
夜中研究室で待つわけにはいかないので、一旦家に帰って、着替えて食事をして、白の塔に向かった。
夜中になってしまったが、宰相様、ジーク様、ドロシアとわたしで宰相様の執務室に集まることになった。
「まず、ユーシスは今打つ手がないと言っている。
王国側が魔物を兵士扱いしているから、全滅させれば国王と敵対することになる。政府側は攻撃されたからしかたなく防御したように見せて、魔物を全滅させてくれと依頼してきている。
一週間後には砂漠を越えるらしいから、戦闘は避けられない。ここでN国がなにかやるなら砂漠で5日後までにだな。
5日しかない、でもまだ5日ある。結界の準備はできているが、それくらいだ。ユーリはどうするつもりなんだ?」
「龍脈を直せばいいのだと思います。夢の中のドラゴンの話では、龍脈を安定させる事が重要みたいでしたから」
「できるのか?魔物が龍脈の乱れから発生し続けているとして、今から龍脈を安定させても、始まった戦闘までは無くせないだろう。
王国軍は攻め込もうとしているのだよ、相手が人間ではN国の魔力は使えない」
ユーシス様は、攻められる側である政府軍の近くにいる。
N国の軍艦の中で話し合い中だ。どんな話になるにしても、攻められれば迎え撃つだろう。
「ドロシア、両方を結界で守ったまま魔物だけを潰せるか?」
「私だけでは無理です。少なくとも3人は必要ですが、ユーリならできるかも」
「ユーリは龍脈の安定に向かう」
「それなら5人は必要です。魔物の相手だけでも大砂漠なら3人以上、両軍に結界で2人」
「どうするジーク、誰が行ける?」
「ドロシアとユーシスで結界の維持だな、魔物はカークとハルと私で5人だ」
「ジークはなしだ、お前は白の塔から離れるな。ユーリ、今ここから大砂漠の浄化は可能か?」
「そんなことができるのか?」
「やってみる価値はあるわね」
「ユーリならできるかもね、規格外なんだよ。誰がやったかわからないままでね」
(ユーリ、魔物を退治して!早くしないと魔素が国中に広がってしまう)
あー、ドラゴンがまた圧力かけてくるし、できますよ、やります。
大砂漠を鳥瞰して、中心を定めてから、最大魔力で上から一気に浄化する。
魔力がうねうねと上空に集まってきたから、大砂漠中を覆いつくすように光を上から下へ広げて満たす。爆発したような美しい光が大地に広がっていく様子を、しばらく眺めた。自分でやっているんだけど、迫力があってちょっと驚く。
「たぶん成功したはずです」
「本当か?ユーシスに確認してくれ」
サーチすると大砂漠に魔物の気配はないが、魔素だまりがある。
龍脈が乱れた場所なのだろう、浄化の効果がすっかりなくなれば、魔物がまた発生するかもしれない。
「ユーシスのサーチに魔物は引っかかってこないらしい。これでしばらくは大丈夫だろう、早く王国側と話し合うように政府側に言わないとな」
「ユーリは大砂漠でしばらく浄化をしてくれないか?すぐに魔物が発生したら、話し合いにならない」
「わかりました、現地で確認してきます」
今日はそこまでで解散した。浄化はいいとして、龍脈の安定ってどうするんだろう?とりあえず、大国③へ行っていいことになってよかった。




