ドラゴンの誘い
当然、予想外なことになってしまった。二度とドラゴンは出て来ないとよくわかっているのに、ドラゴン見たさに集まって来る人の対応に追われ続けた。
それでもハーメンランドのためには、
(わたしと約束しているので二度と現れません)
とは言わなかった。叫びたいくらいに思ったけれど。
半日魔石を作り、午後からは魔法陣研究室へ行った。魔力は毎日吸われ続けて、魔力量が少し上がった気がする。
でも去年よりはましだろう。疲れが取れない感じはあるけど、倒れることがないから負担が少ない。
「自分の仕事をわざわざ増やして帰って来るなんてすごいな。わざと魔力量を上げようとしているだろう」
とジーク様に言われた。上がっているらしい、下がるってないかな。
去年より魔力量があるから疲れが出にくいだけで、体の中から無理やり吸い取られた分、魔力が増えようとするらしいのだ。
宰相にならないためには、魔力を無理やり使い続けている若者を探せばいいのではないだろうか。それがわたしにとって一番重要なことじゃないかな。
「ユーリさん以上に魔力使っている人なんていませんよ。N国内で普通に生活していたらこんなに使わないし、外国に出て使うとしても外交員で無理しているのはユーリさんだけですよ」
アンリの説明にがっかりしたが、君がいるじゃないか。
「アンリが魔石作って研究室に行きなさい」
「いやですよ、生産量を今落としてどうするんですか。それに今から魔力量上げてもユーリさんより上になりませんから、安心してください」
(ユーリ、龍脈上にある家から生まれた子は魔素を多く吸収していることがあるから、魔力量が多いのだよ。ユーリやアンリの家もそうだった。
王城も多いけど、吸収する人も多くいる。
ユーリは濃くなりすぎた魔素だまりに生まれたから、特別多く吸収するくせがあるようだ。ユーリの生まれた場所、日時、星の動きすべてが揃っていたのだよ。魔力を受け入れる器の大きさは、呪いを受けたかのようだ。同じ人はなかなかいない)
なぜかドラゴンが急に長い説明を始めた。それであきらめろということですか?
(どうしても探したいなら自分で探せばいい。何秒か後にはわかるはずだよ)
N国内を覆うサーチをかけると、ぽつりぽつりと魔力反応が小さな点のように見える。N国内にはたくさんの点があり、王城には大きな点がいくつかある。でも自分の点の大きさはその倍以上だ。
(見えたかな?よくわかっただろう。それよりもユーリは守り神としてのドラゴンと二体もつながっているし、守り神は特別な場所にしかいない。そんな人間はユーリだけなのが、特別なことだよ)
その夜ドラゴンの夢を見た。北と南に住むドラゴンが仲良く話をしている。
(久しぶりだね、懐かしい。この子は特別な子だ)
(よく見つけてくれたね。この子がいなければ、話すどころか存在すら確認しなかっただろう)
(守護地は穏やかかい?)
(大丈夫だ、こちらは安定しているよ。そちらも安定しているようだね)
(ああ、ただ龍脈は乱れているよ)
(そうだね、もうすぐ安定するだろうけれど。
ところであの土地にはユーリに行ってもらいたいね)
(そうだ、ユーリが行ったらもう一体と簡単に連絡することができる)
(ユーリが行ってくれたらいいね)
(行ってくれるといいね)
(ねぇ、ユーリ行ってくれないかな。南へ下った大きな陸地へ)
目が覚めた。わたしに行けと言っているが、これは夢ではないのだろう。
でもね、わたしはあなたたちに給料もらって働いているわけじゃないですから。
多分ユーシス様のいる大国③だろう。国内が安定していないときいているが、わたしが行くようにとはいわれていない。
それにしても、ドラゴンから妙な圧力がかかってくる。
そこまでして行かせたいのか。
これをジーク様に相談してアンリを説得した上で、新婚のユーシス様に受け入れてもらうということですよ。
ドラゴンと違って人には都合というものがあるでしょう?
「ジーク様、わたしは今、大国③へ行ってもいいでしょうか?」
「ふざけているわけじゃなさそうだな。許可すると思うか?」
思いませんし、遊びに行くわけでもないけれど、無理ですよね。
「これ以上何がしたいんだ。まだ何かする余裕があるのか?」
ありません、したくないです。ドラゴンが圧力かけてくるんです。
「今まで通りの仕事をして、まだ何かする余裕があるなら行ってもらってかまわない。向こうも仕事量が多くて、手が足りないらしい。
まあ、お前なら全部できるかもしれないな」
いやな笑い方しないでください、できませんよ。
(行っていいそうだよ、ユーリ)
(行きなさい、ユーリ)
自分から言いだしたことだけど、わたしは少しも行きたくない。
それでも行くためには、魔石作りと魔力協力をどうにかするためのお願いをしなければならない。




