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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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ハーメンランドのドラゴン

 午前中のハーメンランドはいつも通りであまりに平和。急いで帰り、午後からはドロシアに大規模魔法を教えてもらう。


 「戦争時の大規模戦闘と防御。その他広範囲の作戦を進めるための魔法ということね。

 その人の能力にもよるのよ、あなたは普通に広範囲でと念じれば問題ないわ。つまらない」


 教えることなかったわね、とあっさりだ。そうですか、それではもう終わり?


 「でもね、それをやる力があるのが自分だということを忘れないで。あなたはこの世界の神ではない。できるからといってしてはいけないことがあるのよ。

 どんな大きな作戦も、効果の範囲内で一番害の少ないやり方を効率よくやる。それだけ、わかる?」


 「どういうことなんですか?やるなと言われればやりませんよ」


 「むしろもっとやってくれと言われるはず。でもね、害がある場合が多いのよ。どれもできないと断ることが仕事になる。それくらいできることって少ないのよ。私はこの世界を害して壊したとしたら作り直せないもの」


 ああそうか、神ではない。わたしはこの世界の一部でしかない。だって作り直せない、そういうことか。


 「N国にこんな攻撃魔法があり大規模に展開できるなんて、本で見て知っている人は多いけど、本当は使えないと知っている人は少ないの。実際大規模に展開するのは結界くらいよ」


 そうだろう、わたしもそれくらいしか思いつかない。


 「浄化や回復を大規模に使おうとしたことがあるけれど、それが悪いことだなんて最初は思えなくてね」


 宰相様にいけない、と止められそうだ。


 「汚染した人が気付いて、自分で改善しなければ意味がないのだそうよ。それでも浄化の依頼が来たら最小限手伝うこと。

 そこまで考えてから使ってね、って言われると使えないのよねー」

とドロシアは言う。この魔法も使わないくらいが丁度いいのか。


 「世界にかかわるって、一個人の考え方じゃ難しいものだから、神ではないと自分でわかっている人が、さらにどうかかわったら最善かをわかってからではないと動けない。

 つまり自分を特別偉いと思っていない君なら、自分を信じて良いと思ったことをするしかないかなぁ。そんなことにならないといいね」

 そうですね。


 その後、カークにその話をしてみた。

 「だから大きな力を正確に小さく使うんですよ。小さな力で本当に大切な所だけは完璧に守っておいて、中くらいの力で対応してやればいいんですよ」

 あっさり言われた。小さくですね、そして正確に。何度も言われていますよね。


 王立学院から戻ると、ジーク様によばれた。

 「で、どうなんだ?まだ調べられないって言うんじゃないよな?お前が力不足でできません、とか言うなよ」

 ジーク様はシーズン前にドラゴンを調べておけということだ。わたしは力不足でできませんよ。


 「去年のうちにわかっていて何も手を打っておかないなんて、と宰相が怒っている。俺がねちねち言われるんだからな」

 そうなんですけれど、どうしたものか。


 「とりあえず、データだけでも取って来い」


 もう先には延ばせないらしいから、このままそっとしておくわけにはいかなくなった。

 面倒なのでハーメンランドへは行かず、ジーク様に部屋を一つ借りた。

 今日はここにこもります、と言っておいた。


 念じて術式を飛ばす。ドラゴンの洞穴内に眠りの魔法を入れて十分待った。サーチすると眠っているので、浮かせて遠視する。

 測ってみよう。長さは尻尾を含めて十メートル。魔力はわたしと同じ1000000以上ありますよ。尻尾は六メートルで暗緑色。目は赤。角が二本で鱗が一枚十五センチくらい。えーと、雷系の魔法が使えるらしい。身体の回りがバチバチする。

 眠っているので会話は無理。雄のようです。両方の羽根をそっと伸ばしてみると十五メートルくらいになる。たたむ。

 何を食べているのか?この石の洞穴内に食べられそうなものはない。


 声を送って呼びかけたが、反応はない。これでいいか、ジーク様に報告書を書いておく。洞穴内を浄化したが、まだ眠ったままだ。


 「だめだ、これは危険だ。これに襲われたらキャンプは全滅するぞ」

 魔力量を見ただけでわかってましたけどね、どうしたものか。

 言葉が通じないドラゴンに言ってきかせることはできない。勢いのついた冒険者を全員足止めできない。N国人がハーメンランド王国に何か意見するわけにもいかない。

 でも危険など元より承知の上じゃないか。


 「見守るだけではだめですかね?」

 「全員死んだ後でお前はそう言えるのか?なんとかしないとな」


 はぁー、どちらかといえばドラゴン一匹の方を、ですよね。何もせず眠っているだけなのに。

 

 とりあえず三カ月間出られないように強いもので檻を作る。

 洞穴を中心に十キロメートル。結界のような目に見えない魔法の柵を高く伸ばして、たたんで、折り曲げて籠を編む。風は通るが魔法は通さない。ドラゴンも通れない目の粗い籠。魔力に反応させていて、魔力のないものは通れる。

 

 丸いお椀型の籠を作り終えて、強化しておく。ちょっといびつで所々失敗の跡があるのは不器用のせいです。

 ドラゴンはずっと眠っている。このまま竜の島のように石になるつもりなのだろうか。干渉しない、覆っただけだよ。


 伝わらなくても声を送る。

 「N国人のユーリです。あなたの眠りを妨げる者ではありません。囲いを作ってありますから、困ったことになったら教えてください」


 ジーク様に籠状の囲いについての報告書を書くが、形が上手く書けない。まあいいか。


 「器用なものだな、これでとりあえずいいだろう」

 いいえ、いびつですよ。

 「無詠唱で何でもできるなんて、本当に便利だな」

 悪い顔で笑うのやめてください。


 ほっとして少し疲れたので、そのまま帰って部屋でうとうとして、眠っていた。だから夢かもしれない。

 

 (私は北の果ての地で守り神となるものです。私に魔法の檻を作ったのはあなたですね?)

 「そうですよ。困ったことになっていたら、すみません」


 (私はこの地を守っているだけで、逃げません。ただ小さな魔物たちが困っています。

 私に会いに来れなくなったり、通れずぶつかったりしています。私を縛ってはどうですか?)

 「わたしがあなたを縛りたくありません」


 (ではあなたと私を結びましょう。縛るのでなければいいでしょう?)

 「そうですね、それでは結びますよ」


 わたしはお互いの心を、長いゴムのようなもので結んでつないだ。今日がんばって作った籠は全部消してしまった。


(ありがとう、あなたは別のドラゴンともつながっている。おもしろい)


 目が覚めるとまだ夜で、ぼんやりする。気がつくと心の中で何かが結んであるし、つながっているのがわかる。

 急いでサーチをかけた。北の地に作っておいたわたしの籠は、どこを探しても無かった。これは、大丈夫なのだろうか?


 (大丈夫だよ)

 返事がどこからともなく確かにあった。


 「そんな夢を見たら、実際そうなっていたようです」

とジーク様に報告した。

 「本当に大丈夫なんだろうな?」

 「さあ?」

 

 当然、行ってよく聞いて来い、という話になった。

 「行くというとあの北の果てに一人で、ですか?」

 「お前にできないなんて言わせない」


 多分ドラゴンより冷たい人だ。それならば行きましょう。わたしが本当に何でもできるなんて思っているんですかね。


 とりあえず転移してヘルトン領の領主館に来た。ベースキャンプまで人の流れに乗ってきた時とは違って、まだまばらにテントが張ってある程度だ。


 犬ぞりで北にある採掘場まで送ってもらうが、その先の北に行くものがない。どうしようか、採掘場を出て北に向かって歩いてみた。寒い、そして広い。


 困った。十分も歩くと、大地にぽつんと一人になってしまった。 

 誰か心配してもいいんじゃないかな、遭難するよ?N国人なら魔力があるから大丈夫だなんて思わないでね、本当に困った。


 (どうしましたか、迎えに行きましょうか?)

 これは、ドラゴンさん?


 (お願いします)

 初対面で食べられたりしないよね?


 (食べませんよ)


 その日、北の空に伝説のドラゴンが現れた。

 撮影され、ヘルトン領は大騒ぎになった、という事を知ったのは帰ってからだった。

 でも迎えが来なかったら自力じゃ行けなかったから、仕方なかった。そこはお願いしてしまうだろう。

 ドラゴンの洞穴と自分の部屋に転移魔法陣を設置したのも、後からだからできたのだ。最初からは無理だった。


 結果わかったのは、魔力をたどって来て心がつながったから夢で会っていたことと、すべては本当だったこと。

 友好的なドラゴンでよかった。これで白の塔に帰れる。


 しかしそんなことにはならなかった。


 

 

 


 


 

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