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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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ユーリの仕事

 ハーメンランドへ逃げて来た。

 まだあと半年残っているが、打ち合わせのためハーメンランドの魔石掘りの職人頭ペドロに呼ばれたので、ドロシアにも了解を取ってある。


 上からの圧力がかかったのだ。ハーメンランドへケインが行くことを王が反対した。外交員になること自体反対されている。研修生で白の塔へ行くことしか許可していないらしい。国外へ出ていい年齢ではないということだが、仕事をすることが気に入らないようだ。


 ケインは城に戻りジーク様の監視下にあるが、不満で爆発しそうだとナーシャが言っていた。ナーシャ、がんばって。


 そこでわたし、この便利な道具は

 「転移すればいいだろう」

というジーク様の一言により午前中はハーメンランドのN国店舗へ行き用件を終わらせ、午後からN国王立学院へ戻り魔法陣の研修生という名の魔法装置の一部となる。


 「どう、ひどくないこれ?」

 「ええ、今年はユーシス様もいないし、これで大丈夫ですかね?」

 アンリは店主になる。そこに不安はないが1.5人だ。

 あんなに大変だった前年度の半分以下の人員にアンリが不安がるのもわかる。


 N国はやる気があるのかと言いたいが、売り上げが二十倍になってもN国の中で大きなものではない。

 「適当にやってよ」

と宰相様の声がきこえてくるようだ。

 ええ、適当にさせてもらいます。


 去年あまりにつらい体験をしたので、作り置きの雑な魔石在庫が白の塔にある。ある一室を無理やり倉庫にして、二年分はあるだろうというほど作っておいたのだ。


 内職はサシャにさせた。つまり確認はしていないが、ジーク様も了解済みということだろう。ジーク様はこの在庫があるから半日でいいと言っているのだ。

 サシャは喜んで手伝ってくれた。ジーク様には決してさせないでね、と念を押したのに、少し恨まれている気がするのは気のせい?


 一番の難点であるファラディ妃対応であるが、苦情を入れたところ、ここにも上からの圧力がうまくかかって王はケインを派遣した。やった!

 ますますケインが爆発しそうだろう。ソフィ姫がんばって。


 それでも人手不足なので現地採用することにした。今年初めての打ち合わせでこれからペドロに会うことになっている。


 領主はいないが領主館と呼ばれている所へアンリと向かう。

 王家直轄地なので領主は王であるが、かつて領主だった誰かが建てた館に事務長のようなおじいさんがいる。ペドロは現場の職人頭なので、この場所では一番発言力がある。


 「どう、予約は入っている?」

とペドロにきいてみる。

 「去年より予約は入っているけど、去年並みだろうね。備品はある程度そろっているし、追加注文分をお願いするくらいじゃないかな」

と余裕をみせる。二年目だしね、利益は前年度よりなさそうだ。


 「N国の商品管理できる人を三カ月アルバイトで雇いたいんだけど、誰かいないかな?」

 「N国のね!興味あるな。俺が行きたいくらいだけど、そうはいかないから、んー次回までに決めておくよ」


 次回は来月にもう一度最終打ち合わせがある。それまでに決まれば問題ない。これでいいだろう、アンリもほっとした様子。


 「本物の魔獣でも出たら、この予想なんてあっという間にはずれるだろうけどね」

 ペドロはにやりと笑う。わー、そんな落とし穴が。うれしいようなうれしくないような。ちょっと心配になってきた。


 ペドロと別れてアンリと犬ぞりに乗り、中央採掘場に来た。

 まだ晩秋なので採掘場は全面的に操業中だ。冬場は雪嵐よけが必要なので、魔獣がいなくても規模を縮小して仕事をするらしい。


 広い平原まで進んで行くと、まわりには何もない。

 「アンリ、広範囲のサーチを使うから気をつけてね」

 魔力の制御をはずし、魔力量を最大にしてサーチの魔法陣を作る。無詠唱でできる人もいるが、わたしは訓練が足りないのですべて魔法陣を作っている。


 魔力が大地を駆けて行くと、情報が入ってくる。かなり大きな魔術を全力で使うのは気持ちいい。

 「すごい、これがユーリさんの力なんですね」


 「アンリ、知っておいてほしい。ドラゴンがいるんだよ」

 丸くなって洞穴で眠っているから、活発ではないな。アンリはびっくりして呆けた顔をした。そうだよね。

 「秘密だよ」


 北へ向けてまっすぐ探索してもらう。

 「わかった?」

 「うーん、なんとなく大きな魔物が…くらいは」

 「それをたまに確認してほしいな。動いたら大変だろう?」

 「わかるかわからないか、くらいですよ」

 「動きがあればわかるよ。大騒ぎになる前に調べたいけど、刺激して殺してしまってはかわいそうだろう」

 それでは何もかも終わってしまう。


 「けっこう扱いが難しいですね」

 本当にね、どうしたものか。このまま、いるようないないようなままが一番いいけれど。

 商店街へ戻り、店舗を予約してN国へ帰る。わたしは研究室に呼ばれているが、アンリはジーク様と打ち合わせがある。王城前で別れた。

 

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