古い呪い
「わたしは古い呪い一つ解けずに泣いているような人間ですよ」
「それは君が不勉強なだけだ。言ったろう、なんだってできるんだよ。今の君なら世界を操る事だってね」
リゲル様が友人として認めてくれていないとしたら、わたしは一人でわけのわからない巨大な力を抱えてどこまで堕ちていけたのか。世界を滅ぼしただろうか?ユーリを友人として大丈夫だ、と保証してくれた、リゲル様の人を見る力がなければ。
急いで今すぐに、あの大切な人を取り戻さなければ。わたしは一体何をしていたのだろう。
リゲル様、わたしはあなたの助けが必要です。びびって泣いてばかりいるわたしはユーリではない、ユンタなのですよ。
ジーク様に相談した。宰相様と話したこと、自分が思っていること。
王立学院に魔法陣研究ではトップクラスの研究者がいて、わたしのような実験体を欲しがっているらしい。あまり深入りするなと言われたが、とにかくどんな魔法陣でも作れるそうだ。
ジーク様は、一年間研修生として王立学院へ行くようにしてくれた。
アンリがユーシス様のところに行って、小国まわりを指示してもらうことになった。冬にはハーメンランドへ行くらしい。魔石を作る手伝いはしなければならない。
春になった。わたしの能力では入学することなど考えられなかった、王立学院へやって来た。ここに来るまでユーシス様に文句を言われ、アンリに困ったと相談された。ケインは喜んでいたのでいいだろう。
本当にごめんね、アンリ。後でお詫びするし、手伝えることは手伝うよ。でも君はケインよりかなり実力あるよね。
そしてわたしは研究室長ドロシアに捕まっている。学生は一日五十人ほど、授業を受けにやって来る。彼らの作るあやしい魔法陣にも付き合わなければならない。正直、この頭のいい人たちは常識に欠けていてかなりこわい。
「さあ、ここに大量の魔力があるわよ。存分に使ってちょうだい」
わたしの名前など誰も覚えていないだろう。魔力を入れているわたしなど、魔力装置の一部だと思っているに違いない。彼らは魔法陣のせいで爆発しても、わたしに傷が付いても平気だ。身体強化だけで本当に乗り切れるだろうか?
それでもドロシアに言われるがまま、二週間は耐えた。でもそれではここに来た意味がない。
「古い呪いを解きたいんだ」
「あら、そんな事はもうわかっているわよ」
と新しい魔法陣の本を出してきたので、わたしはそれを掴んでネーデリアに逃げ出した。
ネーデリアに着くとすぐに王宮に迎えられた。リゲル様は時が止まったように眠っている。
呪具に呪いを戻す、それだけの事だった。
ネーデリアにある古い鏡を一ついただいて、魔法陣を作成する。呪具に魔力を込めるように発動させると、魔法陣が光り、リゲル様から呪具へ何かが入っていった。
鏡に何かが入り終わると、リゲル様が少し動いた。
大きな瞳が少しずつ動く。
「リゲル様」
「ユーリ」
やった!その日リゲル様は長い眠りから目覚めた。
リゲル様はゆっくりと回復している。ネージュ様は竜の島から翌日にやって来た。
「ユーリ、無事だったのか。よかった」
リゲル様の意識がはっきりしてきて、ネージュ様が泣いているのを夢のような気持ちで見ていた。
するとそこへドロシアが現れた。追って来たのだ。
「契約は一年です。さあ帰りますよ、皆様ごきげんよう」
感動的な場面など関係ない。わたしはドロシアに引っ張り出されてしまった。
リゲル様が笑いながら大きく手を振ってくれた。呪いが解けて本当によかった。
それから半年間、魔力をしぼり取られ何度も爆発した。そして
「これだけあれば魔王になれますよ」
というほどの量の魔法陣の本をもらった。
「練習できないのが残念ね」
そう。本当にえげつない種類の術式ばかりがこんなにあっても、誰かを捕まえて試すわけにはいかない。
発禁本ばかりを抱えて、ハーメンランドへ向かった。




