宰相の仕事
宰相様の仕事とは何だろう。他国との交渉は魔力がなくてもできる。N国は小国で三つの大国と争う気はない。
平和のための交渉になる。魔道具販売と魔力を使った和平交渉ができることを大国に認めさせて、小さな争いを調停する。
国交がなければ商業活動ができない。そのために大国の下で働き、世界平和の役割を果たしているらしい。
他に何ができるのだろう。それでうまくいっているのなら、それ以上は必要ない。大きな問題がなければなぜ宰相様が忙しいのか?いろいろなことがよく見えていない。
宰相様は何かやろうとしている。それが終わったら交代しようと簡単な作業を代わってくれというように言う。それがうまくいけば、とりあえずわたしにも宰相職が務まるようになるのだろうか。
それとも全く違う方向の何かなのだろうか。
宰相様には目に障害のある奥様がいるとサシャに最近きいた。
彼女はぼんやり光を感じることはできるが、細かい物は全く見えていない。それでも魔力と第六感といわれる特別な物を見る力があるという。魔力が見えるらしい。
彼女にとって一番の脅威は強大な魔力を持つ宰相様だったのではないか?
「二人はとても仲がいい。宰相様が私に奥様と仲良くしてほしいと頼んできたのだけれど、宰相様と話すのは今でも少し怖い」
サシャは彼女と毎日のように会っていて、変な所でぶつかったりするが目が見えているように動くことができると言う。次に何が起こるかがわかっているかのようだと。
それは神殿の巫女にごく稀に現れるという予知能力者だろうか?彼女は誰なのだろう?
なぜ宰相様と出会ったのだろう。その能力を生かせる最大の人といる。宰相様がやろうとしていることって何だろう。
わたしの理解を超えたところにいる人たち。それをわたしは何もわかってはいない。
宰相様と会う機会があった。
「戦場一つまるごと結界で守ることってできるかな?」
できるのか?そんな事。
「君の今の力を最大に使って。できるかな」
「できる、かもしれないです」
それはどれくらいの時間できるかはわからないけれど。結界を張る。イメージではかなり広範囲で可能だろう。
「すごいね、それは。私たちが両方の国を二人で守れるかもしれないね」
どことどこの国を、ですか?
「その間にある国は壊れるだろうね」
それはどこの国ですか?予知されているのですか?確定していますか?わたしたちはすべての国を守れないのですか?
「ジークに頼んだら、何もなかったことにできると思う?三人で」
「何もなかったことになどできるものではないですよ。どんな魔術師でも破壊したい人の気持ちは変えられない。守って被害を少なくすることだけですよ」
「私はいろいろな今までのやり方をまちがえたとは思っていないよ。かなりうまくやっていると思っていた。今現在とてもうまくいっている。これ以上ないくらいには思っていたんだ。でもね、ほんの少し何かが違っていたらもっと良くなっていたかな、なんて考えるとね」
「それは宰相様がしなければならない範囲のことですか?」
「そうではないな」
「では、最善策を伝えて見守る、ではダメですか?」
「ダメだろうね」
大国が戦争をするとしか思えない。そんな事が起こる未来を見てしまったとして、わたしたちに何ができるのか?できないのか。
大国は同盟を破ってまでそんな愚かな事をする必要があるのか。二つの国は王制で、国はとても安定していて偏った思想もない。
それではどこの国が?同盟のない、不安定で、偏った思想を持った戦争などという愚かな事をしそうな二国。どこだ?
大国③?ユーシス様が向かう国が?でも相手がいない。いや違う。あの国に不安定要素があったとしても内政が落ち着けば問題ないはずだ。
一体どこだ?
「どこだと思う?それを常に考える。そして事前に手を打つ。戦争を回避する結界を張るなんて最後の策だよ。そしてそれに至る策を愚策にしないのが宰相の仕事なんだ。
どう?君の魔力のすべてはね、回避策に使われる。後の仕事にほとんど魔力はいらない」
それはN国の宰相の仕事ではないですよね。
「私は世界中の戦争を回避する組織を作っているんだ。もちろん姿の見えない私が作っていることなどほとんどの人にはわからないように、公平で中立で力のある誰かたちがうまく作ったように見せてね。N国が裏で動いていたなんてよくある話じゃないか」
そんな事がこの人には可能なのか?すごい、それができるなら。
「N国の宰相の仕事ってどこまでだろうね。国内をうまく治めている国の王より仕事は多いよ。でもそれでは大変だろう?だから別の誰かに少し仕事を分けてうまく回してやろうと思ってね。
私は今焦って形を整えているところだよ。だってさ、君は、おかしな事に君の魔力量でいうとね、すべての不安定要素を吸い取って何もなかったようにできるよ。
一国の宰相のままで、たった一人で。君はやろうと思ったら、技術的にそれを使えるのならなんだってできる力があるからね。
私のやろうとしている事なんてね、君から見たら魔力の弱い者が考えた苦肉の策だよ。おかしいだろう?
でもこの方向で進めた方がいいと思えるんだ。だって君みたいな特別な人間がN国に生れ続ける保証はないから。
こんな人間が目の前にいるとね、自分のしている事がバカらしくなって焦ってしまうよ。私は君が少しおそろしいよ」
ジーク様が言っていた。こんな宰相様を見るのはめずらしいと。何言ってるんだろう。わたしは何もわかっちゃいない。しかもそんな事は実際できない。何一つできない。




