魔獣の正体
「探知機が見つけてカメラで撮ったものがあるんだ。
これだよ、大きな鹿に見えるだろう?数百枚はこの大鹿の写真だと思うよ。ぼんやりした鹿の大きな影に見えるし、鳴き声もそれらしい。
魔獣ではなく大鹿だろうってことになってきたんだ。でも、もう一枚。これには羽根があるんだ。森の中から大鹿が出て来たにしても、中央の採掘場までは遠すぎる。
鹿が雪嵐の中食料もなく森から出てきたのなら、死体があるはずだって探したけどなかったんだよ。しかも羽根付きの写真が撮られた。これは何だろうってね」
羽根のある魔獣、ドラゴンがここに住んでいたのだろうか。今まで見つからないまま、こんなに魔石掘りの盛んな土地に。
外はよく晴れている。中央採掘場は魔石がまだ多く埋まっている土地で、魔力があふれている。
竜の島のようなやわらかい光が見える。人にやさしい威力で、生活用品にちょうどいい感じの魔石なのだ。昔からあるのに、これに集まって来たのだろうか?
ケインたちが採掘場の中で話しているうちに、外へ出て少し離れた。最大のサーチを魔法陣で放つと、小さな獣がいくつかひっかかる。
そして、たしかに大きな鹿がいた。三メートルはあるだろう、これほどの鹿は見たことがない。
北の方に火山の跡か温泉があるような、暖かい土地があるらしい。暖かく緑のある一画は、鹿の生息地なのだろう。その中のボスだ。
太古の森で、一画という感じだけれど広い。洞穴があり、こちらに続いている。人が入っていい場所ではないな、どうしたものか。
それとは別に、さらに北。極点に近い人のいない土地に、大きな岩の洞穴がある。深いし広くて暗いが、ここも少し暖かくて湿っている。
ここにいるのはドラゴンだ。ひっそりと一匹だけ、いつからここにいるのだろう。
人に害を加えるものではないらしい。あまりの騒ぎにちょっと見に来たのだろう、どうしようか?
「はっきりとはわからないが何かいるようだ」
とペドロに言うと、うれしそうな顔をした。
ケインもサーチをしたが、狭い範囲だったからわかっただろうか。
来年もやるようならN国へ連絡してくれ、とペドロに言って別れた。
アンリの元に帰るとかなり売りつくされていて、荷物は少なくなっていた。
ケインは残りたいような顔をしていたが、そうはいかない。どこに行っても手が足りないようなら呼ぶからね、と言うと嫌そうにした。
帰国のご挨拶のため、一人でファラディ妃に会いに行くと一瞬誰だっけ?という顔でじっとわたしを見て
「ケイン殿下はいらっしゃらないの?」
と言われた。わたしですみませんね。
「多分来年また来ると思いますよ」
「楽しみにしているわ」
妃殿下は笑ってくれた。
来年はケインとアンリだけにしよう。
わたしはここに来ないで、N国で魔石作って後方支援にしたい。ここは気苦労がありすぎる。こんな所で倒れるのはもう嫌です。もっと大勢で内職にしないと、一人で負いきれるものではないよね。
「ユーリもまた来てね」
ええー、嫌ですー。にこやかにお別れした。
転移魔法陣でN国に戻り、ジーク様には詳しく報告した。
「ドラゴンなんて本当に居たんだな。その太古の森も極秘にだけど、いつか調査が必要だろう」
今すぐではないが、何かあってからでは遅いというところか。
「来年も行って調べて来いよ」
とジーク様はおもしろそうに言うが
「絶対、嫌です」
と答えておいた。




