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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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魔獣イベント





 「ユーリ、魔力量が上がっているよ」

とユーシス様のうれしくない報告があった。

 冬が終わろうとした頃、魔石で無理をしたせいか魔力量が1、5倍になってしまった。年齢的にもうこれ以上は伸びないと思うよ、と言ってくれた。


 冬の終わりとともに、寒さの中魔獣を探すイベントも終わりに近付いてきていた。まだ注文がありN国が撤退するのは最後になるだろうが、まわりは店じまいの準備を始めている。


 結局魔獣がいるいないというよりも、このイベントはなんだったのだろう。

 利益は前年度の20倍以上になる見込みだ。カメラなど備品をかなり販売したので、替えの魔石注文の見込みも入れるともっと利益が出るらしい。


 最初から誰かが仕組んだものだとしたらすばらしい。N国もすっかり踊らされた。

 N国が仕組んだとさんざん言われてしまったが、そうではない。


 たしかにN国が裏で動いていたと言われてしまえば、誰もが納得する答えとして通用するだろう。

 おかげで楽しかった、来年もまたやろう、と声をかけられた。

 それで、一体誰がこれをやっているのだろうか?わたしは誰に来年もお願いしますよ、と言えばいいのだろう。

 暇ができてくると疑問は益々ふくらんだ。


 春になる前、ユーシス様は奥様と来年度から暮らす大国③へ行く準備を始めるため、旅立って行った。

 もう小国まわりをわたしに任せて大国③の専任となり、現地で生活する大使となる栄転だ。 

 大国①と②は同盟国で大使のいる安定した国だが、今まで誰も行っていなかった南の大国③は新たな土地になる。大変だろうが、とてもうれしそうでよかった。 


 小国まわりはわたしとアンリに任されることになった。

 ケインはまだ若いし研修生だ。それに王子ということで国外へは出したくないらしい。


 それをケインは不満に思ってしまった。魔獣に疑問も持ってしまった。彼の中で何かがヘルトン領へ行くしかないと結論付けた。

 アンリを留守番にしてわたしも行くことになった。


 アンリには残りの魔石や備品を売りつくして、片付けをお願いした。春には商店街を再開するので店舗を返さなくてはいけない。ケインの魔獣探索が終わったら帰ろう、と伝えてある。


 その日の早朝二人で転移すると、ヘルトン領の領主館は淋しいほど人がいなかった。波のようにベースキャンプへ押し寄せた人たちは、あきらめの悪い人たちを一つにまとめてほとんどが帰っていた。

 その最前線に残されたベースキャンプへ向かうと、テントが8つ、30名くらいが残っていた。


 「N国の人が今から来てくれるなんてね。カメラも探知機もずいぶん買わせてもらったよ。魔力はあるの?魔法陣で本格的に探してくれるのかい?」

 ベースキャンプのペドロという男にそそのかされて、一通りの探索をしてみると約束した。

 「この騒動を起こしたのは君じゃないの?」

とペドロにきくと、

 「N国だってうわさだよ」

と逆に言われた。


 ケインと犬ぞりを借りて平原の中央の採掘場まで来ている。ペドロが案内役を買ってくれた。最後まで見届けたいのだそうだ。

 わたしたちの探索が実質的には最後になるらしい。


 「そもそも雪嵐の向こうに魔獣としかいいようのない化け物を見たのは、俺たち魔石掘りの仲間なんだ。

 位置ははっきりしないが、中央の採掘場からぼんやり大きな影とかん高い鳴き声が聞こえたらしい」

 一人二人ではない、十人くらいがそろって目撃している。それぞれが口々に帰った先で報告して大騒ぎになった。


 「採掘が中止されて、失業するんじゃないかと心配してね」

 不安の中待機させられていたらしい。


 「百人もの職人が寒さと不安の中、キャンプをしながら再開を待っていたんだ。なんとかならないかって考えたよ。

 するとね、一カ月もしないうちに千人もの人が集まりだしたんだ。しかもここの寒さなんてなにもわかっちゃいない、外国人ばかりがね」

 どんなに装備してきても、現地に来てみなければわからない。ここは本当に寒いのだ。雪嵐で動くこともできない日が続いたりする。


 「領主館から俺たちに仕事が依頼されてきたよ。千人の外国人がヘルトン領で凍死したなんてわけにはいかないだろう?

 料金を取って、キャンプ場を整えてくれってことだ。俺たちの日常生活をここで味わってもらおうと、資金をもらってちょっと豪華にやってみせたんだ。

 これがいい仕事になるってすぐに気付たよ。客も俺たちも満足して収入もある。こんないいことがあるなんて考えもしなかった。

 まわり中ベースキャンプを中心としたキャンプ場になったものだから、魔石掘りの再開はあっという間に始まった。  

 キャンプ場はノウハウを教えた地元の若者に任せて、とにかく稼ぎまくったよ。おたくもかなり稼いだだろう。これに乗り遅れちゃいけないってね、あの祭りのようなものは何だったのだろうね?」


 まったく、誰もがよくわからないまま踊らされちゃいましたね、なんて笑い合った。偶然だったらしい。乗り遅れちゃいけない、と誰もが踊ってしまったあの熱狂が。


 「楽しかったよ、ありがとう、来年も頼むよ、なんて感謝されてね。何だったんだろうって改めて思ったんだ」

 わたしもそうなんですよ、そしてここへ来た。

 「仕掛け人が何だったかわからないなんて、嫌じゃないか」

 そうですね、わたしもそう思いますよ。ケインは黙って聞いていた。ケインではなく、わたしが知りたいのだった。

 

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