ハーシィ嬢父
ハーシィ嬢父の視点です
私の母に影響されて、母にそっくりな次女は、残念なことに能天気なところもそっくりだった。
言う事をきかないし、わがままで何を考えているのかわからない。
世間一般の基準とは違う所で生きている母と、同じ種類なのだろう。子供の中でも私は扱いに困っていた。
兄二人は優秀で手がかからず、私と同じく文官として城務めをしている。幸せな結婚をして、孫もいる。
姉と妹は、好きな相手の所へ早くに嫁にいった。
幸せにしていてくれればいい。
貴族にしては裕福ではなかったのだ。どこへでも嫁にいけ、と言っていた。
二人とも裕福な商人の所へいったのは、家が慎ましい生活だったせいだろうか?今では全く不満なく暮らしているようだ。
それなのにコネで外交員になった次女だけは、27才にもなってまだ嫁にもいかず家にも寄り付かない。見合いの話ですら遠慮されているのに
「私の計画はもう少しなのよ!」
とわけのわからないことばかり言っている。
夢の世界へは嫁にいけないのだよ!もしかしたら既に、夢の世界の嫁となってしまったのか?
三、四年音信不通になっている。案じてはいるが、キャリアもあり仕事だけは順調らしい。あきらめていた、そんな子供も一人くらい仕方ない。
ユーシス君という男の子の写真を見たことがある。
どこかの国の貴族らしい、きれいな顔の裕福な家のおぼっちゃまだ。
ハーシィが子供の頃から目をつけていた。計画しているのは彼を捕まえることなのだろう、コネで外交員になってまで。
逃げてくれ。親ですら苦労のなさそうな男の子とハーシィでは、かわいそうな事になってしまうと思った。
それなのにその男の子は、立派な大人の男になってハーシィと共に我が家へやって来た。
捕まったのか、とうとう。ハーシィ、お前すごいな。父としては残念な感想だが、思わず苦い顔をしてしまった。
「お願いします、お嬢さんと結婚させてください」
やっぱり!ユーシス君いいのかね、本当に。思わずハーシィをにらみつけた。お前はどうやってだました?
娘はニヤニヤ笑いが止まらない、といった顔をしている。
「私の家はN国の貴族でしたが、王制が終わると同時に、貴族をやめてしまっています。
国内ではそれなりに地位はありますが、貴族同志の結婚をお望みなら、役不足なのはわかっています。それでもよろしければ…」
なんだと!それは貴族より上だろう。N国だったのか!
N国の魔力は世界中が恐れ、必要としているものだ。
N国は大国も認める世界最重要国である。しかもその魔力量を重要視した政策により、主な魔術師の情報はごく限られた人にしか公開されていない。
思わず目を閉じて考え込んでしまった。私の娘こそ釣り合わない。このいき遅れでいいのか?
N国にユーシスという魔術師がいるという、どこの国でも欲しがる情報を私に公開してまで。そこまでの娘ではない。
「お父さん、息子が立派すぎて困っちゃったの?ねぇ?」
と能天気な声がする。
そうだ、そのN国の秘密が息子になる。いいのか、この娘と同じく能天気に喜んでしまって。
「本当に急な話で申し訳ありません。今婚約のままでは、この先いつ結婚の予定を入れられるかわかりません。
一週間だけ無理やり休みがとれましたので、なんとかお許しいただきたいのです」
「私のこの娘で本当にいいのですね?急いで後から悔やむ事はありませんか?」
「いいえ、決してそのようなことはありません。もう何年も前から彼女のことを愛しています」
そうなのか、いいのか。よかった。
「喜んで、祝福いたしますよ」
翌日には母が、近くの教会で、簡単に結婚式をするための準備を終えていた。近くに住んでいる者だけで集まって、暖かい結婚式が挙げられた。
本当によかった、と今では思っている。




