ハーシィ嬢の結婚
ハーシィ嬢視点です
ユーシス様には、残してきた写真からすべてがばれてしまった。
夜会の日、深夜になって私の部屋へやって来たユーシス様は、すべて知ってしまいました、と言った。
あー、子供の頃からの夢は。私が結婚するという甘い望みは。
あらゆる夢が砕け散った気がして、がっくりひざをついた。
「祖母が言っていました、あなたのお祖母様から許可が出ましたと。
いいですね、ハーシィ様?私はあなたを家に持って帰って、好きにしていいそうですよ」
はい?まだそんなこと言ってていいんですか?私はずっとあなたをねらっていた悪い女ですよ?
「なんだか反応が薄いですね、まぁいいです。それでは明日、私の家へ行きますから、今日はもう休みましょう」
ユーシス様は上着とズボンを脱いで、私のドレスやコルセットを取り外した。手早い。
あっという間に下着姿のまま二人でベッドに入り、抱えられたまま眠った。
ユーシス様は、私の体に腕をまわしたまま眠っている。
固まった、眠れますか?これ。
むりむり、写真で見ていたよりずっと素敵で美しい。ドキドキしすぎて一晩中顔を見てしまった、ありがとう。
そんなまったりとした早朝、まだ暗いうちに宿を連れ出された。
転移魔法陣に乗り、N国の馬車に乗せられて、夜明け頃、写真で見たことのあるユーシス様の城のような自宅に到着した。
そのまま寝ぼけて、朝食を少し食べたような気がする。朝日が上る美しい町を見下ろす、三階の私用の部屋。
なぜそんな部屋が私用にあるの?という所に連れて来られて、ふらふらとメイドさんに、お風呂を用意されるがままに入れられた。
そしてなぜだか、見たこともない私用の服を着せられた。
全く知らないぴったりとした下着や靴があり、何着も色や形を変えてドレスがあり、それに合わせた宝石や小物があった。
「今日のために私の祖母が、数年前から少しずつ用意していました」
高級そうなドレスを着た私の所へ、ユーシス様がやって来た。
「さあ、行きましょう。何も言わずに寝ぼけていては、本当に好きにされてしまいますよ。いいのですか?」
と心配してくれた。
「もちろん、いいのですよ!」
「そうですか」
うれしそうなユーシス様と一緒に馬車に乗り、N国の役所で結婚証明書を受け取ったので、私も名前を書いた。
その後、ユーシス様のお祖母様の家へ向かった。
「まぁハーシィちゃんいらっしゃい、とってもうれしいわ。
そのドレス、よく似合っているわね。どう?ユーシスのことは気に入ってくれたかしら?」
「はい、とっても!」
「私もうれしいのよ」
よいお祖母様ですね。
この方がずっと写真を送ってくれたのだ。ユーシス様と二人でお礼を言って、また馬車に乗った。自宅へ向かっている。
ユーシス様のお父様は出勤の準備をしながら、こんな所で何をしているのだ、ときいてきた。
ユーシス様がこの方と結婚します、と言うのをきいてそうか、と言ったまま出掛けて行かれた。
そのまま出て行こうとしたユーシス様を、お母様が引き止めた。
「きちんと結婚証明書をもらって、書いてきましたから」
と言うのをきくと、
「女の子をさらってきて嫁にするなんて、いつの時代の人なの!」
と怒っていらっしゃる。
「ご実家のお父様のお許しがなければダメよ」
と当然な流れになってきたので安心した。
父は絶対に反対しない、私が嫁にいってやるのだ。泣いて喜べ!と心の中で思った。
ちょっと困った顔をしたが、ユーシス様は旅行用のカバンをつかむと私の手を取り、馬車に乗り魔法陣に乗りまた馬車に乗り、お昼前には父を説得してしまった。
翌日実家で結婚式をして、夫婦となり、ユーシス様の自宅に戻って来た。
夕方になっていた。その夜から私たちは夫婦となったので一緒に生活している。
さすがに段取りが早すぎるわ、とユーシス様の御家族は皆さんびっくりしていらっしゃる。やっぱり早いですよね、これ。
「ところであなたは誰?」
となったが、お祖母様にきくようにとユーシス様に言われていた。説明まで省くのか、早い。
そのままお互いの一週間の休暇中、ユーシス様のお家で二人でだらだらとまったり過ごした。
なんにもしない毎日なのに、このために急いだ、とユーシス様が幸せそうに笑っている。あなたを好きにしていいなんて言うからいけないんだ、と。
夫だけれど、ふっと不思議な気がする。
これは一週間だけの夢か、ちょっとした結婚イベントのゲームなのか。
とにかく退職するまでは、また元の生活に戻る。二人で暮らせるようになるには、まだ一年以上はかかるのだ。




