研修生
ネーデリアではお互い精一杯だったとわかっているから、ユーシス様には何も言われなかった。結果ほぼうまくいって、ネーデリア国は立ち直っている。
わたしはもうユーシス様に見放されたのだろうと思っていたが、そういう感じでもない。
しかしネール領の役立たずが、最後に大切な貿易担当者を眠らせて、回復できぬまま帰国するのだ。
ネーデリア国内のことはユーシス様一人でがんばっていたし、わたしがよい仕事をしたところなどどこにもない。
あの後何事もなかったかのように、白の塔に戻って来た。
ユーシス様は宰相様とジーク様に報告をしている。三人はとても仲がよく、会える時はいつも三人で集まるようにしているらしい。今回はわたしに関する楽しくない話題もあるだろうけれど。
サシャは結婚退職していたが、中央塔隣りの居住塔に住んでいるので、毎日お昼に来ているそうだ。
わたしとサシャの代わりに二人の研修生が入っていた。
ヒマな先輩が午後から面倒を見てあげなさい、となぜかユーシス様に命令されている。
こんなわたしに一体何が教えられるというのだろう、謎だ。
彼らは14才と15才のお子様で、何にでも興味があるので何を教えてもいいらしい。
14才の女の子ナーシャと15才の男の子ケインという。
サシャとわたしが比較的おとなしかったので、宰相様たちはやんちゃな彼らを持てあまし気味なのだ。
「ま、ユンタよりずいぶんマシかな」
とジーク様は言う。
わたしはネーデリアを引きずっている。ここでは必要ないのに黒髪三つ編みでメガネをかけ、90%魔力を抑えている。
ユーリでいたいくらいだが、誰もがユンタと呼ぶ。ユンタという別人のネーデリア人がN国へ来てしまったようだ。
それでお子様は変なお兄ちゃんに興味津々だ。
「ユンタ先生N国人なの?その変な髪型なに?全然似合ってないんだけどー。メガネ必要なの?」
とナーシャ。
「ユンタ先生魔力少ない外交員なの?俺より弱い?ちょっと戦ってみたいー」
とケイン。
「ユンタ先生の本名はユーリでネーデリア人だ。弱いからお前と戦うことはできない。でもそれは秘密だ」
「なんだ弱いのか、変な外交員」
「でも宿題は出せる。明日魔石を30個作りなさい、先生をバカにした罰だ」
「ネーデリア人の宿題なんかやりたくないー」
「じゃ50個だ。ネーデリア人をバカにした罪は重い」
えーやだー、戦うーやっつけてやるー、と叫んでいる。
「ユンタ、いい加減にしろ」
ジーク様に怒られた。わたしが悪いですか、ジーク様?
「ユンタ、お前じゃないんだから、奴らは魔石10個でちょうどいいくらいだ。これからまだ増えるし、白の塔では十分やっていける魔力がある。適当なことばかり言ってないで、きちんと教えてやれ」
「ユンタ先生はユーリ先生なの?本当は強いの?」
「ああ、強かったら今日から誰がなんと言おうとユーリ先生と呼んでくれる?」
「わかったよ、ユーリ先生」
「ナーシャも?」
「わかった」
「それでは強いわたし、ユーリ先生がジーク様を術式で縛ってみせましょうー」
「ユンタ!いい加減にしろよ」
白の塔を追い出されてしまった。
本当に強いのー?とケインに何度も言われている。もうちょっと弱かったらよかった、とユーリ先生だって思っているさ。
図書館にやって来た。今までわたしがやっていたように、術式を覚えて練習するのが一番いいだろう。
あやしいユーリ先生は術式の本を借りて練習室へ向かう。室内と三人に強化結界を張る。
「さあどうぞ、術式の練習をいくらでもやってくれ。でも術式をいじってはいけないよ。城が壊れるからね」
「ユーリ先生の術式を見せてよ。強いんでしょう?それに術式をいじって城なんか壊れないよ。やったことあるし」
なんだと、いけないよケイン。
「そんな危ないことは二度としてはいけないよ。本に書いてある術式を使いなさい」
わたしは水の術式で天井からシャワーのように水滴を落とす。その後角度を考えて光の術式を使う。
結界で濡れないことを確認する。大丈夫、ほら虹ができた。
反応が薄い、だめか。
えーと、炎の玉を小さくして、強い硬いものにする。10個その辺に浮かせて固定する。安定したら風の術式で弱い風を循環させる。
部屋の中がどんどん乾いていく。どうだろう?
「えーと、先生」
「なんでしょう、ナーシャさん?ユーリ先生と呼びなさい」
「ユーリ先生、これどうなってるの?よくわからないけど、とてもすごいことはわかる。でもあんまり強いって思えないんだけど」
「ユーリ先生は攻撃できないの?これすごいけど、なんかすごすぎてよくわかんないし、強そうじゃないよ」
こんなに基本的な術式ばかりなのに?攻撃なんて危なくて普段使わないよ。
うーん、なかなかうまくいかない。じゃ、またあれでいいのかな?
水の術式で大量の水を浮かせて強い炎で一気に
「ドッカーン!!」
おお、いい音が出た。部屋は壊れていない。
「きゃーっ!」
ナーシャの悲鳴がきこえた。
「うわーっ!」
ケインが叫んだ。
「ユンタ、指導するんだ。怖がらせてどうする」
わたしは指導者として問題があるらしい。
ナーシャとケインにまで涙目でにらまれてしまった。一体わたしにどうしろと?
ジーク様にまた怒られてしまった。
お前がいるだけでナーシャとケインの三倍は疲れる、ということだった。
「もう帰ってくれ」
ジーク様がそう言うので、ユーシス様のところへ戻されると嫌な顔をされてしまった。
「本当に災難が歩いているように見えてきた」
ユーシス様、誰が言ってましたか?それ。




