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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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ユンタ

 わたしの国は大国と大国の間にはさまれた小国で立地条件が悪く、多くの資源もない。交渉と魔力協力によって成り立っている。どちらの大国も脅威であり顧客でもある。三国は世界最強の同盟国だ。


 技術も文化も人々の暮らしも華やかなものになっている。すべては魔力のおかげ。

 王や貴族が存在するものの、ジーク様の親友である宰相様に比べたら権力など微々たるものだ。

 魔力はあらゆる権力の上に存在する。最大の魔力量とそれを適切に使用できる頭脳があれば、誰もがこの小国の運営を任されるだろう。ただ平和になれきっている国民の中でそれをしようという者は少ない。魔力量が少ないほとんどの人々はこの安定した状況を喜んで受け入れている。


 というようなことをジーク様が説明した。今はこの国の現代史を学んでいる。あまりにもあからさまな説明にサシャもわたしもびっくりだ。

 「まあ、こんなところだな。貴族に遠慮する必要があるのか?と逆にききたい」


 わたしたちに何をさせたいのかというと、先日の黒の塔での不祥事の謝罪を強要されているジーク様の弁護をさせたいのだ。

 サシャと顔を見合わせるが、何もいうことはできない。ふるふると首を振ってみる。サシャはうんとうなずく。沈黙…。

 「そうかわかった。お前らなー。術式100展開しろよ。今週中に試験するからしっかり練習しとけ!」

 サシャと顔を見合わせる。ふるふると首を振る。サシャはうんとうなずく。無理なのだ。

 わたしに10以上は無理だ。1から5まではまだ脳が反応するが7以上はもう頭がぼおーっとしてなんとか指が慣れで動いている状態だ。なんとかあと3つ何かが発動しているようないないような。それがわたしの限界だ。

 サシャは多分もう少しだけできない。


 術式1つで魔法は1つ発動する。術式100で魔法は100発動する。宰相様はそれくらい日常的に使用しているのではないかといわれている。


 ふっとジーク様は笑った。それっきり眠ったように目を閉じて動かなくなる。これで今日の授業は終わり。

 朝30分ほどの勉強会だが、毎日あり宿題は非情なほどある。おかげで魔力量は確実に上がっている。


 その後簡単な白の塔の掃除や備品の補充、日によって窓拭きやトイレ掃除をする。ジーク様たち以外のローテーションになっている。黒の塔の貴族たちにはない習慣で、元貴族も平民も区別がない。

 食事は中央塔の食堂で。外出時は外で食べる。


 なので勉強会後9時からお昼頃まで3時間だけ、わたしとサシャのように一般人よりは多めに魔力のある者は宰相様の執務室兼会議室のような部屋へ向かう。


 宰相様の机を中心にまわりを10の小さな机が取り囲んで仕事が割りふられる。


 わたしとサシャは主に魔力操作担当なので、さらに後ろの末席で簡単な魔力操作やたやすい案件の処理などが宰相補佐のパーシル様から渡される。

 最近はひたすら専用の石にそれに見合った量と種類の魔力を込める。

 (うーん、うーん、うーん)

 中くらいの石にはうーん3回とか適度な感じで?


 それに比べて他の新入り役人さんたちは、書類と後から入るさまざまな情報に踊らされてばたばたしている。まるで戦場のようだ。毎日残業もあるらしい。見るも無残な職場で、ついついお茶やお菓子を用意したくなる。

 魔石となった石を専用の棚に収納してカギをかけると、わたしとサシャの机をくっつけてお茶を10杯とお菓子を用意して回復魔法をかけておく。これで今日も仕事は終わり。


 サシャは少し疲れた顔をしているがいつものことだ。じきに魔力は回復するだろう。

 いつもならすぐにこっそりと退室するところだが、午後からやらなければならないのはなんといっても術式100!しかも目の前でそれを発動し続けているといわれている人が、それをやりながら書類を読んでいるのだ。


 じーっと見てしまう。100の術式がすべて見えるわけではないが、いくつかはあきらかにわかるものがある。

 まずは顔。わたしたちは宰相様の顔を認識しているはずなのにうすらぼんやりとしか思いだせない。

 気配を消した影の薄い人などではない。堂々とした圧倒されるほどの存在感がある。威圧される。でも顔が認識できないのだ。声もくぐもっている。

 これだけで顔と声の認識阻害という2つの魔法が使われているはずだ。術式もこれくらいならわかる。使いやすいのでこの2つはマネできそうだ。あと98!


 わたしとサシャは30秒ほどじーっと暗殺者のように血走った目で宰相様を見つめた。必死だった。気付かないようなのん気な方ではない。

 「ジークんとこの2人!出ていけ!うっかり攻撃するぞ!」

 くぐもっているくせにふるえるほど冷たい声がして、認識できないのに射殺されるほどの視線がつき刺さる。

 「すみません」

 そうっと退室する。怖い。


 ジーク様?わざとでしょ?こうなるのわかってましたよね?なんだか頭の中で笑い声がきこえた気がした。

 宰相様に怒られるという失態はすでにジーク様の耳に入り、次のいやがらせの段取りは整っていることだろう。


 それでもわたしとサシャのような下の者に、ジーク様は特別に目をかけてくださる。ありがたいようで困ることもある。

 ジーク様、オルグ様、ヨーカ様そしてサシャとわたし。それ以外の方々は、主に白の塔で雑用をされている。わたしたちの立ち位置はあきらかにおかしい。それでいじめや妬みを警戒してみたがそのようなことは全くない。全くないなんて何かがおかしい。

 対外的に活躍されている三名の先輩がいるらしいが会ったことはない。


 元の国名ナーダリア王国、現在の国名N国これがこの国の名前だ。記号のようになったのは王家が政治の表舞台から退き、宰相様を元首とするようになってからだ。


 他国から見たら全くよくわからない国になってしまったことだろう。わたしたちは宰相様と呼んでいるが、名前は公表されていない。

 家名は貴族以外公表しないことになっている。誰もが同格にという基本理念からだが、ますます他国からはよくわからない国となっていることだろう。


 それも戦略に見えるかもしれない。それでも不満はでない。対外的にはとても付き合い易く、相手の利益や立ち位置も考慮された外交政策には不満がでないようになっているらしい。

 国内的にもかなりゆとりのある政策がとられている。小国ならではということもあり、隅々まで不満が出にくいように配慮されているのだ。


 それでもあきらかに軍事大国である。

 国の上層部が他国を本気で攻めた場合、魔力や技術力で一国くらいはあっという間に滅ぼせるはずだ。

 その上での親切外交である。他国であったなら本当におそろしい国だろう。

 それでもうまくやっているのは宰相様の力といえる。


 宰相様の人気はとどまるところを知らない。圧倒的な国民の支持を得ている。うちのジーク様とは大違いだ。

 なぜかジーク様には人気がない。悪評があり過ぎて言い訳が追いつかない。わたしたちではどうしようもない。


 ジーク様は毎日朝九時から夜まで国のために働いている。そのあり余る魔力を使い切るくらい働いて国のためにありとあらゆることをしている。過労死するのではないかと思われるほどだが全く人気がない。

 本人が魔力で人気を落としているのではないかと疑っているが、まだきいたことはない。まあ、まともに答えてくれるはずはないのだ。


 それにしても術式100!いまいましい。サシャは思ったことを口にしない従順な女の子だ。どうにかしたいが、サシャとわたしではまともに解決しそうにない。困った。

 サシャといるとどうしても沈黙が続く。力もあり優秀な娘であるはずなのに、うまく会話ができずにいる。

 宰相様の執務室から食堂についたので、サシャとはここでわかれる。 

 「それじゃ、おつかれさま」

 「……おつかれさまでした…」


 ジーク様から給料がきちんと支払われているので、お昼を食堂でとり寮の個室で生活するのには十分なお金がある。魔術師って高給だ。優遇されている。


 12時ちょうどに来る人は少ない。Aランチの列に並ぶ。町中とくらべるとほぼ半額の料金でそれなりにおいしい。カウンター付近の席で一人でささっと食べる。10分もあれば食べ終わる。片付け終わって塔を見ると時計はちょうど12時10分。いつも通り。


 午後からは自由なので図書館に行く。サシャはなぜかあのジーク様のところへ帰り、補助をしている。わたしはなるべく近づきたくはない。絶対面倒なことになる。ジーク様のような人と親しくしないようにしている。だってこわいでしょ。

 





 


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