ネール領ユーリ外交員
軍艦でそのままネール領に帰って来た。
「きちんと追い返せてよかった。後は私がそれなりに報告しておきますから安心してください。サーシス様は細かい事にはこだわらない方ですから」
とリゲル様がユーシス様を見る。
細かい事にこだわっている人は苦い顔をしていた。N国側のジーク様はわたしを放っておくことにしたようだ。
「ユーリ、私は君に補佐をやめてもらうことにしたよ。一緒にいたら身が持たないらしいね。
連絡は取り合うがこれからは別行動にするから、他の領内へは私一人で行く。
君はこのネール領の外交員として、ここに留まることになったよ」
いきなりの昇格で、ほめられているのかダメ出しなのかよくわからない。
「リゲル様に預けることで許可がでたのだよ。他国の方に頼るのではなく、きちんとN国人として仕事をするのですよ」
「はい」
N国側はリゲル様を全面的に信用したようだ。ネール領属国竜の島預りといったところだ。
「リゲル様申し訳ありません。とにかく面倒事が多い人間ですが、よろしくお願いします。何かあればすぐにN国が対応します。なんでも報告して下さい」
「大丈夫ですよ、私の友人ですから」
「ありがとうございます」
サーシス様の公邸で、正式にネール領外交員として認めてもらった。
「がんばってね、ずいぶん楽しくなりそうだ」
とわかっているような事を言われてしまった。
サーシス様はわたしをおもしろいおもちゃのように扱ってくれる。リゲル様は本当の事を報告してはいないけれど、サーシス様は受け入れてくれたのだ。ありがたい。
そうして半年が過ぎた。
ぜいたくにも公邸住まいの快適な生活。
主な仕事は魔道具の販売で、施設長さんからの注文を取りに行ったり、リゲル様にN国から来る新商品のカタログを渡したりしている。
ごく稀に他国の外交員さんがN国派出所のここを聞きつけて、注文をしに来てくれる。注文をN国へ送り、新商品のカタログを渡す。
それだけ。ほとんどヒマな人間が、外国の公邸でごろごろしている。
居候なのでメイドさんたちにも何してるのかしら、という冷たい目で見られ始めている。ごもっともです。
ネーデリア国内をあちらこちらへ飛び回っているユーシス様が、いかにも外交員といった感じで立ち寄るときは、わたしに対してのものとはあきらかにメイドさんたちの対応が違う。
N国のエリート風だからか、銀色の長めの髪と深い青色の瞳のユーシス様は非常に人気がある。
それなのにユーシス様にいつも怒られているせいで、わたしは残念な子と思われている。メイドさんたちの対応が違う、とユーシス様に苦情を入れたいところだ。
「ユーリはこのままでいいから、ここを動くな!わかったか?」
とユーシス様はいうが、わたしもたまには他の領内へ行きたいなぁ。
「少しネール領内を見て回れるようにしてあげよう」
見かねたリゲル様がネール領職員許可証のようなものを作ってきてくれた。
これで公共施設への立ち入りが可能になる。
リゲル様はわたしにとても甘い。ユーシス様の過保護は全く気付かないところであったらしいが、リゲル様は目に見えて甘やかしてくれる。他国の外交員に職員許可証はどう考えてもおかしいし、許可したサーシス様もかなり甘い。わたしが悪人だったらどうするのだろう。
「ユーリは友人だから大丈夫だ」
とリゲル様はいつも優しい。
さっそく病院や学校などへ行ってみたが、当然どこであっても魔道具を販売するわけにはいかない。
うろうろして邪魔になるばかりで、これといってわたしにできることはなかった。
回復薬くらいならいいだろうかと問い合わせてみたが、N国の販売品目にはなかった。
自分で作るのはいけない、余計なことはするなというような返事がきた。
薬草を使っての回復薬がきちんとあるので必要ないのだ。効きめはゆっくりで強い薬ではない。薬草でも採集してみようかと思っていた。
そんなある日、サーシス様が倒れた。
健康そのものであったし、高齢でもなく持病もない。すぐにわかったのは毒殺の可能性だ。
たしかに国から狙われてはいたが、領内の身近にいる人の中であやしい人物はいなかった。確実に毒を入れられるような所に信用のない人物はいなかったのだ。
つまり、N国からしばらく前にやって来て公邸に堂々と住んでいる異例の人物の、わたしが一番あやしかった。