ジーク
ジーク様視点です
まるで悪魔のような男が王都で働いている。
その存在は、常に世界を監視するのが仕事の自分にとっては、前からの標的だった。尋常でない魔力量は、他国の危険人物一覧の中の誰と比べても脅威なのだ。
魔道具店の店番をしている、この薄茶の髪と目のおとなしそうな男が、その悪魔のような男だ。
「こんにちは初めまして、ユンタと申します。お世話になります」
初めまして、ではない。両親に放置されていた不遇な子供の頃から知っている。
魔力量が多ければ多いほど、子供の扱いに困る親は多い。自分たちの子供の魔力を制御できないのだから、仕方ないと言えなくもないが、魔術師は不幸な子供だった場合が多い。
「それでは来週から王城で働いてもらおう。白の塔に来て、ジークを訪ねてもらえばわかるようにしておくから」
「はい、よろしくお願いします」
見かけにだまされてはいけない。こんなに恐ろしい者が、王都の真ん中で警戒されずに放置されていたなんて、あり得ない事態なのだ。宰相がうるさく言うのもわかる。
しかしまだ大人になったばかりの、何も知らない一般人だ。
(これを一般人というのか!と宰相が怒鳴りそうだが)
今までそっとしておいたように、白の塔でもなるべく普通に扱ってやりたい。
その翌週から、大きな兵器のような人間を抱え込むことになった。事前にあらゆる準備をしておかなければならない。
寮に入るため、その施設全体に強化結界を張る。部屋には特に念入りにして、王城全体にも必要だろうな。
魔術の練習室には、使う度に強化結界を依頼しておいた。服は普通のローブではダメだ。魔力がだだ漏れないように作業服で体を覆い、防御しなければならない。
そうだ、魔石でも作らせて魔力を放出させよう。うっかり攻撃魔法でも放たれたら大変だ。魔石用の原石を大量に手配しなくては。
王立学院の魔法陣研究室長であるドロシアに、王城付近の結界を張り直してもらって、あちこちほころんでいるところもついでに直してもらおう。
そうこうしているうちに、魔力切れを起こすようになってしまった。情けないが、本当に俺の手に負えるのだろうか。
なるべく目立たず生活できるように、と情報操作しているうちに、理解してくれる人たちが協力してくれることになったのはありがたい。
今まで不遇だった青年がここで実力を認められて、かつて存在したことがないほどの大魔術師になるのだ。トラブルが起こらないように、皆で力を合わせて見守りたいと思っていた。
三カ月ほどの間は、順調にトラブルを起こす事なく過ごせた。
しかし司書の女性がユンタの威圧で倒れてしまう、というトラブルが起こってしまった。協力者の一人だった。
加害者として処分するには本人の自覚がなさすぎる。順調に魔力を増やしていたのはよかったが、その時まで威圧の威力が危険なほどになっていたことを、見極められなかった。規格外すぎて、本人もよくわからなかったのだろう。見守るというやり方の失敗だ。
このままここにいることは、できなくなってしまった。
白の塔で魔術師を育てられなかったのは初めてで、自分の力のなさがどうしようもなく悔しい。私もまた、大切に育てるはずだったこの不遇な青年を追い出すことになるのだ。
宰相と話し合った結果、罰を与える代わりに、外へ出してユーシスの監視を付けることにした。
ユーシスとユンタは、ネーデリア国という内戦が始まりそうな国へ派遣されることになった。
しばらくすると、ユンタ改めユーリと属国の王が、内戦とは全く関係なくN国と対立するかもしれない、とユーシスから連絡が入った。
事情がよくわからなかったので、新婚旅行中近くにいたこともあり、心配だから私が見に行くことになった。
しかし船上で属国の王と並び立つ姿は、N国で見ていたおとなしそうな男ではなかった。ずいぶんしっかりした顔になった。
よかったじゃないか。外に出て、認められて。早く外に出してやればよかった。
この規格外な青年に王城は狭かったのだな。
あんまりうれしそうな顔をしているから、こちらもつい攻撃するつもりはなかったのに、大砲を放ってしまった。
元気でやっているようなので、安心して帰国することができた。