ユーリの戦い
ユーシス様に回復をかけて宿泊用の部屋へ案内してもらった。
今回は二部屋用意してくれたが、ユーシス様を一人にしておけない。ことわってソファに寝具を用意してもらった。
「くそぉユーリ、覚えておけよ」
と捨て台詞を残して、ユーシス様はベッドの真ん中で眠った。毒消しもかけてあげた。
上着を脱いで着替えて、ソファの中に丸くなって入る。明日の自分がとても不安だ。
翌朝も日射しが強く、すっかり回復したユーシス様と朝食をいただいている。
ネージュ様にお礼を言って子供たちにもお別れのあいさつをしたが、リゲル様は朝早く出かけていて不在だった。
その後馬車で南部の港に着くと、昨日の帆船のとなりに軍艦が浮かんでいる。なぜかそちらへ案内されると中からリゲル様が出て来た。
「N国は君の迎えに騎士団の高速船を出したらしい。もうじきこちらに来るよ。大砲で迎え撃って追い返すから支度して」
楽しそうにリゲル様が笑う。
「リゲル様、それは戦争ですか?」
「そうかもしれないし、ちょっとした茶番かもしれない。君次第だよ、どうする?
王になって指揮をするのは君だ。すべては君がどうしたいかだよ」
すでにユーシス様はN国側と連絡を取っているし、敵側につくかもしれない。でもまだ帰りたくないんだ。
「やりましょう、追い返してやります。大砲に玉を詰めて待っていてください。すべてわたしが茶番で追い返してみせます」
ユーシス様も乗せて『竜の島号』はN国との戦いに出航した。
ユーシス様はずっと連絡し続けたまま、わたしをにらんでいる。船内にスパイがいるようだ。あと五分くらいで着くよ、と教えてくれた。
N国の高速船はいきなり大砲を放ってきた。
危ないでしょう?でも魔術ではなかった。他国で派手な魔術合戦をするほど考えなしではないようだ。
高速船の船上で高笑いする二人が見える。大砲を続けて発射するので、どこの馬鹿野郎かと思ってよく見る。
敵の魔力量は二人とも、ものすごく多い。一人はわたしの半分以上ある。何?この強敵。
近づいてみてわかった。特徴のある、黒の混じった銀灰色の髪と黒に近い灰色の瞳の大柄な男はジーク様だ。
ガンガン攻撃してくるのは、多分新婚旅行中の楽しいオプションツアーに参加しているジーク夫妻だ。
金髪碧眼のお嬢様の見た目をした人はサシャだ、危ないよ。こうして見ると似たもの同士だなぁ、攻めの姿勢がそっくりだ。
結界を強化して、リゲル様に大砲一発と空砲を一発お願いする。
大砲が高速船をかすめて爆発した。あれ?結界くらい張るでしょう、普通。
「こらぁユンタ!なんてことするんだ。危ないだろうが」
ジーク様が理不尽に怒っている。
「ユーシス様、結界張るように言ってくださいよ」
「そんなことしたらいつまでも終わらなくなるだろう?
こっちに結界張ったの?術式使っちゃだめって言ってあるだろう、あんなに約束したのに!」
さらに理不尽なことを言われて怒られた。
ユーシス様に怒られているわたしをしばらく眺めた後、高速船はオプションツアーを終えて帰って行った。お幸せに。