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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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竜の島

 家の中央には、ほこらのような穴のあいた大きな岩があった。

 奥に強くて大きな魔力があるから御神体のようだ。ほこらの奥で強い力が光っているように感じる。


 やさしい笑顔のご夫妻と、にこやかなユーシス様。

 そのとなりにわたしも座らせていただいて、甘いお菓子と花のような香りのお茶をいただく。回復の効果が少しある。


 それにしても正面のほこらが光ってきてうるさい。


 にこやかにお茶をいただくが、どうも気が散ってしまう。

 茶器は高級品らしくお茶もおいしい。家の中はとても古く、重厚な美術品のようで渋い顔をするところなどない。


 それにしても、神経にさわる。なぜだろう。


 子供たちが元気でほほえましいがそれを気にしてだろうか、ネージュ様に言われてしまった。

 「子供たちがうるさくて申し訳ありません」

 顔に出てしまっていた、まずい。

 「そんなことはありません、とてもかわいらしいです」

 リゲル様もいぶかしげな顔をされているし、ユーシス様ににらまれてしまった。


 「あの正面の岩が少し気になってしまって、申し訳ありません。ほこらでしょうか?あの穴は」

 そう言って正面を見るとますます強い力が光る。うわぁ、これを無視するのはつらい。


 さすがにユーシス様も気付いた。

 リゲル様は不思議な顔をして、じっとわたしを見ている。

 その間にユーシス様が入る。わたしの護衛になってしまってますよ、ユーシス様。異常事態だ、かなりまずい。


 「あなたは一体誰ですか、ユーリさん?」

 リゲル様が詰め寄る。


 おいしいお茶ですね、などというごまかしはもうきかないらしい。


 強大な魔力がわたしになにか呼びかけてくる。


 とりあえず、わたしの魔力量と相手の魔力量をはかってみましょう。

 リゲル様の視線は脇において正面を見る。

 ふむふむ、わたしは安定の90%カット、やればできる子だ、この状況でほめていただきたい。

 ほこらさんの魔力量は、あーかなりありますよ。でもわたしと同じくらいだ。やっぱりわたしは本当の化け物でしたね。


 「わたしはあなたを攻撃しません、安心してください」


 リゲル様の前で口に出して言ってしまったが、それで納得してくれたようで、光が弱まって落ち着いた。


 さて、どうしましょう?ユーシス様。

 「ユーリ、これは報告させてもらいますよ。

 後で何らかの罰が下ると思ってください。出張手当が減額されても泣きついて来てもらっては困ります。

 わたしも冷や汗が出ましたから。怒っているのは私の方ですからね」


 「減額?ユーシス様、説明していただけますか。

 竜のほこらがこんなに反応するのはサーシス様以来ありませんでした。ユーリさんは王の資質があるという証明になるのですよ」


 「はぁ?ユーリ!もう国へ帰りなさい。あなたは邪魔な人間になってしまいました」

 「あの、ユーシス様?リゲル様に少しくらい説明してもいいと思いますけど」


 「何を!リゲル様申し訳ありません。

 N国内の問題ですから、何もおききにならない方があなたのためです。このままユーリを帰していただけますか」

 「私がユーリさんを疑ったままでいいのですか? 

 調べますよ、気になりますから。和解したほうが彼のためになるでしょう」


 ユーシス様はしばらく苦い顔をされて、しぶしぶといった感じでうなずいた。


 「ユーシス様はずいぶんと過保護のようだ。

 N国は昔王制だったから、王族ではありませんか?それならばわからなくもない。

 でもその子孫はもう実質王にはならないし、それだけの力もないから、そこまでの王の資質があるとは考えられない」

 リゲル様はうれしそうに話す。

 「すると彼は王族ではないが王になる資格がある者だ、違いますか?」

 ユーシス様に反応はない。認めちゃってますよ。


 「あーまずい」

 「まずくはない、むしろ歓迎しますよ。

 ユーリさん、あなたも私も王の資格があって王ではない。似た者同士だ。友人になりましょう」


 リゲル様はにこやかに手をさしだしたので、わたしもにこやかに握手した。まずかった?


 「ユーリ、連絡が来ました。明日ネール領に迎えの船が来ますから、それで帰ってしまいなさい」


 えー、宰相か騎士の二択になってしまいますよ、かなり困る。いろんな人に怒られることも含めて。


 「ユーシス様、落ち着いてください。いいですか、お互いの問題点についてゆっくり話し合いましょう。

 ネージュ、お茶をいれかえてさしあげて、夕食も準備してください。大切なお客様です。今日はここに泊まっていってください。


 まずあなたとN国がユーリさんをとても大切にされている。

 それは私にもわかります。私もサーシス様に何かあれば同じような対応をするでしょうから。

 しかし今ここは属国とはいえ私の国の中です、ネーデリア国ではない。

 そして王である私がユーリさんを友人と認めたのですよ。

 わかりますか?敵対することも不利益になることも何もない。

 ネーデリアにユーリさんの情報を流すこともなければ、危害をくわえることもない。

 サーシス様にも話さない。サーシス様はネーデリアのかたですから、この国の中のことを話す必要はない。

 属国ではあるが同じ国ではないのです」


 ユーシス様の肩の力が抜けてため息がでる。


 「そうであればこちらとしても最善策です。これ以上ない対応をありがとうございます。

 王を疑うのは失礼ですが保証はありますか?」

 「書類でよろしければいくらでもサインしましょう。

 しかし竜のほこらの前で私が誓ったことにまちがいなどないのですよ」

 「それでも一応書類は作成しますから、後ほどサインをお願いします。

 N国へ向けてのものです、信用していないわけではないのです」


 「わかりました。それにしても私の勝手な考えですが、この若い男の子に対してあなたたちは過保護すぎる。まるでカゴの鳥だ。

 彼に自由な考えが育ちにくくなるとは思わないのですか?」

 「ええ」

 「自由な国というN国の印象が変わりそうだ、かわいそうに。友人としての心配ですよ」


 その後、広い石造りの庭園に宴席が設けられて、夕食をいただくことになった。

 星がきれいに見える美しい夜だ。

 ユーシス様はこんな失態をいまだかつてしたことがない、と嘆きながらがんがん地酒をあおっていて、かなりの酔っぱらいになっている。

 王であるリゲル様に失礼ながらかなりからんでしまって、こちらがあわててしまう。

 これは外交問題になりますよ、私より悪い。


 リゲル様は新しい友人ができた祝いだといって、島中のおいしいものを集めてくれたようだ。あまるほどの料理が並んでいる。 

 ネージュ様も子供たちも、まるで祭りのようだわ、と楽しんでいる。


 王様のお祝い事に、島の人たちも地酒やフルーツなどを持って来てくれて、民謡のような不思議な音楽が演奏された。

 衣裳をそろえた踊り子の人たちまで来てくれていて、庭に篝火が焚かれて、大宴会場となっていった。

 これはもう本当にこの島の祭りのようだ。


 明日にはおそろしいことが待っているが、今夜はとても楽しい。

 N国内にもいなかったわたしの一人目の大切な友人、リゲル様は本当にすばらしい人だ。


 「わたしが心から友人とよべるのはあなただけですよ」

といったらびっくりして悲しそうな顔をされた。


 そうなんです、友人がいなかったのです。


 「私があなたにとってよい友人であり続けると約束しますよ」

と優しい顔で言ってくれた。うれしい、惚れそう。

 

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