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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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ネーデリア行き

 前日の宴会の時とは違い、ユーシス様は厳しい顔でわたしに説明してくれている。

 城内のとある小会議室には、わたしとユーシス様の二人きり。上司と部下だ。

 前日にかなりうちとけた自己紹介が終わっているので、いきなり仕事の話から。


 「まず君はもうユンタではない、名前はユーリと改名する。魔力制御は常に90%、場合によっては95%まで上げて。

 行く国に合わせて、髪も色を変えて茶から黒にするといい。目の色は…そのままでいいや。

 君は今日から茶色い目で黒髪のユーリだ、髪は伸ばして三つ編みにでもするといい。

 かわいい方が侮られやすいから、いっそオカマキャラにする?」

 「それは…ちょっと…できるだけ努力します」


 「じゃあ無理にとは言わないけど、そのまじめな性格のままではいけないよ。君は鋭くて怖い自分のままでは損をしてしまうだろうからね。もっと軽くなって、別人になるんだ。

 他国に君をそのまま紹介してしまうようなヘマをしないでね」

 「はい」


 「ではネーデリア国の国内情勢と、周辺国の様子、大国の様子が一部ずつ三部の資料になっているからお昼までに読んで覚えてしまって」

 「はい」


 「私はジークと宰相のところへ行って、打ち合わせをしてくるから。じゃ、午後にまたここで会おう」


 ユーシス様はあっという間に出て行った。わたしは大国のはるか東南にある島国の、ネーデリアへ行くことになってしまった。


 この世界の真ん中の一番大きな大陸には、大国①と大国②があり、なにかと競い合っている。どちらも自国が世界の中心だ、と公言していて譲らない。

 その大陸の南側にほぼ逆三角形つき出た半島が、旧ナーダリア王国で現在のN国である。 


 ちょうど大国①と大国②の間で国境付近の半島だから、どちらも同盟国なのにいつも威嚇されている。N国の魔力協力という、雑用係をすることによってなんとか関係が保たれている。


 それでも大国は、魔道具輸出国のN国にとってとてもよい顧客だ。


 N国の南側にある、横に長い島国をパルネリア国という。世界貿易の中心地で、いつも利用している。

 この国とは本当によい友好関係がある。


 そして今回行くことになったネーデリア国は、大陸の遥か東、東南諸島地域にある小国である。


 魔力制御90%、髪を黒く伸ばして三つ編みにして後ろへしっぽのようにたらすと、ちょっと東南風なユーリになる。


 さあネーデリア国へ出発、といっても転移魔法陣が組まれているので、N国から友好国パルネリアの東端へ飛び、さらにパルネリア国から友好国であるネーデリア国へ入る。


 N国とネーデリア国に友好関係はないので、直接の入国はできないようになっている。


 N国は基本的に武器輸出国なので、商取引だけはどこの国ともやっているが、友好国でない国もある。


 ネーデリアのネール辺境地区という、北端を領地にしているサーシス伯爵は、国中央と同程度の富と権力があり、対立している。

 実質的な貿易相手は国家ではなく、このサーシス様である。


 にもかかわらず、温厚で情が厚く理にかなった発言をする、新しいもの好きのよき領主様であるらしい。

 彼に関しては全く非の打ちどころのない人物である、という評価が下されている。


 わたしはこの方の部下である貿易担当者とユーシス様の、商談のお手伝いをするという名目の雑用係だ。


 内戦の可能性があるというのは、ネーデリア国の国王がサーシス伯爵を妬んでのことである。 


 それならばネーデリアと商取引をすればいいのだが、宗教的な理由で国王とその周辺の人物が魔力を全否定していて、話にならないらしい。

 おそろしい魔がやってくると、本気で信じているのだからどうしようもない。


 いっそサーシス様が国王となってしまえばいい、周辺国の誰もがそう思いながら貿易をしている。


 「でもね、N国のましてや君が、他国の内情のために術式一つでも使ってはいけないんだ。

 何があっても見ているだけだよ」


 出発前の打ち合わせで、これでもかとユーシス様に言われているので、決してそんなことはしないと書類にサインまでさせられている。


 もちろん雑用係にそんなことはできないし、そこまでネーデリアに思い入れはない。

 いろんなものを見ておいで、という宰相様の期待どおり、見てくるために力を注ごうと思っている。 


 そのためにメガネを購入した。

 なんと、相手と自分の魔力量が計測できるすぐれもので、かなり高価だった。なによりも自分が一番心配だから、常に一定の魔力量になるようチェックするつもりだ。 


 メガネに三つ編みはネーデリア周辺国にありがちなファッションで、ちょっとした商談でもふざけた格好にはならないらしい。

 いろいろな支度をして、すっかり東南諸島への旅行気分になっている。


 一週間後、わたしは自分の身のまわりの物を少し詰めただけのカバンを一つ持って、ユーシス様は三つもカバンを持っているので一つ預って、N国王都の転移施設へ向かった。


 N国の魔法陣転移施設は、城を出てすぐのありふれた商店街の並びにある。

 商店とまちがえそうなものだが、警備されているし入るには旅券が必要だ。


 いつもの町のごくありふれた場所から、あっという間にパルネリアに入った。


 パルネリアも似たような施設で、そのまま待合室で待っているとユーシス様宛に特別な旅券が発行された。


 そのネーデリア国の旅券は、金の紙で細工が美しく見なれない書体である。一枚ずつ持ってパルネリアの転移魔法陣へ入った。


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