サシャ
サシャ視点です
ジークと私はユンタさんが来る前までは上司と研修生扱いの部下なので、ほとんど個人的に話すことはなかった。
ちょうど三カ月前のお昼休み、誰もが昼食へ出かけている白の塔で、ジークが机の上にぐったり倒れかかって意識がないのを初めは気付かなかった。
私は疲れて休んでいるのだろうと思ったが、まさか意識がないとは思わずに声をかけた。
「大丈夫ですか?」
でも返事がない。
これは…多分魔力切れ。ジークには悪いけれど見つけてしまった。
これがどうしても欲しくなった。
思いっきり回復の術式を使う。何度も何度も、自分の魔力が尽きそうになるまで。
ジークがびっくりして目を覚ましているけれどかまわずに続ける。
うれしかった。私は魔力が多すぎて家族ですら持て余し気味だったのだ。
魔力回復に特化した魔術なのでこの平和な国では役に立たないし、魔力の少ない人に向けて使うような威力でもない。
役立たずの化け物と、家族や皆がそう思っていることはわかっていた。
一年前に白の塔へ来たけれど、年齢が若すぎたこともあり、魔術師としては採用されなかった。
でも魔力量が多い者を手放せないのか、研修生という生徒扱いでジークが引き取ってくれた。
いろんなことを教えてくれて、自分の能力をどうやって使っていくか考えてみようと言われた。
とても優しくておもしろい先生だったし、初めて優しく私の魔力について考えて教えてくれたのがジークだったのだ。初めから好きだったのかもしれない。
それでも私の魔力の使い道を自分で見つけた時のうれしさは、もうそれだけで存在することを認められたようで世界が変わった瞬間だった。
ジークはユンタさんが来る頃からお昼に魔力切れを起こしがちになってた。
仕事が増えてジークの魔力量ですら負担に感じるようになっていた。どれだけユンタさんに関する仕事があるのかはわからない。
とにかくすべてが特別らしく、何をするにも新たなものを用意しなければうまくいかないらしい。
そこで私。白の塔でお昼に残っているのはジークだけだし、いつもジークは私を必要としていた。
「俺だけのために魔力を使わないでくれ。もっといろんな可能性を探してみよう。いろんなことをやってそれでもないならこれでもいいけど、毎日こんなことしていちゃだめだよ」
ジークはそう言うけど私はもう決めてしまったのだ。
白の塔を管理して国のために働いているジークのためになるのは、私的なことではないはずだ。これ以上の仕事はないし、もうジークを手放すつもりはない。
毎日後ろから抱きついて離さず回復の術式を使い続けた。
軽く呪いがかかるくらいに、私がいなければ何もできないようになってしまえと念じながら。
ずっと続けて一カ月くらい過ぎるとジークが
「あきらめた、このままこうしていよう」
と言った。
やった!その頃になると、どちらもお互いが必要で離れられないことがわかっていたし、ずっと一緒に居ようと思ってしまった。
いずれ結婚しようと私の家へジークが来てくれて、私の家族もジークに預けるしかないとわかっていたので婚約を了承した。
あっという間に一緒に住むようになった。
すべてが変わった。
悩むところなどなにもない。私は世界をまるごと手に入れたようにはしゃいでいて、楽しくなった。
ジークはしばらく世界中の悩みをかかえたような顔をしていたけれど、私といるうちに同じくらい楽しくなっていったようだ。