白の塔の魔術師の仕事
「先輩、応接室のお客様にお茶をお願いします」
三カ月後正式に白の塔に配属された、学院では先輩だった後輩にエマがたのまれた。なんでエマが先輩としてここにいるのかわからなくて扱いに困っているが、エマも自分の立場に困っている。
しばらくすると、コネで入ったお茶出しの子という扱いが普通になっていく。
「ケント、いいかげんにしろ!」
ジーク様はほんとによくみている。一瞬だけエマの隣に転移してきただけなのに。
「一日に何回来るんだ、お前は暇なのか?」
よくわかりましたね、暇なんです。今、大国②が内戦中で、騎士団が国境付近に派遣されていて、魔術師も大国②と属国の間で交渉中だ。
それでN国内もピリピリしているし、忙しい。
「もう今日は来るなよ、帰れ!」
わかりました、今日はもう来ませんよ。
わたしとフィルさんは、大国②の草原で、野生の馬を調達するために派遣されている。
朝、草原に着くと大きな野生の馬の群れが走りまわっていたから、どうしようか考えるために、木の下に腰をおろしてしばらく美しい馬の姿を眺めていた。
さぼっていたわけじゃないよ、そこになぜだか父さんが現れて
「ケントはやったことないだろう」
というと、先頭を走っていた馬を呼びよせて、ケントたちを頼むよ、と馬にお願いして帰って行った。
「過保護だなぁ」
なんてフィルさんにいわれたが、ありがたくこの状況を受け入れて、馬に守られている。朝から草原がオレンジ色に染まる晩まで、ずーっと草を千切りながら、お弁当を食べたり風に吹かれたりしていた。本当に暇だったから、エマの様子ばかり気になってしまった。
フィルさんはけっしてジーク様がいる白の塔には近づかない。フィルさんがここにいるなら、一人くらいいてもいなくても同じなんだけどな。
「ユーリとケントは扱いづらい」
なんてジーク様にいわれるが、父さんほどではないと思っている。
翌日からは、騎士団がいる国境付近に砦を作る手伝いをすることになった。話し合いが長引いているせいで騎士団の宿舎が必要になったために、簡単な砦ではなくて城のような大きさの、長期滞在できる立派な建物になる。
きちんとした設計図が配布されているし、資材も大量のレンガの近くに置かれている。予定の時間までには現地の土地の準備が終わって、組み立てる魔法を発動するそうだ。
まだかな、朝から待っているが、お昼近くになるらしい。
「よし、始めるぞ!」
という団長の合図で、基礎部分の石を平らになるように転移させた。
「ケント、設計図通りに積んでくれ」
次の合図で残りのレンガなどの資材を順番に転移させた。
「よし、確認してきてくれ、点検してレイナードのサインをこの紙にもらってくるんだ」
団長にいわれたから砦へ転移した、レイナード先生じゃなくて副団長がいるようだ、久しぶりだなぁ。
フィルさんと砦へ転移すると、騎士団の皆さんと、大国②の地元の方々が敵味方なく並んで待っていた。
「ケントたちが二人でやったの?」
レイナード副団長が不思議そうにきくから、そうです、と答えた。
「この紙にサインをお願いします」
団長のお使いをするために紙を取り出すと、レイナード副団長が声をあげて笑った。
「あははは、ケントはすごいな」
その声を合図に、並んでいた人たちから拍手が始まって、歓声が上がり、ありがとうという声が響いた。
点検のために砦の中に入ると、大きな城の中は立派な宿舎になっていた、うまくできている。
今まで大国②と属国の国境付近の、村の宿屋や料理店のお世話になっていたそうだ。N国の騎士団という大勢のお客は、二つの村の人たちと仲良くなっている。
内戦といっても首都の話だから、国境の村には関係ないようで、元々仲のいい二つの村は騎士団の世話で大忙しだった。
宿舎の完成は国境の全ての人たちの願いで、魔法で建てられた宿舎は奇跡のようだ、とレイナード副団長にいわれた。
気分よく、ありがとうの声に送られて帰ろうとしたが、レイナード副団長に呼び止められた。
「一応城壁を作るようにいわれているから、作ってから帰ってくれないか」
わかりました、追加の仕事ですね、団長から白の塔へ連絡するように言ってくださいね。
明日からは城壁の仕事になる。内戦がひどくならないようにうまくまとめる、と父さんが言っていたから、白の塔では内戦がもう終わるだろうといわれている。
ケントの話はこれで終わりです。読んでいただいて、ありがとうございました。