エマの将来
イーリのスライムの実験が成功したから、無事に?スライムを異世界へ送ると、異世界クラブの活動は落ち着いた。
あんなに夢に出てきて必死に浄化を訴えていた叔父さんは、しばらく夢に出てこない。わたしが転生した使命は終わったのか、と思うくらい会わなくなった。
宿舎での活動も、今回で終わりになる。
「エマさんはこの後どうするの?」
レイナード先生がエマに質問した。
「魔術科にもどりますよ」
「騎士団に手伝いに来てみないか?」
何を言い出すんだ、エマはだめだ。
「先生、エマはわたしたちと一緒に白の塔へ行くので」
「ああ、そうなんだ、ケントたちはもう白の塔へ行くことになってるのか」
白の塔へ行くことにはなっていないが、騎士団になんか行かせられない。
「あの、私は神殿の奨学金で学院に来てますから、将来は神殿で巫女になるかもしれないですよ」
「神殿の巫女だって?ケントはそれでいいのか?」
いいわけないでしょう。
「エマ、巫女候補の子は最初から奨学金で学院へ追いやられたりしないよ、神殿の内部で大切にされてるから」
「なんですって、それなら巫女様のお世話係くらいできますよ」
「神殿は奨学金で出て行ってほしいんだよ、そして白の塔へはフィルさんやローザのコネで入れるはずなんだ、一緒にいこうよ」
「ははは、ケントはフィルやローザのコネで白の塔に入るんだ?」
それが一番確実な方法だ。
「私はコネで白の塔に入るなんて嫌です」
「どうして?すごく給料がいいんだよ」
「ほんとに?それなら入ります」
「あははは、そんな理由で?騎士団も給料はいいんだよ」
レイナード先生はそれであきらめてくれたようだ。もう活動はないから次回の予定は入れずに帰って行った、しばらく会うことはないだろう。
「なんでそんなに神殿に行きたいの?」
「うちは貧乏だから、両親は私を神殿に売ろうとしたんです。売れませんでしたけど」
「売れなくてよかったよ」
「でも神殿へボランティアにいくと、お昼ごはんが食べられるからいつも神殿へ行ってました。家では三食食べられないので」
エマの家は魔法使いの両親だが、プライドがあって普通に就職してもすぐ辞めてしまって、お金がなかったそうだ。
魔力量はあっても、予言は世間では認められない種類の魔法になる。資格をとって魔術師になっていればよかったけど、そうしなかったようだ。
「だから奨学金で学院に入れてもらって、感謝しているんです。おいしいごはんをいつでも食べられるようになりました」
なんてかわいそうなんだ、だからあんなにやせていたのか。
二年生になると、冗談ではなく就職先を考えるようになる。コネで白の塔に入ろうと思っているが、みんなそうしたいようだ。
「ユーリ宰相補佐にいっておいてくれないか」
なんてことをよくきくようになったが、自分ですらどうなるのかわからない。
それでもまだ二年生だから、生徒会の仕事をまじめにして評価してもらおうとがんばった。しかしそれがよくなかったようだ。
「もったいない、それを城内ではケントの無駄づかいというよ」
久しぶりに会ったレイナード先生が、おかしなことをいうと思っていた。
「毎日エマといちゃいちゃしていて目ざわりだ」
エリオットではない生徒会の役員に注意されたりしたのも、よくなかったのかな。
わたしとエマの成績があまりよくなかったのも、わたしがもう魔術科を修了していたのも、エマにこれ以上の魔術科の授業が無意味なのも、全てがよくなかったのだろう。
「もういいから、白の塔へ行ってくれないか」
ある日突然カーク先生にいわれてしまった。
まだ二年生の途中であと三カ月くらい残っていた。コネで入りたいとまで思っていたが、早すぎる。
「どうせ暇にして遊んでいるんだ、もったいないから早くよこせ、と宰相様が文句をつけてきたんだよ。ジーク様たちは反対していたんだけど」
わたしとエマはまだいい、元々入ろうとしていたし。
「なんだって!今までの私の努力はどうなるんだ?」
特待生として薬学の研究で成果をだして、認められつつあったフィルさんが怒っている。
「みんなケントたちが悪いんだろう!」
いや、わたしたちも被害者なんだけど。あと三カ月で卒業して、薬学で認められて城内に就職したかったようだ、かわいそうに。
そんなわけで、わたしとエマとフィルさんはコネで中途採用されて、なんとなく白の塔に入ることになった。
「こんなつもりじゃなかった」
というフィルさんの嘆きをしばらくきくことになる。