イーリの実験
しばらくしてからエマに異世界の未来を確認してもらったが、何の変化もなかった。イーリがいうような、汚染を吸収してすくすくと育つ花は咲いていない。数粒の種だからどこかでやっと芽を出していても、わからないのが普通だろう。
「変ですね、ケントさんの魔法が失敗するなんて」
「こんな微妙であり得ない魔法が失敗するなんて当然でしょう、一度で成功したほうが驚くよ」
二人で確認した異世界はいつもの異世界の少し後の時点で、どんよりした不気味な世界は空気が悪そうだ、花も咲かないだろう。そして気持ち悪いぶよぶよした濃い緑色の変な物体が、みえる範囲のそこら中に落ちていた。これは何だろう?
「花なんて咲いてなかったよ」
「そうか、仕方ないな」
イーリに失敗を報告したが、簡単に納得していた。
「エマにわたしの魔法が失敗するなんておかしいといわれたよ」
「ああ、ケントの魔法は失敗してないよ。別の世界のわからない環境で、この世界の花が簡単に咲くわけがない。浄化が簡単にうまくいけばいいと思ったけど、成功させるつもりじゃなくてとりあえず送ってみたんだ」
その後も浄化ではなくて、異世界の物を転移させる魔法を使っている。傘、やかん、ペットボトル、ハンカチ、硬貨と異世界の物が十階の中央の部屋に落ちて来たが、母さんに確認してみると特別変わったものではないそうだ。
「この確率で物が転移して来れるなら、人もいけそうだな」
なんて怖いことをイーリが言った。
「仮定したことだけど、これは本当にあの異世界との間に道ができている、と考えていいかもしれないな」
わたしはまだ死にたくないし、犠牲者もだしたくはない。
「道やトンネルのような、専門の魔法陣を作って繋げてみたいね。物体の転移の反応がいいから、案外簡単にできるかもしれないよ」
イーリはまじめにやろうとしている。こちらもあちらも回転しながら移動しているから、正確なお互いのタイミングときちんと合わせた方角が重要になる。
そんなことは普段全く考えていないから、イーリのいうことを忠実に守らないとおかしな魔法になりそうで怖い。
いくつかの世界を行き来できるとしたら、時間魔法にくわしくないけど時間って何だろうね。
本当にそんな異世界があるから母さんが来たんだけど、こちらとあちらでは時差が母さんの前半の人生よりも長くあって、後半の人生は過去の世界なのだ。
そしてわたしの前世の叔父さんは、まだ未来の世界の汚染と戦う毎日を過ごしている時点があって、今日も戦う生活を送っているのかもしれない。まだ過去のこの世界からはどの時点も未来で、変えられるのかな。
「異世界に干渉するなんて、イーリがしていることだけどよくないな」
父さんに時間魔法の話をきいていると、急にそんなことをいいだした。
「イーリも少し知っていると思うけど、この世界とあの世界には、神と管理者がいるだろう。この世界の神はそれぞれの地点にいるドラゴンで、管理者は私だ。神の方針と管理者の努力で成り立っているはずだから、別の所からの予想できない力は迷惑になる」
管理者だったのか、管理者って何だろう?
「それでもケントは神の子供で、管理者の努力が足りないか力がないなら、汚染の浄化を成功させるのが転生したケントの使命なのかもしれないな。ユキの弟は管理者ではなくて、本当にただ甘やかされた特別な子供なんだろうね」
「叔父さんはなぜ管理者じゃないの?管理者って何?]
「叔父さんはケントだろう?」
またそんな言い方でごまかされてしまう。
「普通の管理者はその世界を守る責任があるから、無邪気なお願いで汚染することなんてないし、転生して浄化するなんておかしなことにはならない。でもわがままなケントのやる事なら、神はまた許してくれそうだけどね」
まって、わたしじゃないよ、叔父さんだから、そこの違いははっきりさせようよ。
翌日イーリに父さんの話をしに行くと、何かの作業を熱心にしている。
「ユーリのいうとおりだよ、本当は異世界に干渉するなんてよくないな、それぞれの世界の管理者なら迷惑な事だろう。
でも異世界の状況と、神の子供と神の関係からすると、これはわざわざ設定されたケントの使命だと思うんだ。それでこの世界とあの異世界が繋がったと考えられる。自然の流れでこうなっていると思う、あまりにもうまくいきすぎているからね」
そう言ったイーリの手元をみて驚いた。
「それがいたんだ!異世界に」
「ほう、完成より成功の報告が先になったな。これは汚染を食べて成長するスライムだよ、汚染をおいしく食べられるように改良中だ、汚染は消化されてから排出する仕組みなんだ。まだ食べられるけど不味いみたいで、たくさん食べてくれないんだよ」
イーリすごいよ、それはもう異世界でかなり増えている。