異世界家族
イーリのところに来た。父さんからエマの予言の話をきいて、話したいことがあるそうだ。
「私は直接みていないが、ユーリの話によると未来のケントのような人をみたそうだね」
「やっぱりそうなのかな、異世界の未来にいるわたしだったよ」
「ユキの元いた世界のことを知ってる?」
「きいたことない」
「今度きいてごらん、ユキの弟の奇妙な話があるんだ。異世界の神の子供のようなその人は、願ったことが全て叶う力を持っていた」
「神の子供?」
「あり得ない特別な力で自分の世界を発展させたせいで、汚染が進んで世界が滅びそうになった、とユキがいうんだよ、信じられないだろう?」
「それでその人はどうなったの?」
「多分もう向こうで亡くなって、転生してケントになった、と考えると一番わかりやすい。どうだろう、自覚はあるかな」
「ない、とはいえない」
「どうして?」
「夢でみるんだ、魂が揺れて出て行った先で誰かがすごく困っているんだ、何度も同じ景色や人が出てくる。助けてくれって叫んでいるのが誰なのか、自分なのかよくわからない」
「なぜ自分だと思った?」
「自分の魂の中に住んでいる別の誰かがいたから。おかしいでしょう、魂が一緒なんて」
「ああ、そうだね、ケントは異世界の神の子供だったのか、それでケントの巨大で奇妙な力が理解できる」
エマと異世界クラブをつくって研究中だというと、会いには行けないが会員にしてくれ、というから特別会員になってもらった。
母さんに叔父さんの話をきくために、夕食後家族に集まってもらった。
「ちょっと待って、ケントはお茶を飲む?ああ!大変、一人寝かせてくるわね」
父さんに絡まっているちびっこがいるが、気にしていられない。
「母さんがいた異世界のことなんだけど」
「さあ、知らないな、父さんは保護しただけだし、学院に通えるほど頭がよくなかったから。ケントが一番魔法にくわしいだろう?」
おい宰相補佐!白の塔の魔術師に学生が勝てるわけないでしょう。
「ケントも知ってるだろう、なんとなく魔法を使ってるだけだから」
この人扱いにくいってきいたことあるけど、これだよ。なんなの?
「ケントごめんなさい、それで話ってなにかしら」
「ああ、母さんの弟、叔父さんがわたしじゃないかってイーリがいうんだけど」
「まあ、そうなの?ケントは弟なのね」
「息子ですよ、母さんは異世界から来たんでしょう」
異世界に一番くわしいはずのわたしの家族って、なんでいつもこんなにだめな感じなのかな。
「母さんは来ただけだからよくわからないわ、そんな力もないし。ケントになった弟の力で来たのかしら」
「それならケントのせいだ、ケントがよく知っているはずだろう」
「知っているわけないでしょう!」
これ以上きくのはあきらめた、全部わたしのせいにされる。
翌日の放課後、魔術科へ行こうとしたらエリオットによびとめられた。
「ケント、また生徒会に入らない?」
入るわけないでしょう、またエマがひどい目にあったら大変だ。
「エマがケントと一緒なら入ってもいいってさ、一緒に仕事したいらしいよ」
勝ち誇ったようなエリオットの顔には腹が立つが、エマと一緒に?
「すごくいい考えだね、喜んでやらせてもらうよ」
「ははは、ケントってわかりやすい」
異世界クラブがやりにくくなるけど、こんなにいい話を断ることはできない。
生徒会で雑用係になったわたしとエマは、仕事を始めるために生徒会室に来た。
「エマ、なんで生徒会に入ったの?」
「ケントさんがいるからですよ」
わあ、なんだかうれしい。
「ケント、エマと一緒に早く行ってくれ!邪魔だ」
「ケントさんって意外と自分の気持ちを隠さないんですね」
ローザ、なんだって?
「ケントさんに一般常識は通じませんよ」
エマ、どういうこと?
普通に魔法で掃除をした後で、エマと予言をみてから家に帰った。
なにかあるかと警戒しているが、中等部の頃とは魔力量のせいで魔法使いのクラスメイトがかなり入れ替わっていて、誰かを特別扱いすることはなくなった。
自分の魔力量を増やすことに精一杯で、他人を気にしていられないからだ。王城勤務か、その他の魔法の仕事か、普通に就職するか、ほんの少しの魔力量の違いが将来を変えてしまう。
みんな大人になってきていて、エマと一緒にいても誰にも何もいわれない。何から隠れていたのか、周りは落ち着いていて何ごともない。
でもエリオットとローザだけはものすごく目立っている。