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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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エマの警護

 魔術学院の高等部に入学して半年過ぎた。

 中等部の二年ときに一カ月くらい関わっただけの女の子、エマを毎日ずっと警護している。予言ができる子でずいぶん迷惑をかけてしまったが、二年以上毎日本人に気づかれないように危険から守っている。


 でも話しかけたり、会ったりすることはできない。わたしが近づいたせいで、ひどいいじめにあってしまったから。


 高等部に入ってからはいじめがなくなっているから、もういいのかもしれないが、エマを守るのは当たり前のようになっている。


 二年もずっとみていると、小さな女の子は少し大人っぽくなって、身長も伸びた。

 それでも魔術科では小さいほうで、目立たずおとなしい。クラスでは地味でおとなしくて、大きな魔法を使えない、いつも読書をしている女の子だ。声を出すことはほとんどない。


 でもエマがとてもしっかりしていて、他人に頼ったり守られたりするのをよしとしない、自立した女の子だって知ってる。きちんと話をすれば、まじめでお人好しなのにかなり頑固で、人の意見と対立すれば受けて立てるって知ってる。


 知ってることはたくさんあるのに話せない、この状態にも慣れた。でもいつになったら話せるんだろうね?


 中等部のころうっかり生徒会長になって、その役からずいぶん立派な人だと思われていたらしい。妹以外そんなことをいう人はいなかったが、エマがいじめを受けるくらいには、急に誰かに何か特別な力がはたらいて、わたしを特別な人に仕立て上げてしまった。


 それから二年、今はその特別な何かの力が全くなくなっている。わたしはごく普通の、特別優秀でもない薬学科の一年生だ。


 最初は薬学に興味があり、薬草を使っていろんな薬を作るのが楽しくて、知識がどんどん増えていった。

 でも専門的になりすぎてからは、現実的ではなくなっていった。まず貴重な素材を集めるのに無理がある薬や、えげつない効果がある薬は、習っても実際には作れない。そんな無理をするよりも、魔法を使ったほうが簡単にできる。


 すっかりやる気をなくして成績が下がり、なんとなく薬学科に通っている。

 生徒会に入らず、学院内の組織から距離をおいて、目立たず地味にして気配を消している。


 わたしは高等部に入学していない、といわれるくらいに気配を消している。魔術科だったらあまりの魔法の扱いのうまさで目立つだろうが、カーク先生に来るなといわれているので魔術科には行けない。


 薬学科の地味な一年生、それが今の自分だ、けっこう満足している。だからもういいんじゃないかと思う、エマが許してくれてもいいんじゃないかな?


 そう思いはじめたら、魔術科へ行って確かめてみたくなった。最近はあまり近づかないようにしていた魔術科に来て、転移魔法陣の後ろに座って待っている。


 エマが中等部のころ毎日待ち合わせた転移魔法陣に来るのか不安だったが、ずっと気配を消していたのに気づいてくれたようだ。


 「ケントさん?高等部に入学していたんですか、制服を着てますね、お久しぶりです」


 「ああ」


 「予言のことはしばらく様子をみようといわれて、その後何年もお会いしませんでしたね、お元気ですか?心配してたんですよ。高等部には入学してないってうわさになってましたよ、どこで何してたんですか?」


 「普通に中等部を卒業して、受験して高等部の薬学科に合格したから通っているよ」


 「えっ、三年のときエリオットさんが生徒会長になってから、学院にいませんでしたよね?」


 「薬学科にいたよ、受験勉強してた。授業に出席してたし、今も毎日出席している」


 「なんで、どうやって?って魔法ですか?誰にも見つからない魔法なんて、あるんですね、わかりました。予言のことはずっと気になっていたんですよ、でも会えないしどうすることもできなくて、一人でいろいろ調べました」


 「自分でもいろいろ調べたよ、エマにはずいぶん迷惑をかけて悪かったね」


 「いいえ、私がいじめられたのは、私の性格のせいでもあります。おとなしくしていたらいじめられなくなりました。ケントさんに八つ当たりして以来会えなくなって、ずっと気になってました。ケントさんのせいじゃないのに、あんなこと言わなきゃよかったって後悔してます」


 「何言ってるの?いじめられたら言わなきゃだめだって、忘れたの?」


 「でも会えなくなったし、あんなに言う必要はなかったみたいです」


 「ずっといじめは続いていたよ、高等部に入るまで。毎日エマがいじめられないようにずっと守っていたよ」


 「え?ケントさん、何言ってるんですか?ずっと探して心配していたんですよ、なんで早く言ってくれないんですか」


 「エマも早く言ってほしい気持ちがわかるよね?」


 「あーもう、変な人だった、今思い出しましたよ。なんで私なんかこっそり守ってるんですか?」


 「顔だけ好きって言ってたよ、気に入ってるって」


 「変にうれしそうですね、ケントさんのこと好きじゃなかったらこんなに心配しませんよ。なんでわからないんですか、私がどう思っても似合わないから、遠慮していたんです」


 「じゃあもういじめはなくなっているから、近づいてもいいって許してくれるかな?」


 「近づくななんて言ってないでしょう?わかりました、いいですよ。ずっと守ってくれてありがとうございました、多分すごく助かりました」


 「当然のことだよ、よかった」



 

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