ジーク様の家
すぐに支度をするようにと言われたので、サシャと白の塔へ帰る。白の塔ではジーク様が待っていた。
「言われた通り支度をしてくれ。出発は早くても一週間後になるだろう。
資料に目を通して打ち合わせをするが、担当者がまだ帰って来てないから今日はもういい。
明日には打ち合わせができるだろうから、明日はここにいつも通り来てくれ。
短い間できちんと教えてやれなかったな。俺の力不足でうまくいかなくて悪かった。もっと守ってやれると思ったんだがな」
昨日からずっとジーク様は悲しい顔をしたままだ。やはりずっと守ってもらっていたらしい。
「ありがとうございました、ジーク様には感謝していますよ」
「物わかりがよすぎてこっちが納得できないうちに行ってしまうな。
嫌なら嫌だと言うんだぞ、遠慮するな。自分のことは自分で守れよ」
「はい」
ジーク様と別れてサシャと図書館へ向かうことにした。サシャのお姉さんに謝ってしまおうとしてさがすが、なかなか見つからない。
「サシャのお姉さんは今日休みなの?」
「いいえ」
もしかしたらわたしに会いたくないのかもしれないな。
自分は本当に化け物だったのかもしれない。ジーク様はどれほど守ってくれていたのだろう。
「ユンタさんが悪いわけじゃない。姉が弱いだけ」
サシャにそういわれてはもう会えないのだろう。
「じゃあ本当にすまなかった、と伝えてくれるかな」
「わかった。私からも少し話がある」
めずらしい、サシャからの話など今までなかった。
びっくりしていると外へ出ようといわれた。サシャについて歩くと、中央塔の隣の立ち入り禁止区域に入っていく。
(サシャ?ここは宰相様なしでは入れないはずだけど)
居住塔のちょうど真ん中くらいの高さで止まり、誰かの部屋に来ている。サシャがカギを開けた。
「どうぞ」
「え?おじゃまします」
(サシャって何者?)
最上階より少し狭いが黒っぽい家具の落ちついた部屋で、明るい光が射し込んで海が見える。ここもすばらしい眺め。
サシャがお茶を淹れている。
「ここってサシャの部屋?」
「まだ私のではなくて、ここはジークの部屋で私たちは今ここに住んでいる。 ジークと婚約していることを、ユンタさんには知っていてほしかった」
といって、なんだかサシャは照れている。
いやいやいや、ジーク様とサシャ…ですか。
「ねぇ、ジーク様とサシャっていくつ違うの?サシャって何才なの?」
「15才年が離れている。私は今17才」
それっていいの?だまされてないのかな。なんでジーク様?
わたしの方が近くにいたし、年も近いよ?ちなみにわたしは今21才だ。今さら言っても遅いけど。
「私はもうすぐ18才になるから大丈夫。まだジークには言っていないけど、私は今妊娠している」
はあ?それ、今わたしに言ってしまっていいの?
「だからすぐに結婚すると思う」
ジーク様無視ですか、いいのかな、いろいろと。サシャにとって重大なことですよね?ジーク様もね。
「多分ジークの子供は魔力量が多いはず。ユンタさんは少し安心していいかもしれない」
わたしのために子供つくったってことはないよね?
もしかして、わたしを安心させるためにここによんでくれたってこと?
いろいろまちがってますよ、サシャ。だいたいその子大人になるの20年後でしょ?
「サシャ!!」
と扉を壊す勢いでジーク様登場。どこからつっこんでいいやら。
いきなりサシャを抱きこんでこちらをにらんでいる。
「こんなやつ、部屋に入れちゃだめだろう?」
えー、こんなやつですか、さっきのジーク様はどこ?
「ジーク、私がよんだから入ってもらったの。きいて、私おなかに子供がいるの。怒らないで」
「…本当?」
「本当。ジーク、愛してるわ」
「ちょっと待って!お前、もう帰れ!」
わかりましたー、失礼しましたー。
はー、そんなことになっていたのね、びっくり。サシャってすごい。知りたいような知りたくないようなことだったな。
サシャのびっくりな、なぐさめ?のおかげで、いろいろなことはもうどうにでもなれという気分になった。
ありがとう、サシャ。
いつまでも慣れてくれなかったけど、良い同僚だったよ。
でもね、こだわるわけじゃないけどジーク様の方が随分年上だし、こわいし魔力量も大差ないし。
なんでわたしに慣れてくれないのかなぁ、納得できない。
もしかしてジーク様がわたしに慣れない為の何かをしていたのかもしれない。うわぁ、それってどうなの?ペア組ませといてさ。そんなことないって信じていい?ジーク様?
でも今ちょっと罪悪感あるから、それもこれもなんかどうでもいいけどね。