1周年記念回 People who exceed Exceeds
――インド洋 資源調査プラント――
煌華学園が京都で《希望の闇》と遭遇していた頃、インド洋でも二つの組織が武力衝突を起こしていた。
「はあぁぁっ!!」
開けたヘリポートの上。長い黒髪を後頭部で結わいた女が勢いよく振った剣先から、無数の光弾が標的に向かって飛翔していった。
標的の金髪の男はその場から動かずに指を宙に走らせ、周囲に突き刺さった十数本もの剣を操作して迎撃する。
光弾は迎撃してきた剣を例外なく砕いていったが、標的に命中するまでには至らなかった。
「削れた! フリッツ!」
「あいよ!」
無線で指示を受けた男――フリッツが、ヘリポートの傍にそびえる鉄塔の上から狙撃し、さらに能力で風を起こして矢を加速させた。だがそれも光弾同様、命中する前に撃墜されてしまった。
「今っすよ、レナ!」
「了解!」
仲間の合図によって、少し離れた位置から力を溜めていた肩まで伸びた金髪を持った女――レナが真技を発動した。
「なるほど。僕の手札を削った上での真技ときましたか。初歩的な連携とはいえ、良い判断ですね。」
男は敵対するグループの戦略をあっさり見抜くと、腰に携えていた剣をヘリポートに突き立てた。
「万剣は我が手にありて輝きを増す。
真技発動。〈血肉を喰らう魔剣〉!」
男が真技を発動すると、突き立てた剣の周りでヘリポートそのものが歪み、金属部品が剣と一体化して別の剣となっていった。
「嘘でしょ!? ヘリポートが……剣に!?」
黒髪の女が見ている前で、剣は禍々しいオーラを放つ黒紫色の魔剣へと変貌した。
男はダインスレイブを引き抜くと正面をレナに向けて堂々と構えた。さながら勇者を迎え撃つ魔王のように。
(まさか正面から受ける気なの?
いえ、いくら相手が《万剣の創造者》とはいえ、オーディンの槍を体現した上に雷を付加したレナの槍を、防げるはずがないわ。)
「大丈夫よレナ! やって!」
「ええ、いきますわよ!
〈最高神の聖槍〉!」
レナは助走をつけて高く飛び上がると、空中で体を大きく捻って槍を投てきした。雷を纏った槍は電撃を撒き散らして男の胸元へと一直線に宙を抜ける。
「届いた!」
「えぇ、届きました。我が剣にはね。」
男は不敵に笑うと、魔剣ダインスレイブで聖槍を受け止めた。聖槍から放出される電撃が周囲にほとばしるが、男はそれらを周囲の剣を避雷針のように用いて防いでいた。
「良い真技ですね。帯電できる以上の電気を槍に蓄えるとは、よほど洗練に洗練を重ねたのでしょう。
ですが、残念ながら僕本体にはまだ届きませんね。槍はお返ししましょう。」
男はダインスレイブのオーラを高めると、力業でレナの聖槍を打ち返した。
「そんなバカな!?」
男の並外れた膂力とダインスレイブの禍々しいオーラで弾かれ、槍は宙を舞うとヘリポートに突き刺さった。
「レナの真技が通用しないなんて……。
仕方ないわ、クルト!」
「おう、任された!」
黒髪の女の指示を受け、フリッツの傍で待機していた筋肉質な男――クルトが鉄塔から飛び降りた。
「〈戦神の加護得し鎧〉!」
クルトが空中でそう叫ぶと、ヘリポートに散らばっていた男の剣の残骸がクルトに張り付き、形を変え、白銀の鎧を形作るプレートへと変化した。
自分の剣を奪われた男は不愉快げに眉間にシワを寄せる。
「……僕と同じ力ですか。」
「うおぉぉぉぉ!!」
クルトは減速せず、籠手に装着された盾を男の脳天目掛けて垂直落下していく。
男はダインスレイブのオーラを解放してクルトの落下に備えた。がその隙を突いて黒髪の女が動いた。
「〈極夜を照らす超新星〉!」
女の剣先から発射された光球は太陽の如く耀きながら、無防備になった男の脇目掛けて飛んでいった。
二方向、うち片方は真技に狙われた男は、流石にその顔に一瞬の焦りが浮かんだ。
「まさか、次から次へと連携を繋げていくとは。
あなた方になら、これを見せる価値がありそうですね。」
男はクルトの直撃を受ける刹那、周囲には聞こえないほどの声量で真技の名を口にした。
と、次の瞬間、黒と白のオーラが辺り一体を包み込み、鎧を着たクルトすら吹き飛ばした。
「な、何!?」
「ありゃ……反則だろ……」
オーラが収束した男の周囲には白いオーラを纏った聖剣と、黒いオーラを纏った魔剣が円を描いて漂っていた。
「僕がこれを使ったのは2回目です。しかも普通の《超越者》相手に使ったのは初めてですよ。」
「……それも、真技なのね?」
黒髪の女の問いに、男は「その通りです」と答えた。
「真技、〈世界を統べる神器〉。この真技によって生成された聖剣、魔剣は正真正銘の本物です。
この世の全てを斬る聖剣、デュランダル。
裏切りの象徴たる妖刀、千子村正。
炎の巨人が守る魔剣、レーヴァテイン。
湖の乙女から授かりし王の剣、エクスカリバー。
僕はこれら全てを、代償なしに扱うことができる。そして地面がある場所なら、地中の金属から全ての聖剣や魔剣を作り出せる。」
男はエクスカリバーと村正を手に取ると、二刀流の構えをとった。黒と白のオーラが竜巻のように舞い上がり、絶大な加護を剣が持ち主に与える。
「それが僕、アーサー・ヴァンドールの《覚醒者》としての能力です。」
「覚醒者……」
想像を逸脱した魔力と、聖剣と魔剣から放たれるオーラを前に、黒髪の女は玉のような脂汗を流した。
「まずは貴方からですね。」
男――アーサーは脚全体の筋肉ををバネのように縮めると、弾性力を利用してクルトに接近した。
「その粗末な鎧は僕の剣です。」
アーサーは左手に持った村正のみねを下に向けると、刀の重さを感じさせない軽やかな動きでクルトの鎧を叩き割った。
「っ!! 真技で作った鎧を破壊しただと!?」
「驚くことではありません。《超越者》と《覚醒者》、その実力の差はこれほどであるということです。」
アーサーはそう言い放つとデュランダルを振り下ろした。唯一残っていた武装である盾型の《創現武装》で防ごうとしたのもむなしく、クルトは盾ごと聖剣の刃に切り裂かれた。
「クルト!」
レナが倒れゆくクルトのフォローに向かったが、同様に前に出たアーサーの正拳突きをみぞおちに食らった。
「ぅぐっ!!」
声にならない悲鳴を上げたレナは手にしていた槍を取り落とし、その場にうずくまってしまった。
「槍使いに対しては間合いの内側に入ることが出来れば、大抵の場合は一撃を入れることが出来ます。
聖槍を体現したあなたの槍は素晴らしいですが、本物の聖剣と魔剣には及びませんでしたね。」
「この……っ」
レナは立ち上がって反撃しようとしたが、膝に力が入らずそのままうつぶせになってしまった。
「さて、後は―――」
アーサーはデュランダルと正宗を手放すと、続いてエクスカリバーとレーヴァテインを取った。
「上にいる彼とそこの君だけですね。
……もっとも、彼はもうチェックメイトですが。」
「何を根拠に―――」
言ってるの、と続けようとした黒髪の女の視界で鉄塔が不自然に揺れた。
「え?」
何が起きたか理解する間もなく、次の瞬間には重い金属が擦れる音を響かせながら、鉄塔がいつの間にか斜めに入っていた切り口に沿って滑り始めた。
「っ!! フリッツ!」
黒髪の女は塔の上にいたはずの仲間に無線で呼び掛けたが、返ってくるのは雑音ばかり。肝心の音声は聞こえなかった。
(さっきクルトを斬ったときに斬撃を飛ばしていたのね……。)
仕事上、数々の《超越者》を相手にしてきた黒髪の女の、剣をつかむ手のひらに汗がにじんだ。
「……ここまで敵を怖いと思ったのは久しぶりね。」
「恐怖は人を成長させる特効薬になりますよ。
さて、あなたは今までの3人の中で1番の強者だと見立てた僕の目は間違ってますか?」
「それはあなたの力量を持って確かめるべきでしょう?」
「違いありませんね。」
アーサーは軽く笑うと、エクスカリバーとレーヴァテインのオーラを高めた。
「アーサー・ヴァンドール。僕はそう名乗りました。形はどうであれ、貴女も剣士の端くれなら名乗るべきでは?」
剣士としての礼儀を欠かさないアーサーに、黒髪の女は敵ながら少しだけ敬服した。
「えぇ、そうでしたね。
大西洋治安維持条約機構《ASTO》、実働部隊隊長リーザ・ヒイラギ。
新世代世界平和保持条約に乗っ取り、国際指名手配者アーサー・ヴァンドール。あなたの身柄を拘束するわ。」
「なるほど、ASTOの実働部隊でしたか。そのリーダーとなれば、少しは楽しめそうですね。」
「楽しませる前に、終わらせる。」
黒髪の女――リーザは剣の柄を両手で握ると、目を閉じて意識を集中させた。リーザの周囲で空気が渦を巻き、光の粒子がリーザの全身を覆い始める。
ついさっきまでの様子とは変わったリーザに、アーサーは自分と似た魔力を感じた。
「まさか、あなたも―――」
「えぇ、多分あなたの予想通りよ。
聖槍をも体現できるレナを差し置いて私が隊長でいられる理由、それは私もその境地――《超越者》をさらに越えた存在へと至っているからよ。」
「くっ!!」
想定外の事態に焦ったアーサーはレーヴァテインを振り、十文字の火焔を繰り出した。
リーザは体操選手のような身のこなしで火焔をくぐってかわすと、アーサーの懐へとその距離を縮める。
「やあぁぁぁっ!!」
リーザはアーサー、ではなくその手に握られたレーヴァテインに向かって剣を振り下ろした。
リーザの狙いに気付かなかったアーサーは、防御しやすい位置にあったレーヴァテインでリーザの剣を防いだ。
「〈魔剣殺しの聖剣〉発動!」
アーサーが策略に嵌まると、リーザは準備していた真技を発動した。光の粒子が剣身に集まり、輝く刃となってレーヴァテインを切り裂いた。
「レーヴァテインが!?」
ラハイヤンでリーザを牽制すると、アーサーは使用不可となったレーヴァテインの残骸を投げ捨てた。
「神話を人が越えるなんてこと……有り得るはずがありません!」
リーザを脅威と判断したアーサーは、真技ではなくエクスカリバー本来の能力を行使した。
「騎士王の剣よ
我が道を妨げし者に鉄槌を下せ!」
アーサーが呼びかけるとエクスカリバーの剣身が伸び、10メートルはあろうかという巨大な刃を持つ大剣となった。
「おおおぉぉぉぉぉ!!!!」
リーザの頭上から重量に任せて振り下ろされたエクスカリバーは、それだけでもとてつもない圧を伴っていた。
が、リーザは臆することなく半歩踏み出すと3つ目の真技を発動させた。
「〈常夜に煌めく隕星〉!」
次の瞬間、アーサーの視界からリーザの姿が忽然と消え、背後に殺気を感じた。
「後ろか!」
振り向いてエクスカリバーで凪ぎ払おうとしたアーサーだったが、リーザが《覚醒者》に至っていたことに焦っていたせいで、自分が何を持っているのかを忘れていた。
10メートル相当の剣は持ち主の急なベクトル変更に付いていけず、ヘリポートに斜めに突き立った。
「しまっ―――」
「やあぁぁっ!」
真技によって光速より1割速く動けるリーザにとって、アーサーの動きが止まった一瞬は一撃を入れるのに十分な時間だった。
文字通りに目にも止まらぬ速度で打ち出されたリーザの回し蹴りは、アーサーの脇腹に深々と突き刺さり、その身体を吹き飛ばした。
衝撃でエクスカリバーから手を離したアーサーは、ヘリポートの淵まで転がった。
「バカな! どんな攻撃からも、剣が僕を守ってくれるはずなのに!」
アーサーが内臓にもダメージが入った脇に手を当てて振り向くと、リーザの傍で小刻みに震えているデュランダルが視界に入った。
「聖剣が纏っているのは白い光。ならば《覚醒者》である私が、同じ《覚醒者》の武器が放つその光を操れない道理はないわ!」
リーザの言う通り、デュランダルは主の元に飛ぼうとしているが、自らのオーラの動きを固定されているために動けない状態にあった。
「さぁ、魔剣を使ってもまた破壊されるのがオチ。
そして恐らくあなたは戦いの理論や常識に関する知識は人並み以上に持っているけれど、なぜか単純な攻撃しかしてこない。きっとそれは実戦経験が少ないからね。
となれば、これ以上戦ってもあなたに勝ち目はないわ。
投降しなさい、アーサー・ヴァンドール。」
リーザの推理は正しかった。
実戦経験が少ないわりに勝率は高く、相手はほぼ非《覚醒者》ばかりだったアーサーにとって、このような本格的な戦いは初めてに等しかった。
エクスカリバーの取り回しのミスも、その経験不足が原因で引き起こされた事象だった。
「……正直、今まで接近戦をしたことがあまり無かったもので……あなたの言う通り接近戦なら勝ち目はありそうにないですね。」
「なら投降を―――」
「いや、僕も1人じゃ無くなったのでね。それは無いですよ。」
そう謎のセリフを述べたアーサーがニヤリと笑った。
「どういうこと?」
「上を見れば分かりますよ。」
アーサーの言う通りリーザが上を見上げると、太陽を背に一機の航空機が降下してきているのが見えた。
航空機はヘリポートのすぐ真上まで来ると、エンジンの向きを変えてホバリングし始めた。
「!! 新手!?」
(マズいわ。もう時間が……)
航空機の貨物ドアがゆっくり開くと、空中で留まる機体から薙刀を携えた長身の女がヘリポートに飛び降りてきた。
「アーサー様。随分と苦戦していらっしゃるようですわね?」
「仕方ありませんよ。相手は僕の苦手な接近戦を得意にする人です。」
自分の未熟さを笑いながらそう言うアーサーに長身の女も笑っていたが、その後の一言でその顔から笑みが消えた。
「それに……彼女は僕らと同じです。」
「……あら。それは完全に想定外ですわね。」
長身の女は薙刀を振ると刃に炎を付加した。大きさこそ小さい炎だったが、数メートル離れたリーザですら顔を背けたくなるほどの熱を帯びていた。
「初めまして、此方は李 華永。
それで、貴女も《覚醒者》なのですか? 光使い様?」
「リーザ・ヒイラギよ。あなた方以外で唯一の《覚醒者》を前にした感想はどう?」
と、リーザは単純に自分の得ている情報にのっとって質問したのだが、ファヨンはリーザの勘違いに吹き出してしまった。
「……ふ、うふふ。貴女、まさかご存じないのですか?」
「何の話?」
ファヨンの言った意味が分からなかったリーザは眉をひそめた。
「煌華学園の《銀氷の剣士》。彼も未完成とはいえ、《覚醒者》に最も近い存在ですのよ。
他人の助力がありましたが、それでもブースターを投与した《希望の闇》の戦闘員を撃破したのですわよ。」
「ブースター……《希望の闇》の開発した薬物を知っているということは、やはりあなた達は関係性があるのね。」
「まぁ、出身が同じですから。
と、お話はここまでですわ。どうやら時間切れのようですし。」
ファヨンの視線の先では、リーザの救援に来たヘリコプターが近付いて来ていた。
「アーサー様、撤退しますわよ。」
「分かりました。
リーザ・ヒイラギ。いずれあなたとは決着を。」
「ちょ、待ちなさい!」
リーザはファヨンが乗ってきた航空機に乗り込もうとする2人を止めようとしたが、ファヨンが放った炎で妨害されてしまった。
「しつこい女は嫌われますわよ。では、ごきげんよう。」
2人を収容した航空機は、やって来たヘリコプターと入れ違いにプラントをあとにした。
敵が去ったことを確認すると、リーザは魔力を落ち着かせた。
「任務……失敗ね……」
「全滅するよりかはよかったんじゃないっすか?」
リーザが背後から聞こえた声に振り返ると、肩に裂傷を負ったフリッツがヨロヨロと歩いて来ていた。その手には本部との連絡手段であるスマホ型端末が握られていた。
「なるほど、援軍を呼んだのはあなただったのね。」
「そういうことっす。そんなことより、お二人さんは大丈夫っすかね?」
フリッツは倒れて動かないクルトとレナを見やった。リーザは2人の元に行くと脈を測った。
「えぇ、大丈夫そうよ。
レナは気絶してるだけね。クルトの出血も治まってるわ。」
「ならよかったっすね。隊長はどうっすか?」
「正直もう倒れそうよ。制限時間無しの、本物の《覚醒者》を相手にしたことなんて初めてだもの。」
「隊長は奴らと違って、まだまだハーフボイルドっすからね。」
「うるさいわね」と笑いながら突っ込んだリーザにフリッツも短く笑い返した。
「さて、話は変わって。隊長、奴らの話はどうやら本当らしいっすよ。」
「というと?」
端末を操作したフリッツは、ある画面を表示させてリーザに手渡した。
『氏名:坂宮 涼也
所属及び校内ランキング:煌華学園・6位
能力:《自然干渉系》氷能力
武装:剣型武装ミステイン
真技:〈閃々たる銀世界〉
〈雪白に輝く巨塔〉
備考:観察対象』
「これは……坂宮涼也の情報?」
「そのようっすね。
『ヒースネスで開催された《煌帝剣戟》煌華学園予選において、覚醒の片鱗と思われる力を確認』ってことらしいっすよ。」
「片鱗?」
「覚醒に必要な条件を完全には満たしていない、とのことっす。」
「なるほどね……」
(必要な条件……)
リーザは学生時代に自分が覚醒した時のことを思い出した。
カナダ、アルバータ州カルガリーの郊外。
初夏の雨が雷を伴って激しく降っていた夜。
日本刀を携えた黒ずくめの剣士がリーザの見ている前で背後から少女を突き刺した。
心臓を貫かれた少女は目に涙を浮かべ―――
「ごめんね……お姉ちゃん……」
「――長、隊長? どうしたんすか?」
我に返ると、反応がなかったリーザの顔をフリッツが覗き込んでいた。リーザは額から首筋に伝った冷たい汗を拭うと、軽く両頬を叩いた。
「何でもないわ、大丈夫よ。」
そうこう会話しているうちに、フリッツが呼んだ援軍のヘリが到着した。援軍の部隊長はヘリから降りるなりリーザに敬礼した。
「ヒイラギ隊長、ご無事でしょうか?」
「えぇ、この通りよ。この怪我人2人を先に搬入してくれる? 私達は後回しでいいわ。」
「あの隊長、一応自分も怪我人っすよ?」
自分も後回し組にされたフリッツは肩の裂傷を見せるなり、わざとらしく擦った。
「あなたは並みの《超越者》よりタフでしょ? 不公平だと思うなら、狙撃主なのに頑丈なわが身を恨むことね。」
「へいへい、了解っすよ。」
一行が乗り込んだヘリが石油掘削プラントを離れようとしていると、リーザの端末に本部からの指令が入った。
「もう新しい指令? 少しは休ませてほしいわね。」
悪態をつきながら端末のメッセージフォルダを開いたリーザは目を疑った。
『至急、日本国京都市に向かうべし。
目標はカーラベイン・ゲゼルの逮捕または抹殺。煌華学園生徒、坂宮涼也との接触及び情報収集。』
「おっと、早速彼と接触っすか。」
リーザの端末を覗き見たフリッツも『坂宮涼也』の名前に反応した。
「見ての通りよ。インド支部に着いたら私とあなた、それにリサの3人で京都に行くわよ。止血しているとはいえ、深傷を負ったクルトは置いていくわ。」
「了解。」
指示を出したリーザは、フリッツがやったように坂宮涼也の情報を端末に出した。
詳細欄には『家族関係はいたって良好』『友人関係において現在問題は見当たらず』とあった。
「私は大切なものを守れなかった絶望の中で覚醒した。
なら、あなたはどうなのかしら。坂宮涼也さん。」




