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氷炎の皇剣伝(ブレイド・ストーリー)  作者: Orca Masa
第1章 私立煌華学園 入学 編
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第5話 トップと目標

――煌華学園 職員室――



 俺の悪い予感は一瞬にして否定された。


「まだ入学して1日と経ってないのに、いきなり決闘試合を行うなんて……。


 こんなの聞いたことありませんよ……。」


 俺たち武術A組の担任、船付柿音先生は机に突っ伏して頭を抱えていた。


 どうやら先の決闘は校則違反ではないものの、入学初日にしたこともあり、一歩間違えれば血気盛んな素行不良に見られる可能性があるらしい。


 そうなればもちろん責任は教師にある。


 入学式で何を教えたのかなんて追及されたら……「死なないように頑張ってください」って言いました、としか言えないだろう。


「それに坂宮君、あなたまだ《創現武装》の登録済ませてないでしょう? 本来その用事で呼ぶつもりだったんですから……。


 部屋に帰ったらやってくださいね?」


「あ、そうだった。わかりました。」




「失礼しました。」


 職員室を出るとユリが心配そうに待っていた。


「大丈夫だった?」


「《創現武装》の登録の催促だったから大丈夫だよ。……まぁ決闘試合については、頭抱えてたけどな。」


「……そう、ならよかった。」


「おう。んじゃ寮に戻ろうか。」


 飯も十分に食ったし、荷ほどきしなきゃいけないしな。


 そう思って寮に戻ろうとすると、キョトンとした顔でユリが訊いてきた。


「あれ? 夜ご飯は?」


「え? さっきの飯でかなりまともに食ったから要らねーよ?」


「えー……」


 ユリがあからさまに肩を落とした。俺もラノベに出てきそうな鈍感系男子ではないので、流石にある程度予想はつく。


「もしかして一緒に食べに行きたかったのか?」


「まぁ、ね。リョーヤのこと、まだ色々聞いてないからお話ししたくて。」


 ならそう言ってくれれば良いのに、なんて言うと拗ねそうだから言わないようにしよう。


「いいよ、行こっか。俺も別に忙しい訳でもないしさ。」


「いいの? ありがとう!」


 満面の笑みを浮かべたその顔は、俺が見てきた笑顔の中で上位に位置するだろう。




――煌華学園 食堂――



 さっき来たときにはよくメニューを見ていなかったから分からなかったが、ここの食堂は週に1日だけ、普段より比較的豪華なスペシャルメニューが追加されるらしい。


 ただ、今日は入学式があったので全てのスペシャルメニューが特別に頼めるようになっていた。


「和牛ステーキ大根おろし添えに、黒豚のミルフィーユ風トンカツ、比内地鶏のあっさり唐揚げに、天然フカヒレの溶き玉子入り中華スープ。


 なに!? とちおとめとあまおうを贅沢に使ったパフェとか凄くない!?」


「いや、凄いけど……。


 まさか全部食うなんて言うなよ?」


「~っ! べ、べべべつにそんなこと思ってないし!?」


 ツンデレを演じてるのはバレバレだぞ! というセリフは心の中で叫んでおこう。それにしても全部食べるつもりだったとは……見た目からは想像もつかないくらいのすごい食欲だな。


「俺はメロンソーダだけでいいや。」


「コーヒーとかじゃないの? 男の子ってそう言うイメージがあるんだけど。」


「どんなイメージなのかってツッコミはさておき、俺の体質に合わないんだ。昔飲んだら目の奥がじんじんしてさ。」


「あーなるほど、仕方ないね。


 あっ私は和牛ステーキにしよっと!」


 ……ちゃんと聞いていたのかこの人は?




 食事をしながら――とは言ってもユリだけだが――お互いの身の上話をした。


「リョーヤって16歳だったんだ! 私と同い年だったのね。」


「ユリも16なのか!


 ちなみに兄弟とか姉妹はいるのか? 俺はひとりっ子だけど。」


「私もひとりっ子よ。両親は共働きで結構寂しかったかな。」


「そうだったのか。」


 俺はユリと違って母さんがいつも家にいてくれた。兄弟がいないからか、俺には精一杯の愛情を注いでくれた。そう考えると心配性なのは仕方ないのかもしれない……。でもちゃんと時に厳しいところもあるのが俺の母親だ。


 ちなみに父さんは普通のサラリーマンをしていて、飲み会で遅くなっても酔い潰れることは無く、家に帰ると母さんの作った晩飯を食べていた。家族を大事にする自慢の父親だと思う。


「ねぇねぇ、そういえばリョーヤって彼女さんとかいたの?」


「!?」


 藪から棒の質問に、飲んでいたメロンソーダを噴き出しそうになった。若干鼻に逆流してかなり痛い。


「い、いねーよ!? 幼馴染みがリョーヤには早いって言って、勝手に俺を恋愛から引き離してたんだから。」


「幼馴染みがいるの?」


「ああ、普通の高校に通ってる。」


「男の子? 女の子?」


「え、女の子だけど。」


「ふーん、その人のこと好きなの?」


「あはは、そういうのじゃないよ。


 あいつ自身俺のことをどう思ってるのかは分からないけど、俺はこの関係で満足してる。


 それに小さい頃からずっと一緒だと、どうしてもそういう……恋愛対象として見えなくなってくるんだよな。」


「ふーん、そうなんだ。」


「お話中ごめんよー、キミが坂宮君かな?」


 男子生徒が声をかけてきた。見覚えのない顔だ、ってことは知り合いではないはずだ。


「え、はい。そうですけど。」


「お、やっと見つけた!」


 話しかけてきた男子生徒は身長が高く、短髪でスポーティーな雰囲気をしている。横に金髪でポニーテールの女子生徒が付き添っている。こっちも少なくとも俺の中では面識はない。


「えっと……どなたですか?」


「あ、僕は3年武術B組のアッシュ・ストラード。そしてこっちが―――」


「2年武術A組のカレン・ローレイスです。」


 年上? なんでここにいるんだ? まぁ食堂だから誰がいてもおかしくはないだろうけど、そういう問題ではない。


「えっと、先輩方が俺に何の用で?」


「いやいや、1年生にすごい才能を持つ生徒がいるって聞いてね。ちょっと見に来たんだよ。」


「はぁ……」


「大丈夫ですよ。別に勝負を吹っ掛けるなんてことはしませんから。」


 カレンさんが笑顔でフォローした。勝負を仕掛けてこようとしないのであれば、大して警戒しなくていいか。


「いや、すごいって言われてもあまり自覚ないんですけどね……。」


「そーなのかい? 僕から見れば逸材だと思うよ?」


「あ、ありがとうございます!」


「これから3年間頑張れ!


 と、せっかくの食事を邪魔しちゃってごめんよ。それじゃあ僕らはこのへんで。」


 そう言ってアッシュさんは食堂の外に歩いて行った。どうやら本当に見に来ただけだったらしい。


「りょ、リョーヤ。今の人……」


 ユリが若干震えている。今の人って、アッシュさんのことだろうか?


「今人って、アッシュさんがどうかしたのか?」


「こ、校内ランク1位のアッシュ・ストラードさんと、8位のカレン・ローレイスさんだよ……!」


 ふーん、あの人が1位……って―――


「えぇぇっ!? あの人がこの学園トップの!?」


「え、知らなかったの!?」


 知らないも何も、まだランキングを正確には把握してなかったからな……。でもあの人が1位だと分かれば第1目標は―――


「目指せ打倒アッシュさん!」


「ちょっとリョーヤ! 声が大きいよ!


 ていうかこの一瞬でなにかを決断したらしいけど、早まらない方がいいよ!?」




――煌華学園 学生寮――



「確かに、1位はあの人か。」


 部屋のベッドに横たわって生徒手帳を確認すると、校内ランク1位の欄には確かにあの人、アッシュ・ストラードさんの名があった。


「やっぱり、とりあえずの目標はこの人を超えることだな。」


 俺がここに来た理由、それは毎年12月に行われるヒースネス最大の祭典、《煌帝祭》で行われる《煌帝剣戟(ブレイド・ダンス)》で優勝する事だ。


 《煌帝剣戟(ブレイド・ダンス)》は煌華学園と修帝学園両校の予選を勝ち抜いた上位4人が競い合うイベントで、5戦中3勝取ったチームが優勝し《皇王軍ブレイド・エンペラーズ》という称号を得ることが出来る。


 そんな大会で優勝するには、まずはこの学園のトップを取らないと夢のまた夢だ。


「明日から頑張ってくか!」


 と意気込んだ時、生徒手帳の通知音が鳴った。学校の個人宛システムメールのようだ。


『坂宮涼也様


 《創現武装》の登録が済んでいません。《創現武装》にこの手帳をかざし、登録を行ってください。』


「あ、忘れてた。」


 俺は起き上がって細長い巾着に入った自分の《創現武装》を手元に寄せた。手帳を巾着越しに当てると手帳から電子音がした。どうやら一瞬で読み取ったようだ。


 登録ボタンを押すと俺の《創現武装》は巾着を残して学校の倉庫に転送された。転送された《創現武装》はこの生徒手帳で呼び出すことが出来るようだ。


「さぁてと、明日こそは余裕をもって登校したいし、そろそろ寝よっかな。」


 そう言ってパジャマがわりにしている自分のジャージに着替えるべく、上体を起こした時だった。


 ピンポーン


 誰かが玄関のチャイムを押したようだ。そろそろ寝ようと思っていたのに、誰だろう。


「はいよー」


 扉を開けると―――


「……ちょっと、いい?」


 俺は目を疑った。何故ここ――男子部屋のフロア――にユリが立っているんだ?

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