episode2-1
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「うーーん、空気はあまり良くないみたいね」
ヴィアは伸びをしながら答えた。隣国とはいえ互いの城から城までの距離は遠い。ここはまだティスカの首都とは遠い場所で町の名は【ナキリカ】という。漂う空気はまさに悪臭。
「ヴィア様、身分を隠して登城するのですから、大人しくしていてください」
「あら、エクル、大口叩くようになったのね。陛下に告げ口するわよ」
「はあー、あなた様という人は」
エクルは手を腰と頭に当て深いため息をついた。エクルの心配をよそにヴィアは1つの店に入った。
「ヴィア様!」
「エクル、諦めろ、あと身分隠してるって主張するなら、様つけるのやめろ。ヴィアと、シアンと呼べ」
「そーよ、エクル。それより早くお店入りましょう」
「シアン様……ヴィア様……そんなの無理ですよ」
呆れ顔をするエクルの肩にフィオラは手を置いた。そのままエクルの袖を引っ張ってヴィアとは少し離れた場所で耳打ちをした。
「いつものことだから、慣れて」
「はい、わかったよ。そうだな、いつものことだもんな」
エクルに快活な笑顔を向けられてフィオラは少し呆れたように眉根を寄せた。
「ねー、おばさまこれ2つちょうだい」
ふとヴィアはそこにいた1人の老人に声をかけた。いかにもそこにあるりんごを買いに来たみたいな様子で。
「ああ、いいよ。100ジグで手を打とう」
「100ジグね、分かったわ」
(100ジグとは日本円で10000円)
ヴィアは値段を聞いた瞬間でさえ、1つも表情を変えずに、お金を払った。シアンはりんご2つにしては高すぎるその値段に訝しげな表情をとった。ヴィアはりんごを2つ受け取ると、2つとも近くにいたぼろぼろの兄弟に上げてしまった。
「お腹空いているでしょう?」
「こ、こんなのいらない!バカにすんなっ!」
兄弟の兄の方がすごい剣幕でこう答えた。ヴィアが口を開きかけた時、エクルが前に出てその少年に話しかけた。
「君たちを馬鹿にしたわけではない。これはヴィアのいや、彼女の好意であるとともに、俺からの推薦状だ」
意味がわからないというように少年は一歩あとずさって何か奇妙なものをみるような目でエクルを見た。エクルは胸元のポケットから紙を取り出した。
「ここから先のパタトゥライア王国にある
【ナリアバ騎士団】を訪ねてみなさい。この地図を持っていけば、話を通してくれるはずだから。君を助けたわけではないよ、これは挑戦状。君がここにたどり着けたら君の勝ち。無理だったら負け。その時はここでのたれ死ぬしかないけど」
「………俺たちを選んだわけは?」
「直感」
エクルは何の気なしにそう答えた。少年はエクルから紙を奪うと、思いっきり頭を下げた。
「分かった。俺は弟と生き延びたい。だからここに向かう」
「その意気だ。がんばれよ」
エクルは少年の頭を乱暴に撫でて、微笑んだ。