episode1-3
「まだまだね、シアン。陛下の戯言なんて綺麗に躱さないと」
おいおい、陛下のお言葉を戯言なんて言えるのは、この国であんたと母上ぐらいだぜ。シアンは心のなかでこっそりつぶやいた。彼だって実の父親とは敬語なしで話したいと考えているが、まだその度胸を持ち合わせてないだけである。
「そうですね。精進します」
それに、いつからだろうか。言いたいことをのみこむようになったのは……。そんなシアンを見透かすようにヴィアは彼の目をじっと覗き込む。
「あんたも馬鹿ね。エクルと一緒。だから仲良しなのかしら。羨ましいわね」
「姉上もフィオラと絆が深いように見えますが」
「ふふ、そうね」
ヴィアは5歳違いの弟にむけてほほえんだ。フィオラもヴィアを見つめてほほえんでいた。
「ヴィア様、そろそろ執務室に戻りましょう。お仕事がたくさん溜まっていますよ」
「あら、もう行くの?エクルと話さないでいいのかしら?」
エクルは顔を真っ赤にしてフィオラを見つめる。反対にフィオラは怪訝そうな顔を彼に向けた。
「次また会うとき剣の手合わせ願います」
「ああ、私でよければ」
シアンは笑いを耐えられなくなって吹き出した。どうしてこうもエクルという男は不器用なのか。ヴィアも続くように笑いエクルは1人、自分の心を必死で落ち着かせようとしていた。