episode1-1
国の中で1番高い位置にある街【カズル】は深い深い森の中に位置している。空気がとても澄んでいて夏の星空は他の国では見られない圧倒的な輝きを放つ。余談だが天文学者が多く住んでいるのもこのためである。
国全体が見渡せるその街の高台が俺のお気に入りでたびたび城を抜け出してはここにきて息抜きをする。しかしシアンの余暇を邪魔するように、革靴独特の足音が階段に響く。
「王子ーー!シアン王子ーー!!」
「エクル、うるさい!王子と呼ぶなと何度言ったら分かるのだ!」
俺の身分を盛大にひけらかす馬鹿ーーシアンはエクルのことを心のなかで小馬鹿にした。エクルはシアンの側近の1人である。シアンが10歳のころ出会ってから6年たち、エクルは今26歳だというのに10歳も年下のシアンに敬語を使っている。まあ、それは王子と家来という身分上仕方のないことかもしれない。
「では、なんと呼べばよろしいのですか?」
「シアンと呼べ」
「そ、それは恐れ多いので、聞けない命令です」
「お前、絶対出世しないタイプだな。で、用件は?」
本題に戻ろうとエクルに話を振ると彼は思い出したように慌てて話し始めた。
「ここでは、話せませんので王城へ戻りましょう」
「お前が俺に敬語を使わなくなったらその意見を汲もう」
「王子!そのような場合ではないのです!」
「………わかっている。冗談だ。その話の内容は大体予想がついている。すぐに、戻ろう」
###
「エクル、遅いっ!」
「すみません、騎士長」
どうやら到着予定時間より半刻も遅く着いてしまったらしい。シアンは頭をさげるエクルをみてさすがにいたたまれなくなり、騎士長の説教に割って入った。
「いや、俺のせいだ。すまない。ニチカ騎士長」
「王子も気をつけてください。大広間にて陛下がお待ちです」
「分かった」
陛下にお会いするのであれば誰でも正装に着替えなければならない。それがこの国のしきたりである。シアンがそれを面倒だと思ったことはない。ただ、彼が我が儘を1つ言うとすれば陛下は自分の親とはいえ相当な変わり者であるのであまり1人では会いたくない、ということ。
「エクル、お前も着がえろ」
「………」
「返事は?」
「………はい」
エクルは陛下にいろいろ遊ばれるのであまり近づきたくないらしい。シアンは主人に愚痴をこぼすあたり未熟だなと思いつつ、実はエクルが自分を頼ってくれるところが気に入っていて、それは長年側近を変えない理由の1つでもある。