おまけ
結城センセイが、菅野と三枝くんに、高校生の頃に異世界に召喚されそうになった顛末を語っているだけの話です。
本編とは関係ない、完全なおまけです(※長文注意)。
「そういえば、先生も以前、異世界召喚されそうになったことがあるって聞きましたけど」
「あー、昔ね。そんなこともあったよなぁ」三枝の質問に、結城が遠い目をしながら答えた。
「そのときも、今回みたいに事前にわかってたんですか?」
「うんにゃ。突然召喚されちゃって、『あーらびっくり』って感じだったな」
「……よく逃げられましたね」
「うーん……。一緒に召喚されかけた相手が、相手だったからな……」結城は苦笑する。
結城が通っていた中高一貫の学校には、種族の違うマレビトが何人かいたが、最初のうちはお互いに気づかないままだった。が、中に一人、高確率でマレビトを見分けられるヤツが混ざっていて。ある程度学校になじんで、互いの人となりがわかってきた頃に、それぞれに声をかけはじめたのだという。
「そいつが、話しやすいっていうか。まあ、気も合ったんで。いつの間にか、他のヤツらも一緒に、つるむようになってって」
その時できた”マレビト人脈”が、その後けっこう役に立ったのだそうだ。種類の違う異能持ちも何人かいて、いつの間にか協力しあうようになっていったらしい。
「今回も、それが生きたというわけですか?」
「まあ、そうだな」
* * * *
「俺が召喚されかけたのって、高校生の頃なんだよな」結城は語る。
「一緒に召喚されそうになったのが、高校の寮の同じ階のヤツで、たまたまマレビトだったんだよ。ちょーっと珍しい純血種の」
彼らは、同族同士でしか子供が作れないとかで。仲間の数が減っていって、そいつが最後の一人になるかもで。そのせいかどうか、持っている異能は強い方だった、らしい。
「その頃はまだどういうヤツか、詳しくは知らなかったから。ただ、おとなしいとか穏やかとかって印象しかなかったな」
例の、”マレビト探知機”な友人を通して、知り合って間もない頃で。お互い様子見の段階だった。
そんなある日。寮の連中に頼まれて、そいつと一緒に買い出しに行く途中。怪しくビカビカ光る召喚陣に、二人して一緒に囲まれて。気が付くと、やたら天井の高い石壁に囲まれた部屋にいた。
前方の、けっこう離れた場所に。大勢の人に囲まれて、華美な椅子にふんぞり返って偉そうにしゃべっているおっさんがいたのだが。しゃべっている声が全く聞き取れない。
わけがわからず、ぼーっと立っていると。
「携帯の電源、切ってもらえるかな?」
「……はぁ?」
隣に立っていた、一緒に召喚されたヤツに唐突に言われて、とっさに反応できなかった。
思わず首をかしげていると。
正面でふんぞり返っていたおっさんの取り巻きらしい、こわもての、いきりたった男に詰め寄られ、いきなり剣を向けられて。
「え? ええっ、ちょっと待ったぁぁぁっ!」
ーーもしかして、おっさんの言うことを、俺たちシカトしたみたいになってる? 無礼打ちとか?
結城は焦って止めようとしたが、振りかざした剣を、そのまま振り下ろされてしまった、のだが。
途中で、剣が見えない何かにさえぎられて、切られる羽目にはならなかった。
「……え?」
訳が分からない現象に、思わず隣を見ると、特に気にした様子もない。
……こいつが、何かやっているのか?
剣を持った男は、何やらわめいているようだった。相変わらず聞きこえないが。
再度切りかかってきた剣が、またはじかれるが。ーー心臓に悪い。
「どうなってんだ! おい、倉本!(←一緒に召喚されたヤツの名前だ)」
「携帯。電源、切ってくれた?」
「な……、この状況見ろよ! 携帯がどうの言ってる場合じゃ……」
指さしついでに前方を見ると、……おい、ちょっと待てよ、おい!
おっさんの隣で、杖を持ったような男が、何か唱えているっぽい?(←聞こえないが)
で、空中に何やら、でっかい炎のようなものが浮いている、ような気が?
男が杖を振りかざし、でっかい炎が勢いよくこっちへ……こっちへ!!??
ひ、ひいぃぃぃぃぃっ!!
「結城! 携帯っ!」
「あ、は、はいいっ!」
倉本に強く言われるままに、ポケットから出した携帯の電源をオフった、次の瞬間。
--結城はなぜか、日本の茶の間っぽい部屋にいた。
目の前には、ちゃぶ台にふすま。木のタンス。足元には畳。
石の壁も、ふんぞり返ったおっさんも、いきり立った男も、影も形もない。
……な、んだ……?
結城が茫然としていると。
「雅也くん? どういうつもりなのかしら?」二十代後半くらいの女性が、部屋の入り口に腕組みして立っていた。
「あ! 弥生さん、ただいまーーぐふぅっ!」
女性を見て、声をはずませて駆け寄った倉本が、張り倒された。
「ど・う・い・う、つもりなのかしら?」
女性の静かな声に、怒りがにじんでいて、かなりコワい。
「勝手に人ん家に空間を繋げて、勝手に知らない人を連れ込んで。しかも土足で上がりこむって、どういう了見なのか、聞かせてもらえるかしら?」
言われて、結城は思わず足元を見る。買い出しの途中だったので、当然、靴を履いたままだ。
「ーー聞かせて、もらえる、かしら?」
一応笑顔なのに、目が笑ってない、女性の低~い声に。
「ああああ、あの、すみませんっ!」
慌てて靴を脱いで頭を下げたのは、倉本よりも結城のほうが先だった。
「異世界召喚? されたのね? ふぅん」
女性は倉本の再従姉で。倉本の妹と一緒に、その祖母の家に住んでいるそうだ。
話を聞いて少し冷静になったらしく、口調も迫力のある低音から、普段の話し方らしい、おっとりと柔らかいものに変わっている。
「なのに、そのまま帰ってきちゃったの。困るわねえ」口調はおっとりと柔らかいが、言っていることはけっこうひどい。
「困るって……。弥生さん、僕が帰ってこないほうがよかったの?」倉本が情けない声を出す。
「そうねえ。異世界なんて、生態系も違うんだもの。変な病原菌とかに感染してたら困るでしょう?」
「大丈夫だよ。異世界の空気には触れないように、空間を分けておいたから」
「そう? じゃあ、唯菜ちゃんに伝染ったりしないのね?」
「……僕より、妹の心配って……。いつもながら、僕の扱いひどすぎない? これでも未來の夫なのに……」
「そんな予定は皆無だって、いつも言っているのに、困った子ねえ。そんなことより、こちらはどなたなの?」倉本の発言をさらっと流し、結城の方を見て言う。
「弥生さん、スルーしないでよ……」
早い話、倉本は空間系の異能持ちで。異世界召喚された先から、自分のホームグラウンドである祖母の家へと、空間を繋げて戻ってきたのだった。
持っている力が強いせいで、かなり遠方にもつながってしまうため、再従姉からは常々、『あまり変なところには繋げないようにしてちょうだいね。未知のウィルスなんか持って帰るようなら、この家から閉め出さないといけなくなるもの』と言われていたそうだ。
召喚されていたときに、異世界の連中の声が聞こえなかったり、剣がさえぎられたりしていたのは、妙な菌に感染症しないよう、とっさに空間を遮断していたから、だったらしい。
「しかし便利な能力だよな。離れた場所をつなげられるんなら、買い出しもそれで行けるんじゃね?」などとからかう結城に。
「それはちょっと……」倉本は困ったように。「昔だったらそれもよかったんだろうけど。今はどこに監視カメラとかあるかわからないから、うかつに使えないんだよ。うっかり携帯の電源入れたままだとしゃれにならないしね」
監視カメラの場合、不自然な画像が残るのではという不安要素があるし。携帯電話は、位置情報を基地局に逐一伝えるため、異能を使った移動とは相性が悪いのだという。確かに、数千キロも一瞬で移動した記録など、残すには危険過ぎだろう。
「で。あなたたち、これからどうやって戻るのかしら。ここから寮まで、バスを乗り継いで二、三時間かかるんだけど」のんびり、穏やかな口調で、女性が指摘する。「買い出しに出たまま、そんなに長時間戻らなくても大丈夫なの? そもそも、召喚されている間にけっこう時間が経っていたら、あなたたちもう、行方不明扱いになっているんじゃない?」
「え……?」
「あ……」
* * * *
「その後が大変だったんだ」結城は、げんなりした様子で三枝に語っている。
「うかつに携帯の電源入れられないんで、倉本のばーさん家の家電で、寮の窓口経由で連絡とって、例の”マレビト探知機”なヤツを巻き込んで、状況確認だの辻褄合わせだの。異能を使って戻るのに、空間繋いでも問題なさそうなスポットの確認だの。あと、間違っても再召喚されないための対策、なんてのもあったな」
「対策って、今回と同じような、ですか?」
「いいや。あの時は、空間系の異能持ちが、召喚された先を覚えてたからな。また違った対応がとれたんだ。まあでも、その時の教訓というか、異能を使わないと対応できない事態がやっぱりあるということで、その後の”マレビト人脈”ができるきっかけにはなったんだよな」
「なるほど。そういういきさつがあったんですか」三枝が、妙に感心して頷いている。
そんなことより、俺にはもっと気になることがあった。
「結局、その時に召喚された理由って何だったんだろう。なんか、ヒントとかなかったの?」
「……まあ、お前の大好きな”勇者召喚”じゃなかったのは確かだな。これがーー」と、何やら映像を投影して見せる。「その時の召喚陣なんだが」
「え? なに、記録に残してたの?」
「というか。映像系の異能持ちなら、一度目にしたものは忘れないようになっているからな。元素の周期表も歴史の年表も、一目で頭に入ったぞ」
「なんだそれ。チート(ずる)じゃん」
「ずるくない、ずるくない。で、解析系の異能持ちに渡りをつけて見てもらって、わかったんだが。問題は、道具だったんだ」
「は? 道具って、何の?」
「そこは不明だが。要は、あっちの世界にある、特定の道具を扱える適性を持つ人間を呼び寄せるような陣だと。まあ、よっぽど重要な道具だったんだろうな。こっちの世界で言うなら……何だろうな。聖杯とか聖槍とか? 三種の神器とか? よくわからないが。
異世界から召喚するという条件付けもなくて、ただ、あちらの世界に使い手がいなかったんで、俺たちが呼ばれたってことだったらしい」
「それは……迷惑な話ですね」と、三枝。
「まあな。召喚したヤツの言うことを無条件できくような、隷属の呪も入っていたから。空間を遮断?してなかったら、ヤバかったかもな」
結城はさらっと言うけど……隷属の呪、ってナニ……? 異世界召喚、おっかねえ……。ガクブルじゃん。
「で、倉本にもその辺りの話したら、実にイイ笑顔で言ったんだよな。『じゃあ、その道具がなければ、使い手も要らないってことだよね』だと」
「……は?」
「同じ学校にいた、探索系の異能持ちだの、念動力持ちだのを巻き込んだあげく、『きちんと処理してきたから』だと。なんか、祭壇みたいなところに祭られている、神具みたいなものだったらしいが。再生不能なくらいのスクラップにしてきたらしい。……まあ、そのおかげか、再召喚されることはなかったな」
「……その道具って、もしかして……」
「装飾過多な箱だったそうだ。勇者が使う聖剣とかじゃなかったと思うぞ」
「う……っ」考えを読まないでほしい。
「まあ、俺が召喚されたときの顛末は、こんなもんだ。おまえの夢見る、勇者召喚じゃなくって悪かったな」
「あ、そうか。異世界召喚されたかったんだったな、菅野は」三枝に言われて、言葉につまる。なんかそれって……俺がイタいヤツみたいじゃん。
「こういう状況でも、まだ異世界召喚に夢見られるって。ある意味、すごいよな」
「こいつ結構、ツワモノだからな」結城がしれっとして言う。うう、言うなっ!
「先生の知り合いで、異世界に伝手がある人って、いないんですか?」
「いやぁ、心当たりないな。いたとしても、こいつを召喚してくれって頼むのか? ムリムリ」
「そうですか。残念だったな、菅野」結城が、ポンと俺の肩をたたく。
ーーうぐっ。いやもう、異世界召喚要らないです。話だけでお腹いっぱいです。
俺はへこたれたまま、しばらくこのネタで、二人にイジられ続けるのだった。
本編ともおまけとも関係ない話で恐縮ですが。
倉本くんは、「時期外れの子供」という話に出てきている、いたいけな少年のなれの果てです。