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「つまり、詳しい経緯いきさつは、何も説明してなかった、と」なんとなく冷やか~な声の三枝に。

「いや、だって、別に聞かれなかったし?」

 結城はしれっとした口調で答える。

「いきなり、『余計なことしやがって』みたいな言い方されると、俺だってムカつくしぃ?」

「子供ですか」三枝は、深々とため息をつく。


 話が長くなりそうだということで、俺の隣に座った三枝の前にもコーヒーが置かれている。

 三枝が妙に事情に通じているのは、この件で結城に協力を頼まれてたからだそうな。

 正確には、三枝経由で、その身内の異能持ちに依頼したそうだが。『ことわりに干渉する』という意味はよく分からないが、ともかく召喚を阻止できるらしい。さっきの見積とやらは、その依頼のお代だそうだ。

 三枝が俺や結城とは別系統のマレビトだったとは知らなかった。ちなみに相馬もマレビトだから、今回の召喚対象の、マレビト率、高っ!


           * * * *


 そもそもの発端は、結城の悪友だとかいう 未来視さきみの異能持ちが、視えたヴィジョンを売りに来たことだという。

 未来視の異能は、視たいと思って意識して視るより、特に意識していないときに不意に視えることが多いそうで。視えてしまった未來が、結城と関連のあるもの、それもわりと重要そうなものだったので、売り付けに来たとのこと。

 結城は、相手のいい値で買うことにした。売りに来たということは買うべきものなのだろうと、判断できる程度には相手を信頼していたので。

 実際、買って正解だった、と言う。


「え、なに。その買ったのって、この前の異世界召喚の?」俺が尋ねると。

「そうそう。俺の生徒ばっかり五人も拉致られちまったヴィジョン」冗談きついぜ、と結城がつぶやく。

「買っていただいて助かりましたが。でも、競馬情報の『ついで買い』までは要らなかったのでは?」三枝の指摘に。

「何を言う。未来視で万馬券の情報が見れることなんて、めったにないんだぞ。そこは、有難く買うべきだろう」

 なぜか胸を張って反論する結城を、三枝が胡散臭そうに見る。


「で、そのヴィジョンに含まれてた召喚陣が、これだ」結城は持ち前の異能で、映像を空中に映し出した。

「をっ、人間映写機!」久々に見て、思わず叫んでしまったが、スルーされた。

「未来視のヴィジョンをそのままの形で受け取ったわけですか。映像系の異能は便利ですね。普通は、視たものを言葉で説明してもらうしかないんですが。それに」三枝は、結城が映し出した映像を指さして。「こうしてヴィジョンを共有できるというのも面白い」

「まあな。で、こいつを相馬の姉ちゃんに読み解いてもらったんだが。このあたりが」と、陣の一部を指さす。「けっこうタチの悪い呪になっている」

「え? タチが悪い、って?」

「説明するとだな。このあたりが『無力化』とか『固定化』とか、自力で動けなくする呪らしい。こっちが『状態保存』。放置されても、元のままの状態が続くんだと」

「……それって、どゆこと?」

「まあ普通、生き物には使わなさそうな呪だな。状態保存されても、呼吸ができるかとか考えちまうぜ。やつれたり薄汚れたりとかはしないんだろうが、命があるかは謎だな。試してみたくもないが」

 何それ、コワイ。


「ちなみに、召喚とかやらかしたのが、こいつ」

 と、結城が映し出したのが。--え? マジですか?

 グラドル系 巨乳美少女、キターっ!!!! 黒いドレスがゴスロリちっくなのが、ちょーっとミスマッチだけど、でも許~すっ!

 俺が前のめりになっているのに気付いたのか、結城がちらっとこっちを見て言う。

「ちなみに、縮尺違うから」

「……はぁ?」

「だいたいお前が、この女の手のひらサイズね」

「はあぁぁっ?」

 映像が切り替わり、彼女が何やら人形らしきものを片手に握って……って! 人形じゃないじゃん! これ俺じゃん!! 俺掴んで、振り回しているじゃん。俺って、マジで彼女の手のひらサイズ?!

 掴んで無造作にひっくり返して、もう片方の手で--って、どこいじってるんだよっ、そこ、触っていいとこと違うじゃん! そのでっかい指で服脱がすのムリだってば。ベルト外せないって! 破れる、破れるっ! めくるのNG!! 引っ張るな、首がもげるってば! やーめーろーーーっ!!!!

「その映像、やめてください。俺も見ていて寒気がするんで」三枝が、ぶるっと身を震わせ。

 すっと映像が消えたので、俺もふーっと息を吐き出した。


 コレクターなんじゃないか、というのが結城やその悪友の推測だった。

 人間というより、精巧な人形を召喚した感覚で集めては、コレクター同士で自慢したり交換したりしているのではないか、と。

 召喚陣に書かれた条件の中には、一定基準以上の容姿の者を、というのも含まれていたらしい。

「そういえば」と、三枝。「前に妹が言ってたな。沿線の高校で上位十人のうち、五人までがうちの高校の俺のクラスにいるって」

「上位って、何の?」

「沿線の女子高校の生徒有志による、イケメン・ランキングだそうだ」

「……はぁ?」

「そういえば、今回召喚されそうになったやつの名前も出ていたな。菅野のことも『残念な美少年』とかって言っていたような、いないような」

「残念ってなんだよ、残念って」

「まあ、異世界の審美眼が日本の女子高生と同じかどうかはわからんが」と、結城が適当なことを言ってから、改めて俺に向かって。

「そんなわけで今回と今後の召喚を阻止したほうがいいかと思ったんだが。おまえがどうしても異世界召喚されたいって言うんなら--」

「わーっ! 前言撤回っ! 召喚阻止してくださいーっ! お願いしますっ! お願いしますっ!」

 俺が、結城の前でスライディング土下座をしたことは言うまでもない。


「これにこりたら、状況もよく確認せずに判断するのは止めることだな」結城にしたり顔で言われ、むかついたが反論できなかった。召喚阻止の代わりに、結城の担当教科の成績アップまで約束させられてしまった。

 見せられたあの映像がトラウマになって、異世界召喚に夢も希望もなくなって、趣味のラノベも読めなくなったし、女の子がちょっとコワくなってしまった。それで今までお世話になっていたグラビアも見られなくなってしまうし、今後いろいろと支障がありそうな予感が……。

「はぁ……勉強しよう」



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